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『No woman, no cry』 vol.3 【小説】

話長くて、ウザがられるかな。
あれから変わったこと、変わらないこと、なるべく、簡潔に伝えるよ。もう少し、つきあって。
 
じいちゃんは去年、死んだ。
医者に、もう長くないって言われたとき、美大の戦友に会うのが楽しみだ、って喜んでた。
なにより、きみに会えるって。
じいちゃん、あの世では、きみの後輩になっちまうな、って嬉しそうなんだよ。
 
自衛隊の封書は、十八歳になると、今も届くらしい。十五歳の中卒にも、陸自の工科高校案内とかね。
てか、どこも人手不足で、年齢制限を三十過ぎまで引き上げたり、萌えキャラのポスター作ったり、自衛隊も色々大変なんだろう。
でも、なんだか、な…。

この国の大人は、どこか都合の良い、記憶喪失なのかも知れない。
いままでも、これからも。
 

二年前、西で始まった戦争は、続いてる。中東も、再燃して、さらに酷い…
 
市の再開発計画とおり、幼稚園は無くなって、ビルが建った。
 
もう伝えたけど、ヨウスケくんは幸せそう。子どもも、彼女も、元気。
 
わたしはタバコを止められない。ハッパは吸ってないから安心して。・ ・ ・ ホントだって。

 
こないだ、ライブに行った。だめだと思ってたチケットが、手に入って、初めて仕事、バッくれちゃった。
これも初めて行った会場は、ばかデカくて、ちょっと気後れしてたんだ。でも、注釈付きの席が、不思議なくらい、手を伸ばせば届きそうに、ステージが近かった。

音楽が、また鳴り出したよ。もともと、らすたふぁりあん、だったもんね、きみもわたしも。
 
 

"音楽に魅入られた四人と
彼らに魅入られた大人たちの熱狂…
それが真実(すべて)

Everything's gonna be alright…
私たちは生まれ 泣き 笑い 歌い 踊る…
愛しいこの日々に
掛け違えたボタンみたいな戦いの下でさえ

あてのある未来なんていらない
愛し、愛され、いつか一人で死んでいくことさえ
自分の好きが、自分の「本当」があれば大丈夫と
Everything's gonna be alright…
そう言ってあげられる大人が、どれだけいるだろう
kidsたちに 私たちに
 
歌い続けて 奏で続けて
その音を
心にいつも響かせて
Everything's gonna be alright…
あなたが見せてくれた景色を、決して忘れない

(2022.11.20)”
 
 


https://open.spotify.com/track/5rPnv4gceOGKCqbN06F2aJ?si=icMl8GwFTSyybIOmO4kS3w
 

きみは、生きたかった?
世界は、意味分からないことばかりで、もうなにも変わらない、自分が死んでも、って思った?

わたしは、もう少し、生きてみるよ。
どんなに長く生きても、まだ、初めてや、知らないことがあるなんて、なんだか良いよ。

もちろん死ぬことに関しては、最期まで分からない、きみが先輩。
だけどそれ以外も、わたしは、まだ知らないことだらけ。
だから、あともうちょっと、生きさせて。

たとえば素敵な音楽に、明日からも、身をゆだねて・・・
よかったら、年明けの東京ドーム、一緒に行かない?

チケット、取ったんだ。  
                       


    
(了)
 

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