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幼馴染の結婚式


式の前日は眠れなかった。
ものすごく眠かったのだけど。
いざ準備を始めると、諸々心配になって。

ご祝儀袋の書き方とか、
結婚式用のハンカチとか、
袱紗の使い方とか、
クロークと受付どちらが先とか、
挨拶のマナーとか、
カトラリーの使い方とか、、

そこまでちゃんとやってる人はいないって聞くけど、調べ始めるとこれで本当に間違ってないかな、なんて生真面目になってしまう。

この年齢にしてわからないことだらけだった。


それでも朝はちゃんと早起きして、ヘアセットのために美容院へ。お会計で機械が故障して焦るも、なんとか時間に余裕を持って到着。むしろ少し早過ぎたくらい。

天気は少し暑いくらいの快晴だった。

まだ待合室にも数人しかいなくて、
ひとり胸を高鳴らせながら座る。


挙式前に受付だと思ってたのに、受付場所が見当たらなくて、近くに座っていた人に確認すると、「きっと披露宴の前ですね」と。

その人も知り合いがいないようで、しばらく世間話してくれたお陰で、少し緊張がほぐれる。


挙式が始まると、5年ぶりに会う彼女の姿が。

わたしはただ無心で見つめていた。

こんな日が来るなんて、という感慨深さも少しあったけど、どういう感情だったのか自分でもよくわからない。


披露宴の座席表を確認すると、わたしの名前の上にだけ、「新婦友人」ではなく「新婦幼馴染」と書かれていた。それがなんだか特別な気がして、嬉しかった。

席に着くと、ネームカードの裏にメッセージが。びっくりするくらい小さな字で、手紙並みに長い文章が手書きで描かれていた。


「留学してからなかなか会えなくなっちゃったけど、小さい頃はよく一緒に遊んだね。会えば楽しすぎて、夜中まで喋ってたね。いつもお別れするのが寂しかった。。これからも末長くよろしくね。」

ざっくりそんなことが書かれていた。わたしですらこのところ忘れかけていた、昔の記憶。彼女は懐かしいエピソードのひとつひとつを、今でもちゃんと覚えていてくれた。


でもやっぱり彼女も少しばかり気まずく感じているのか、披露宴でも目が合うことはほとんどなかったし、ゆっくり話す時間もなかったけど。

その手紙ひとつで、「幼馴染」の肩書きの優越感だけで、来て良かったと思えた。人数合わせなんかじゃないと確信できた。むしろ疑った自分が恥ずかしく思えた。

数人のスピーチの後、彼女が両親への手紙を読む番に。けど彼女の手紙は、両親宛てではなく、本日のゲスト宛てだった。


なんでも、最初は結婚式は挙げないつもりだったらしい。けど彼女は彼女の母に「これまでお世話になった方々に感謝できる機会はこの先一生ないよ」と言われ、挙式を決めたらしい。

「だから今日は、両親ではなく、皆様に向けて手紙を書きました。」


要約すると、

「もしこれまでの選択がひとつでも違っていたら、皆さんに出会えていなかったかもしれない。わたしの人生に関わってくれてありがとう。」

そんなことを言っていた。思えば彼女は昔から明るくて、(幼馴染のわたしは涙も見てきたけど)なかなか人前で暗い顔をしないタイプだった。

いつもあっけらかんとしていて世渡り上手に見える彼女の、新たな一面が見えた気がした。


ゆっくり話すこともできなかったし、後日お礼のラインは来たけど、今後もしばらく会う予定はなさそうだ。

それでも、大好きだった人が今もどこかで元気に幸せに暮らしてる。そのことだけで十分だと思えた。今はそばにいなくても。前みたいに爆笑できなくても。辛いことを共有しなくても。

元気でいてくれたら、それでいい。それだけで嬉しい。そんな感情を教えてもらった。

直前まで迷って、いろんな不安と緊張があったけど、行って良かった。ウェディングムービーに出てくる幼少期の彼女はとても可愛くて、わたしの記憶そのままで。


まるで昨日のことのように覚えてる。

「るるちゃんだいすき!」

太陽みたいな笑顔でそう言ってくれた彼女を。



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