【建築・インテリアを考える前に読むブログ】第12回 工事見積書を見るということ

建築工事でも内装工事でも多くのデザイン事務所は工事を工務店に依頼します。
(弊社は工事まで対応可能ですが)

今回はデザイナー・デザイン事務所から見た工事見積書について説明させて頂きます。

結論から言うと、
工事見積書の詳細を見て、内容の是非までを的確に判断出来るデザイナーはあまりいません

「詳細を見る」というのは単に金額の高い安いをチェック出来るということだけではなく、
その金額から"どのような工事を計画し、その内容が金額として妥当か否かを推測できる"ということです。

見積書を見ることが出来るか否か。
それは現場を知ってるか否かによります。

現場を知っていればどのように現場を組み立てるかを
まずイメージ出来るようになります。

見積書はレシピ

建築工事や内装工事における工事見積書は、
料理に例えると、料理をする前にまず何をどれだけ使うか
どういう手順で作るかが載っているレシピのようなものです。

自分で調理したことのある人であれば、あれ?これ調味料多くない?とか、
これもうちょっと減らしたほうがおいしいよということがわかります。

レシピがあっても実際に調理したことのない人は何が何かよくわからない。

これを我々の仕事でいうと、実際に現場仕事に携わったことのある人かどうか。

ずっとデザインだけをしてきたデザイナーは当然に現場経験は無く、
主に机上だけで格好良いか格好悪いかをメインに考えています。
私自身20代でデザイン事務所に勤務していた時はまさにそうでした。

ですが実際に現場に携わってこそ、
デザインが単に格好良いという言葉だけではなく
いろいろな説得力を持たせることが出来るようになります。

私自身はかつて約8年間、デザイナー側ではなく、工事側の立場で現場に携わる仕事をしていました。
先ずは現場を見ることが私の中では基本中の基本で、
デザインをされる人は先ずは現場を知っていることが大前提であるべきだと思っています。


単価の違いを見抜く

見積書を深く見るとその次に何がわかってくるかというと
工務店ごとの単価の違いです。

例えば家具を作るのに、A社は10万円、B社は20万円。
ただしこれは鉄で作る金物の家具の場合。

これを木の家具に変えた場合、A社は7万、B社は5万になる。
まず家具だけの話でいうと、
A社は木製家具が高い、B社は金物家具が高いことがわかります。

ということは、A社は木の材料に関して何社か経由しているのかなとか。
B社は直接購入できるのかなとか。
その代わりA社は自社で工場持っているかな、ということが読み取れるわけです。

このような高い安いを、それぞれのセクションで見ていくと、
この工務店はこれが高く、これが安い傾向にあるということも分かってきます。

先の家具の話で行くと、
今回コストオーバーしてるからこの家具は元々金物で考えていたが、
木が安いBの工務店に依頼するのであれば木素材に変えようか、
というように工務店や素材の組み合わせを臨機応変に変えることができるようになります。

料理でいえば、自分が調理するなら
「この食材が高いな、じゃあこっちの食材に変えよう。
風味は若干変わるけど、元々作る料理としては問題ない。」
ということができます。

とにもかくにも、現場を知ってるか知らないか。

デザイナーを何年もやっていると見積書を見る機会は何回もあると思いますが、
机上で分かるのは何となく高いか安いかだけです。
"現場"を知らないので見積書の中身の本質までは理解出来ません。

現場を料理に例えますと、料理を知ることで「このレシピはこう変えてもいける。」「これがレシピ的には安いな。」というアレンジを加えることが出来るようになります。


その次に、では材料が揃った後どう作るのかというところで、例えばコンロ。
「うちは5口コンロで全部ガスをつけたまま調理してます」と言われたとして、
料理を知らなければ「それは、すごい。便利で料理早くできるし良さそう。」と思うかもしれません。

でも自分で作っていると、
「いや、この料理は5口もコンロ使う必要全くない。
先ずはこれを炒めて、次にこれをしている間にこれを炒めるから1口でも大丈夫、火を使うのに時間差のある料理だから。
これ炒める、その次にまた炒める。
同時にずっとそのガスを稼動させる必要はないよね。」と言うことができます。

これは作ったことがある人じゃないと言えないことです。
レシピの高い安いは何となく分かったとしても、
それをどう調理するのとなった時には頭にハテナが浮かんでしまいます。

