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巨峰ミルクティ

 巨峰とミルクティのケーキは、どんな味がするのだろうか。
 ワクワクしながら包みを抱えて帰った。
 マスカットのような香りの紅茶というのは、聞いたことがある。
 私は今まで、巨峰とミルクティを合わせたことがなかった。


 ミルクティの生地に、甘すぎない巨峰が顔を出している。
 巨峰はいい感じに「くたり」としていて、甘すぎない。
 果物の味付けには砂糖を使っていないのだろうか。
 上品な味がする。
 もう少しべったりとした感触を思い描いていたのだ。
 しかし、「超えている」。
 
 巨峰とミルクティが馴染んでいる。
 どちらも、お互いを邪魔することがない。
 これは、すごいことに思える。

 『共存』
 という人間にとっての大きなテーマが頭を擡げる。
 お互い仲良くするにはどうしたらいいのかは、幼稚園や小学校の教室でも話し合うけれど、大人になったって解決できない情けなさを思う。
 ただ、邪魔をしないでお互いを立てることの難しさを考える。

 ミルクティというとアールグレイを思い浮かべるけれど、そうでない。
 あの香りは、このケーキには必要なくて、ただ、シンプルに巨峰とミルクティなのだ。 
 主張の強いものは、全体を壊してしまうことが往々にしてある。
 

 実は、「さつまいもと紅茶にしたものもありますが、どちらがいいですか?」
 と、珍しく店主に話しかけてもらえた。
 すごく嬉しくなって舞い上がってしまい、どちらも食べたいのに、
 「巨峰を。」
 と反射的に答えてしまった。

 しまった!
 さつまいもミルクティにには、もう会えないかもしれない!

 ピスタチオとクリームチーズのブラウニーと、どっしりしたチーズケーキ。
 これも充分美味しいのに、この後悔ときたら・・・。
 さつまいもミルクティが夢に出てきそうだけれど、味わうことはできない。
 ああ、くやしい。


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