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手仕事がつくる風景




以前のコラム「光のかたち」でもご紹介した、フィンランドの古都トゥルク。今回は、市街地に残された古い美術館を巡りながら、かつての手仕事の痕跡を辿ります。

まずは、薬局美術館。



当時、この家には貴族が住んでおり、ある時期においては街の薬局でもありました。

家の中には18-19世紀のロココ様式やスウェーデンのグスタビアン様式のインテリアがいまだに現存しており、当時の生活を記録する場所として非常に歴史的価値が高いです。


薬局だった頃のノートや薬瓶。ひとつひとつに個性があり、「もの」としての魅力に溢れています。


200年ほどの時が過ぎた今見ても、優雅さや高貴な雰囲気が感じられるのはなぜでしょう。ゆらぐガラスを通った光が、ぼんやりと室内を照らします。


部屋の窓から。アウラ川沿いのおだやかな昼下がりの風景です。


化粧台や時計、蝋燭台も残っていました。どれも、草花の曲線を用いた装飾が施されています。



たくさんの薬瓶が置かれた調合室。お客さんの症状を聞きながら、秤を用いて薬の調合していたようです。


ガラスメーカーのカルフラとイッタラの名前もありました。薬瓶の製造をしていたのでしょう。


すぐれた計算機も機械もまだない時代。薬を調合することも、ガラスをつくることも、秤をつくることも、相当な技術が必要だったはずです。

ひとことで「手仕事」と言っても、現代における手仕事とは意味も役割も異なるものだったのでしょう。



続いては、手工芸博物館へと向かいます。


先ほどの建物が貴族層の家だったのに対して、こちらは職人たち、つまり庶民層の住まいだった建物です。








先ほどの家のような豪華な装飾はなく、人々の生活のなかで生まれた自然な混沌が見られます。もちろん、展示のために整えられている部分も多くあるかと思いますが、それでも、置かれた「もの」と「もの」が関係し合っているというか、よく馴染んでいるように思えます。


手仕事がつくる風景には、人間の“リアル”が内包されています。

残された風景を見ていると、「こういうことをしたかったんだな」とか、「こういう会話があったのかな」とか、あとは「こうやって生きていたのかな」なんて想像が膨らみます。たとえ何百年もの時が過ぎていたとしても。


貴族と庶民で暮らしは大きく違っていたのかもしれませんが、それでも「人が、人のために仕事をしながら生きていた」という事実は変わりません。そのたしかな事実、そして歴史の断片を、ここでは存分に味わうことができました。




lumikka

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