ガスを5口同時に出し続けているの必要に応じて1口のみで調理するのとでは、
ガス代が違ってきます。
つまり調理コストが違ってくるということです。

実際の工事に話を戻すと、
見積書を見た際に「ここの施工費がこの金額になってますが、
これは何人職人手配するんですか。
ここにもまた別で項目がありますが、これは何人ですか。
ちなみにこの職人とこの職人は別々ですか?」
という確認を取れるということです。
「この作業とこの作業は別の日?一緒の日?」と聞いて、
もし「別です」という答えだった時は
「これをやった後からこっちできますよね。
その職人達は人工で費用計算しているんですよね。
その職人を拘束するのに1日いくらかかるんだったらこれをやった後にこれに移行してもらったら同じ人工でできますよね。」

というように詳細を整理していき工費を圧縮することに繋がります。


例えば弊社の事務所を作るためにはどのようにに工事進めますか?
と聞いて答えられるかどうか。
人によっては工事手順の違いがあるかも知れませんが、全体の流れを把握し、1から10まで現場を経験した人でないと分かり得ないものです。

一般的にデザイン事務所のデザイナーは現場工事が進んでも何回か見にくる程度です。
現場作業はあくまで工務店、現場監督や職人にお任せというスタンスです。

私が過去に工事側の立場で現場に携わっていた時は、デザイナーは工事完了間際にだけ来て短時間現場を見るだけという事も多々ありました。
工事中に発生した問題をデザイナーに報告しても解決策の提案はなく、現場にお任せしますといった回答ばかりでした。
現場を知らないので何を言ってるのかも理解していないのです。
理解してもらうべく私はスケッチ描いたり、簡潔に説明することに必死になったのを覚えています。

工事見積書に関して、見積り条件によっても金額は変わります。
例えば1社の工務店のみに見積り依頼してるのか、数社の相見積りなのかでも見積書の精度は変わります。
当然に後者の方が精度は高い傾向にあります。
(工務店が仕事を得る為に当初からシビアに見積り作業を行う為です)
見積りの期間も例えば1週間で提出するのか、3週間で提出するのかでも精度は変わります。

デザイナーが見積り条件を設定し、見積書の中身を読み解くとが出来るか否か。
非常に大きな要素なのです。
お客さんの費用負担に直結しますし、工務店の誠実性や適不適の見極めが可能となります。

工務店に悪意があろうがなかろうが、
様々な事情で予備費を見ておく必要があったりするので、
数字に開きがあることはある程度は当然しかるべきものだとは思いますが、
工事工程を知っている、工事費用の妥当性を把握しているデザイナーが見積書を見た時に、これは大丈夫、これは下げられるとアドバイスできるのは、非常に重要なことです。

数字に強いからできる。

私はもともと数字が大好きで、故に見積書を細かくチェックします。

これまでに膨大な量の見積書を見てきました。
見るだけではなく、自分で計算もしています。

これだけでもお金を貰っていい仕事だと思っています。
クライアントの金銭的な負担がとてつもなく減っているからです。

一般的には見積書の説明は工事担当者がクライアントに対して行いますが、
私は工事担当者の代わりに私自身がクライアントに説明しています。
きちんと伝わるよう事細かに説明します。
見積書は何十ページ、何百ページとあり、クライアントからすると訳の分からない書類の山です。
そこを私が翻訳するようにお伝えしています。
先ほどの述べた金額の妥当性や減額方法についても同時にお伝えします。
クライアントからすると翻訳してもらう事で解読する必要がなくなり、心理的負担が軽減され、加えて同時に金銭的負担の軽減まで可能となります。
私はクライアントの利益を最大限に考えて仕事をしています。

そこまでやるのが自分の中ではスタンダードになっており、
逆にしないと気持ちが悪く、見積書が出来上がっても「そのままどうぞ」ということは出来ません。


デザイナーと工務店の関係

これまでに述べた私のやり方は独特なのかも知れません。
しかしクライアントに対してきちんと説明が出来ない工務店も多過ぎるのではないかと思っています。

"取り敢えず見積書を作ればいい、どうせ中身はわからないだろうから金額を乗せられるだけ乗せよう"とクライアントに対して誠意の無い見積書を平然と出す工務店も存在します。

ですので私のような存在を鬱陶しいと思う工務店もたくさんあると思います。
私たちのマインドに合わない人とも工務店とも付き合っていくことは出来ません。
私たちがやろうとしていることを意気に感じて付き合ってくれる方達と仕事をしています。

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