カリヨンの演奏環境と音量事情

最近ツイッターで、フルート・ピッコロ奏者の方と「演奏環境での耳の保護」という会話をする機会がありました。ピッコロの音量はかなりのもので、実際にオーケストラなどで同じ舞台上でも近くにいると、それなりに威力のある音量に感じられます。場合によっては打楽器のフォルテシモ並みの音量に感じられることも少なくありません。演奏会で聞く分には聞き手は客席ですし、演奏会もよっぽどでなければ365日毎日ではありませんけれども、演奏者にとっては本番だけでなく練習でもその音にさらされるわけで、耳が命とも言える音楽家にとっては時に深刻な問題となります。オーケストラだけではなくオルガンも演奏台の設置場所によっては同様で、色々な音色のストップを全部フルに鳴らす曲を練習・演奏する時は、大き過ぎる音量が問題になることがあります。そういった事情から、私が現在レッスンを受けているオルガンの先生もオーダーメイドの耳栓を使用していますし、楽器を問わず、演奏時に耳栓を使用しているプロの演奏家というものは、決して珍しいものではありません。

カリヨンはご想像の通り、大きな町中に響くような鐘の間近で演奏して鳴らしますので、演奏時の音量は気になるところです。そんな話から、2年前に私がメッヒェレンに行く際、出発前に知人の耳鼻科医に相談し、簡単な測定装置を借りて「カリヨンの演奏による音量の度合い」について実際の演奏室内外の音量の程度を測定したことを思い出しました。
こちらがその時の写真です。

これは聖ロンバウツ大聖堂のカリヨン塔の演奏室の中での様子です。
(普通の一般的な音量の曲を演奏してもらっているところを撮影しています)
「騒音のめやす」などでネットで検索すると、大体70dB-80dBは「うるさい」と分類されるようで、70dBで高速走行中の自動車内、騒々しい事務所、セミの鳴き声(直近)、80dBで走行中の電車内、救急車のサイレン(直近)、パチンコ店内。90dBになると「極めてうるさい」とされ、カラオケ音(店内中央)、犬の鳴き声(直近)などが相当するようです。勿論感じ方には個人差もありますけれども、大体の目安はこういったところのようです。

聖ロンバウツ塔の演奏室はガラス張りになっていて暖房も入れられるようになっていますが、演奏室の外すなわち鐘室部分(吹きさらし)はこの位の音量でした。鐘に最接近しているわけではありませんが、鐘と鐘の間に立っているような位置関係です。

実際には練習および演奏の時には室内ですので、思ったよりは数値としては低かったのだな、という印象ですが、それでも頻回のことですし、うるさいと感じるようであれば耳栓は着用した方が良さそうです。メッヒェレンのこちらでは私は耳栓は着用していませんし、着用している方は周りでは見かけませんでした。

現在のオタワの環境でも、議事堂の演奏室は問題ないのですが、議事堂のカリヨン奏者オフィス内の練習機も、カールトン大学に設置されている練習室の練習機も、いずれもグロッケンが接続されてその音が直接跳ね返るような構造になっていますし、しかも部屋自体が小さい閉鎖空間ですので、必ず耳栓を使わないととても演奏できません。


練習室で自分が練習している間の様子を、スマホの測定アプリで継時的に追った後にスクリーンショットで撮影した結果がこちらです。演奏の手を止めて撮影しているので現状の数値が45dBと「静かな部屋」の数値になっていますが、演奏中の平均は見ての通り、平均74dB、最大84dB程度です。

実際には小さな部屋で練習をしていると塔で練習しているよりもずっとうるさく耳障りに聞こえますが、数値としては実はあまり変わりはないようです。とはいえ、演奏時間を含めたアクセス時間に制限のあることがほとんどである塔での練習と違い、練習機での練習はある程度の時間連続して取り組む場合が多いので、音量を気にせず練習に集中するためにも、練習室での耳栓の使用は勧められるべきだろうと考えます。

余談ですが、全く個人的な感想として、楽器の種類を問わず音楽家には聴覚過敏傾向の人が多いような印象を持っています。旧知のフィドルプレイヤーの友人も、あるいは別で参加している聖歌隊のメンバーでも複数、練習中には必ず耳栓をするだけでなく、地下鉄やバスに乗る時、あるいは観光地で子供の集団に遭遇する時などには必ず耳栓をする、というような人がいます。「聴力を失ったらどうしよう」という恐怖は、音楽家にとっては非常に大きな心配事です。

以上、カリヨンにまつわる実際の鐘での音量事情と練習室での音量事情でした。
耳を大切に、これからも良い音楽を奏でていきたいものです。

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世界カリヨン紀行

カリヨンを演奏するべく訪ねた街と、その鐘楼たちの記録。
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