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感想『グリーンブック』

ヴィゴがヴィゴに見えない。
そこは大事なところではないのであるが、ヴィゴ好きとしてはヴィゴがイタリア系移民の初老に差し掛かった小太りの、しかし、喧嘩慣れした男性を演じていることに、役者さんってすごいなあと思ったわけである。
なお、私のお気に入りのヴィゴは『ロード・オブ・ザ・リング』ではなく、断然『GIジェーン』である。

さて、この『グリーンブック』という映画。
舞台となる1962年。1964年の公民権法制定前夜だ。
そんな時代だからこそ、レニングラード音楽院で学んだようなインテリジェントなピアニストでアフリカ系アメリカ人男性のドクター・シャーリーは、あえて、差別が根強く激しいアメリカ南部にツアーに行く。
その運転手として雇われたのが、ウィゴ演じるイタリア系移民で、けして裕福ではない、トニーだ。

もちろん、冒頭のトニーも、当たり前のように黒人差別を示す。
そこから、二人が出会い、一緒に過ごすうちに…という典型的なロードムービーではあるのだが、ドクター・シャーリーが幾重にもマイノリティを背負い、孤独を孤高にすり替えて誇り高く、しかし、毎晩ウィスキーを1本飲まないとやっていられないしんどさが、たまらない気持ちになった。
南部へ、深南部(ディープサウス)へと向かうにつれて、ドクター・シャーリーはますます引き裂かれていく。
招待されてステージでプレイし、拍手を受けるミュージシャンとしての彼。
だが、ステージの外では、暴力や侮蔑を受ける存在に貶められる。音楽を奏でるはずのレストランで食事することは許されない。夜間に外出しているだけで逮捕される。ただ、彼の皮膚の色だけを理由に。

そうやって、いくつもに引き裂かれていった彼が、最後にトニーの妻に抱きしめられる場面で、ひとつの存在、一人の人間に戻った気がした。
途中、見所はいくつもあるし、痛快な場面もある。ピアノの演奏もとても見事で目をみはるのだけど、あの最後の場面が最高にいい。
そして、トニーの妻のセリフもとてもいい。
公開時に皮肉な批評も見かけて見るのを後回しにしていたが、いい映画だった。

そして、今、頭の中では、公開当時によく引き合いに出されていた「ドライビング・ミスデイジー」のテーマが流れている。
どちらもそれぞれ、いいじゃないか。
扱っているもの違うのだから、優劣をつけることはないんじゃないかな。

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