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"逃亡日記" 第17夜 芭蕉布 -平良敏子と喜如嘉の手仕事-

人はいつから布をまとうようになったのだろう?

そんなことを考えるくらい、"自然"と"人の手"が紡ぐ布を贅沢にあじわう時間でした。

クラシック・コスチューム大好き、布(テクスチャ)大好きなマニアが、暑苦しく(笑)芭蕉布について語ります✨

自然布とは?

"葛餅"の葛や藤のような植物の蔓や、木の皮(シナの木・ベニア板の材料)、バナナの仲間・芭蕉の茎、シュロの皮…あらゆる植物性繊維を使って、世界中で古代の昔から織られてきた布。

東アジアは湿度も温度も高いので、意図して育てなくても植物繊維の材料は豊かだったんだろうな。

芭蕉布も自然布のひとつ。
熱帯や亜熱帯でよく育つ、葉芭蕉の茎から取った繊維を繋いで糸にして布を織る。


ちなみに羊のいる文化圏だと羊毛、狩猟文化圏なら毛皮や魚の皮。
薄く弱い"皮膚"を生命を守るための"服"を作るためのテクスチャを調べるのはすごく面白い。

沖縄の服飾文化をざっくりまとめ

芭蕉布を観に行く直前に、国立博物館の"琉球展"最終日に駆け込み。どっちから観ようか迷ったんだけど、琉球展が先でよかった。


沖縄は交易の要所として、大陸(ChinaやKorea)やベトナムや日本と交易したり攻め込まれたり。
本州でいう奈良時代も平安時代もすっとばして、江戸時代に薩摩藩に侵略されて(!)から日本文化の影響が強くなった。


琉球王朝文化は唐テイスト暑い気候ver.と日本文化のmashup×ほのかな古代海洋スパイス(ビーズ文化とか)

王様の服は唐風のゆったりした着付け。お妃さまの髪型はちょっと朝鮮風。神女さまの服は漢服の上着に奈良時代の裳…時代感と文化のリミックス感がすごい。
暑い気候なのに、裳(巻スカート)が残ったのはなぜだろう?などと考えたり。

※本州は本州で、平安時代の大和文化から結構独特の衣装文化だったんだなぁ…と。しみじみ。

王様の上着・シルク紋織に紅型…豪華✨



芭蕉布は庶民から貴族まで御用達のカジュアル素材。ミニマムな絣柄や縞や格子柄、素材そのものを着る感じ。薄くハリがあって風通しがいい。

大きい柄は貴族しか着用できなかったそう

琉球文化についてざっくり理解したところで、芭蕉布の深掘りへ。


喜如嘉の芭蕉布


喜如嘉の芭蕉布の再生の物語はドラマティックだ。
柳宗悦が種をまき、大原総一郎(大原美術館を作った人)とが平良敏子という"芽"を育てて、戦争で焼かれた沖縄に、再び"芭蕉布"の苗を植えた。
敏子さんは女性が働ける場を育て、芭蕉布を蘇らせた。


柳いわく、"こんなに美しい布はめったにありません"
刈り取り、糸績み、染め、織…2022年の今も全て手仕事(民藝品はほぼ全て手仕事だけど)土から生まれて土に還るもの。


葉芭蕉から取った繊維は全て長さも太さも異なるものを、1本ずつ選り分けて、繋いで糸にする。
絣文様をデザインし、織り上がりから逆算して文様になるよう芭蕉の皮で糸束を括り染め、図柄を再現するように精緻に織り上げる…
メイキング動画は15分ほどだけど、気の遠くなるような指先の作業を感じる。
(リンクぜひ見て✨布好きにはたまりません!)


芭蕉糸の地色に草木染…なので、"琉球"イメージの華やかで強い色合いはないけれど、こんなにもバリエーションがあるんだ‼︎…というミニマム・グラフィカル柄。モダン✨
細かな井桁文様の中にさまざまなワンポイントが織り込まれていたり(ギミックすぎ…)地味色の縞の中に赤い撚り糸が1本織り込まれてたり(めっちゃミニマムなツイード!)

2年前の"着物展"でみたようなフェチ全開刺繍柄ともアーティスティックな絵羽柄とも違う、静かで強い数学的なクリエイティビティ…"思念"とか"思考"を感じる。

※だから一緒に観てた友人が"デジタルだー‼︎"って言ってたのかー!(ゆーこさん、やっと今言語化できたよー✨)


私のお気に入りは…意外といっぱいある。

・柳にツバメ模様(トップ画像参照。)
…粋と洗練の極み✨
バーナード・リーチ曰く"このツバメは飛んでいるようだ!"
ほんとそうですよね!めっちゃ同感です✨

・藍色紅型あやめ模様ひとえ
少し濃い色目の芭蕉布に青藍できりっと描かれた菖蒲文様。
これは着てみたい‼︎
帯は半幅、深い緑か焦茶…帯揚げにアイボリーか刺し色を利かせたレモンイエローや水色の夏帯もいけそう…って瞬時に脳内コーデしてしまったw

・セミ柄帯地
思わず、"クマゼミだっ‼︎"って言っちゃうような、カワイイ蝉がずらりと一列に並んでるざっくりした帯地。
いや西日本の人はリアリティと遊び心を感じるよね✨
※「平良敏子 帯」で検索するとまれに販売している…‼︎

・あけぼの色ツバメ文様単
第一回ポーラ大賞受賞作。
淡いあけぼの色(黄色みがかったピンク…朝焼けの色)の少し厚手の織地に、胸に1羽、裾に5-6羽のツバメが強く織り出されている。
シンプル。でも力強い。いつまでも観てられる。

平良敏子さんは人間国宝なので、画像検索すると見られるモノもあるし、画像だけだと、"民藝品だねー""地味だよねー"で終わってたと思う。

だがしかし‼︎
現物見ると、その布地の大きさと繊維の細さと、織り上がるまでにかかった時間の果てしなさに、うっとり見とれちゃいました。 


大倉集古館では、単眼鏡も無料で貸してもらえます。(同時に5名まで)
天然素材特有の糸のがびがび感や、模様の精緻さ、何より"着心地よさそうだなー"って感覚をぜひ堪能してください😊

2022/7/31まで。

【追記】
大倉集古館前では、ぜひ創設者・大倉喜八郎さんの銅像と記念撮影をおすすめ✨
…大倉さん巨大すぎる😅

大倉集古館から臨むホテル・オークラ…映える✨

【2022.9.16追記】
2022年9月13日 平良敏子さんがご自宅でご逝去されたとのこと。101歳。
ご冥福を心からお祈り申し上げます…。

天国でも、糸を紡いだり布のデザインを考えたり…きっと手を動かされてることでしょう。








読んでくださってありがとう🌟ぽちぽち書いていきますね。