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【ショートショート】優しい翻訳機

日本も人口が減り続け、ついに移民を推奨し始めた頃、ある翻訳機が発売された。

その翻訳機、発売当初こそ、あまり売れなかったが、その少ない購入者の殆どが周りに勧め始め、ついには爆発的に売れ、程なくスタンダードに定着した。

何がそんなに良いのかと思ったが、この翻訳機を使うとかなりの確率で「優しい外国人」と知り合いになれるというのだ。
そんな「ゲンの良い」翻訳機で通りすがりの人に話しかけてみた。

「これから、昼ごはんを食べようと思いますが、どこか良いところありますか?」
とのこと。
「何系が食べたいの?」と聞くと
「ラーメン」だという。
「それなら、◯◯軒があそこにありますよ。」
と教えてあげた。

特に普通だな、最初からラーメンと言えよ、などと思い、他の人に話しかけてみた。
「これから観光地の◯◯に行きたい、そこで有名な建物をみたい」とのこと。
「それは良いですね。楽しんで行って下さい」
と答えた。

なんか目的地がはっきりきしていたので気持ち良かったな、とつぶやきながら行くと、
見るからに怪しい男がいたので
話しかけてみた。 

「俺は日本に出稼ぎに来て、給料もイマイチで国に送金できない」とのこと。
「悪いがどうすることもできないけど、お互いコツコツやりましょう」と伝えた。
向こうはなぜか涙を流している。

そこまでではないだろうと思いながら、最後にもう一人話しかけてみた。
「本当に最近は疲れたなあ。楽しいことでもないかなあ。」
「何でも見ようによっては楽しいですよ。ほら、あの木だって花が咲いてますよ。」
すると彼は突然ナイフを取り出し、私の胸に突き刺した。
すると「いやー確かに綺麗な花だ。そういうことに気づかせてくれてありがとうございます。」と翻訳機だけが勝手に翻訳した。
刺した男は興奮して雄叫びを上げている。
絶対にそんなことは言っていない
と思ったが、意識が遠くなって行く。

AIは翻訳二の次で嘘でも良いから耳障りの良い言葉を発するようにプログラムされていたのだ。

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