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#17 【独り言エッセイ】ラルフローレンのコートと焦げた野菜炒めの味がしたラーメンの日

どうしてもラーメンが食べたくなった。

クリスマス休暇に日本に帰ってくることをまたいつものように突発的に決めて、お父さんと車で出かけた時にサービスエリアで誰かがラーメンを食べているのを見て、日本にいる間に絶対ラーメン食べよう、と決めた。チャーシューが輝いて見えた。

その日は朝から夕方まで用事があって、やっと終わった午後7時。どこでラーメンを食べようか考えながら御茶ノ水の駅を歩いていた。本屋に立ち寄って文庫本を1冊。ラーメンを食べた後はきっと電車に乗って帰るのがめんどくさくなるだろうと思って、最寄り駅まで行ってからラーメン屋を探すことにした。

駅に着いて、さて、ここからどうするか、と考える。正直、夕方から「夜は一人でラーメンに行くぞ」という空気を楽しみ尽くして、満足しかけてもいたから、このまま家に帰ってしまうという選択肢も一瞬掠った。それでも多分満足。でもここまで脳内で温めてきたラーメン、今日はやっぱりちゃんと食べて帰りたかった。

いつも使う方とは反対側の駅の出口は夜に賑わう小さな商店街のようになっていて、いくつかラーメン屋さんがあった。どうせなら慎重に選んで空気まで味わいたい。狭いカウンター席のあるラーメン屋を目指して、いくつか候補店の前を15分くらいかけて2往復して、小さな味噌ラーメンの店に入る。お客さんがまばらにいる感じがちょうどいい。席について味噌ラーメンを一つ頼んだ。待っている間はもう電車の中で半分まで読み進めてしまった小説の続きを読んだ。お腹が空いているか空いていないかもはや分からないが、念願のラーメンなことは確か。「お待たせしました」といって出してくれるラーメンに飛びつく。熱い。味噌。ラーメンの上に乗ったちょっと焦げた野菜炒めの存在感が強い。息を吹きかけながら食べて、気がついたら麺も具も全てなくなっていた。今を感じた。

会計をして外に出ると、頬に触れる空気はさっきまでのラーメン屋の熱気と緩んだ空気とは対称にぴりっと刺激的で、眠くなるのに目を覚ます。お世辞にも今までで1番美味しいラーメンではなかったけれど、念願のラーメンを食べた、という行為まで含めて満足感で溢れている。さっきまでいたラーメン屋とはチグハグな、数年前に背伸びして買って、久々に着ることの出来たラルフローレンのロングコートの重さが急に存在感を出してきて、今更「あ、冬だな」と感じる。駅から家まで自転車を漕ぐ間、ラーメンの味を思い出そうとしたけれど、口の中に残ったラーメンの後味は、焦げた野菜炒めの味だった。野菜炒め強し。野菜炒め剛。

いつも私はノートにTO DOリストを作っている。同時にいろんなことをやるタイプだし、何かをやりながら何かを思いついたりするので、リストがないと忘れてしまう。今回は、日本にいる間のやることリストに加えて、自分をハッピーにする、やりたいことリストも作った。ラーメンもそのうちの一つだ。自分の「やりたい」に応えて自分がハッピーであれるリスト。誰かに見せる為でもなければ義務でもない、気まぐれでなんでもいいハッピーなリスト。そうやって、少しずつ心がポカポカになってチャージされていく。たくさんの人に自慢するんじゃなくて、大切な人に共有したくなる。ラーメンと、ロングコートで、今を感じてハッピーになった夜のこと。

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