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くるくる電車旅 1


8月12日。この日の予想最高気温は、40度。ひたすら電車に乗るだけの小さな旅に出た。
今日の目的は、名鉄津島線に乗ること。

地下鉄東山線で八田まで行き、JR関西線に乗り換える。
八田駅では、電車が出たばかりだった。
時刻表を見たら、一時間に二本、普通電車しか止まらない。次の電車まで、25分もある。
Kindleで、泉鏡花の「夜行巡査」を読みながら待つ。このときの気温は、36.7度。
ホームのベンチは、日陰になっており、風通しも良く、それほど暑くは感じなかった。

来た電車は、二両編成で、車掌さんのいないワンマンカー。混んでいた。
開閉扉の前に立ち、車窓から景色を眺めた。田園風景。ところどころにこんもりした雑木林。その向こうに建ち並ぶ家々。農作業をする人の姿も、遊ぶ子供の姿もない。
八田から四つ目の弥富駅が、名鉄津島線への乗り換え駅だ。

弥富に着いた。名鉄津島線乗り換え表示を見て、階段を上って跨線橋を渡り、階段を降りた。ホームには、須ヶ口行きの名鉄電車が待機していた。

乗客は、まばらだった。対面の長椅子に、ゆったり座れた。窓にカーテンを下ろしている人はおらず、向かいの大きな窓から、景色がよく見える。
発車。普通電車だ。終点まで11の駅がある。駅と駅の間隔は短い。このまま終点の須ヶ口まで乗って行けばいい。
車窓から見えるのは、田園風景。背景に山脈。風景に人の姿はない。
いいなあ、こういう景色が見たかった。
津島の駅前には、タワーマンション。大きな町なんだな。津島神社には何度か行ったことがあるが、電車の窓から街を見るのは初めてだ。古い歴史のある街にも、開発の波は押し寄せている。

甚目寺駅を過ぎたあたりで、ハッと気がついた。弥富駅では改札を通っていない❗️何もせず、名鉄電車に飛び乗ってしまった。改札機なんてなかったから。そういえば、名鉄に乗り換える方は、なんたらかんたらと、車内アナウンスでいっていっけ。
無賃乗車ではないか、これは。JRの料金は、どこで払えばいいのだろう?
もう、車窓の景色どころではなくなった。

須ヶ口に着いた。上の空で名古屋本線に乗り換えた。冷房がまるで効いていない車輌だった。栄生に着く。犬山線に乗り換えた。目的の上小田井まで各駅に止まる。混んでいたか、空いていたか、まるで覚えていない。
上小田井に着いた。ここで地下鉄に乗り換えて、家に帰る。

さあ、改札を通るぞ。
ICカードを改札機にタッチすると、ブーッ。警告の赤い❌印が、表示された。
窓口に行って、カードを差し出す。
駅員さんに、弥富駅でJRから乗り換えてきたと話した。
「わかりましたっ」頼もしい返事。まだ若そうな彼は、料金表を見ながら先輩らしい人と、あーだこーだしていたが、やがて「ここから810円いただきますっ」と、カードの処理をしてくれた。
JRの八田から弥富まで240円、名鉄弥富から上小田井まで570円という内訳だ。
よかった。わたしが恐れていたのは、ここは名鉄だからJRのことはJRにいってくれといわれることだった。

再び改札を通り、今度は地下鉄鶴舞線のホームへ。くるくる電車旅はおしまい。
所要3時間の旅だった。この日の名古屋市の最高気温38.1度。
それにしても、八田から上小田井まで、名古屋市内の移動だから、地下鉄なら一時間もかからない。しかも、わたしは敬老パスだから市内無料。それを、JRと名鉄を乗り継いで三時間もかけてくるなんて。
「どうして、こんなことするんです?」
「趣味なんです、電車に乗るのが‼️」
もしきかれたら、そう答えるつもりだった。でも、きかれなかった。ほっとした。いや、ちょっときいてほしかったかな。


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