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感情の記録3 : 1/20 「舟を編む」三浦しをん

映画公開時、タイトルが気になっていた作品。「舟」を「編む」、簡単な言葉の組み合わせで固有名詞として成り立っている点が良い。

大渡海という辞書を出版するまでの奮闘記という形ではあるが、短編集としてよくできているという印象を受けた。
良い意味で軽やかで、読みやすい小説だった。

前情報から、「辞書編纂」の奮闘記のようなものを想像していたが、実際は「辞書編纂に関わる人たちの、辞書編纂の部分以外の人生」の話が主体であるように見えた。
短編の軽さで、入れ替わり立ち替わり大渡海に関わる人々の心境が綴られる。
良かった点、面白かった点として、視点が違うのに、時間もしっかり進んでいた、というところがある。同じシーンに対して複数視点で言及するという形ではなくて、フォーカスする人が変わりつつも全体の話もしっかりと進む。

また、その他、面白かったのは、大事なイベントは全て描写の外にあったこと。馬締の告白成功・麗美への本音の吐露以外、本の中には純粋に語り手の思考の変遷のみが描かれていて、麗美へのプロポーズと結婚、西岡の宣伝広告課への移動、馬締さんの結婚、香具矢の独立、タケおばあさんの死、岸辺と宮本のお付き合い、何より大渡海の編纂作業の殆どが、本の中には直接描写されていなかった。

気がついたら秒で13年が過ぎていて笑った。

言外の情報が多く、また小説の言葉の描写自体が軽やかなため世界を覗き見ている感が強く面白かった。ここまで、女のいない男たち、正欲と、作者の主張が強く滲んだ文章を読んでいるからということもあったと思う。

赤川次郎ほど歯応えがなさすぎることもなく、軽やかな読了感で良かった。ドラマ映え、映像映えしそうだなと思いながら終始読んでいた。少し映像の方が気になる。

香具矢が最初すごく謎の美女感を醸し出して登場したのに、その雰囲気は本当に最初だけだったことに笑った。

タケおばあさんと西岡が好きだった。

持っていたイメージと全く違う作品だった。

おしまい

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