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あなたの事業に情熱はあるか。

べンチャーキャピタリストをやっていると、業界を知らない人から「華やかそうで楽しそうな業界ですね」と言われることがある。

それはそうだろうと思う。この業界では”日々何億円のファンド設立した”とか、”あのスタートアップが数十億円調達した”などの大型調達ニュースは枚挙にいとまがない。

しかしシリコンバレーで起業家を養成するYコンビネーターのポール・グレアムによると、Yコンの卒業生でさえも、”事業が失敗する確率は93%”だそうだ。およそ成功確率は”10社に1社”と言うことになる。華やかに見える世界だが、現実は想像以上に厳しい。

仕事柄、一度も資金調達を受けたことがない、いわゆるプレシードの創業者と面談することがある。彼ら彼女らは自らのサービスに最大限の自信を持って、VCである私たちに会いにくる。サービスの内容は実に様々だ。

自分が熟知する分野から、全くわからない未知の分野など領域は多岐に渡る。理解できないものに投資をするかどうかの議論は別の機会にして、本日はスタートアップの創業者が”自身のサービスを続けるかどうかの覚悟”に関して話をしたい。

toC向けのサービスを開発したAさんとは約1年前にお会いした。ご自身が長く携わる業界の中から課題を見つけて開発したサービスで、事業の中身はサービスを提供する人と、サービスを受けたい人のマッチングをする、いわゆるプラットフォーム型のサービスだ。

当時はまだユーザー、サプライヤーがともに数名程度のサービスで、これからプラットフォームを拡大して行くというステージだった。

この領域で本当にペインがあるかどうかを議論したのち、サービスのサプライヤー側は自身の出身業界から見つけてくることが出来ると言うことだったので、どうやってユーザーを増やしていくのかと言う質問などをした。

最終的に投資判断は見送らせて頂いたが、Aさんとはそれ以降もSNSで繋がっていて、投稿を見ていると、他社との連携等が早期に決まるなど、一見サービスは順風満帆そうに見えていた。

そんな中、久しぶりに「白石さんとお会いしたい」と言う連絡を頂いた。

以前お会いしたよりも少し痩せていたAさん。「事業は順調そうですね。」のコメントに対して想像もしていない回答が返ってきた。

”いや、思っていたよりは順調ではないんですよね。1年やってみたものの、ユーザーが思っていたよりも伸びてこない。もう少し続けてみたい気もしているが、自分を騙しながらこの事業を続けていくべきか正直悩んでいる。”

Aさんの話を聞いて、今よりも少しだけ事業を成長させる自信はあった。ただ無責任にアドバイスをして、いたずらに事業を続けるさせることが良いことだろうかと、悩む自分がいた。

経験上、”自分自身が情熱を傾けられないものを続けることは難しい。”と思っている。と言うのも過去に新聞販売店のエリアマネージャーをやっていた時に、悩む経営者を引き止めた事で、余計に経営を悪化させた事がある。

誰かに継続することを勧められ、何とか続けることは出来る。ただ必ず最後は上手くいかない。自責ではなく「言われたから続けている。」と言う他責に意識が変わって行くからだ。

一方、他責ではなく、自分の判断で、かつ目指すべきゴールを具体的に設定していた経営者は辛い時期を幾度と超え、最終的には目標を達成していた。これは新聞販売店の経営者だけでははなく、ベンチャーのCEOにも共通すると思っている。

要するに、創業者自身にやる気がある場合は、自分が納得いくまで続ければ良い。(そこでサービスの内容が変わることに問題は全くない)

なぜなら本人に覚悟があるので、受託でも何でもできることをしながら、自身を納得させ、市場にフィットする新たなサービスを開発していけるチャンスがあるからだ。

ただし、本人がやる気を失っている場合は難しい。と言うのも、自分自身を騙すことは出来ないからだ。自分のサービスを愛しているからこそ、様々な苦労も乗り越えていける。

自分のサービスに”思い入れがない”状態で続けることは苦しいのだ。

これは過去の投資先での実体験もあるが、ツイッター社立ち上げの一人、ビズ・ストーンがその著書の中で、過去に立ち上げて失敗した事業において同様のことを指摘している。

”僕たちにはスタートアップを成功させるのに必要な要素が欠けていた。(中略)僕たちにはこれにかけたいという思い入れがなかった。自分たちが作っているものを好きになれなければ、自分自身が熱心なユーザーになれなければ、どんなにほかをうまく進めたとしても、その仕事はおそらく失敗する。”
                『ツイッターで学んだいちばん大切なこと』

結局、Aさんには”今のサービスに情熱がわかないのなら、続けない方が良い”と伝えてしまった。それが正解だったかどうかはわからない。とにかくいたずらに続けて欲しくはなかったのだ。

後日、Aさんからは”言われてむしろスッキリしました。誰かに言って欲しかった。次もまた新たなサービスを考えたい”と連絡があった。

Aさんが新たな事業計画を持って、また我々のところに相談に来て貰えるように私自身も情熱と覚悟を持ってこの仕事を続けていきたいと強く思う。


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