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どんな人でも大切に看護したい私

背景と近況

 こんにちは、精神看護CNSのいくら軍艦です。第2子妊娠中の経過で胎盤に異常が見つかり自宅安静をしています。しかし、先日の検診で児の発育が順調ということで、2週間後職場に復帰できるかもしれません。給料減っちゃうのが不安だったのでヤッター。無理せず頑張っていきましょと思う今日このごろです。3月12日までは念の為自宅安静継続ということですけどね・・・
 先日私の恩師が大学を辞める際の記念講演がウェブで開催になったんですが、大変心が温まり、これから精神看護CNSとして頑張ろうと前向きになれる内容だったので、今回は講演の一部だけ内容を紹介させていただこうと思います。

教授の紹介

 私の恩師は精神看護学で教鞭をとってました。学士、修士以降もお世話になっているので、もうすでに15年ほど教わっている計算になりますね。
 ここで、少し昔の話をすると私は精神看護にずっと関心があり、ゼミも卒業研究も精神看護学だったんですが、体が看られなくなるのがこわいと感じ、新卒で外科病棟を希望して入職に至りました。知識や根拠付けなど追いつかない業務量と時間の流れに圧倒され、丁寧に看護して患者さんに安心してもらいたいという理想が打ち砕かれ、リアリティショックの状態。さらに、その都度口調が荒く、細かいところまで指摘する先輩を恐れるあまり大切にしたかった丁寧さがおろそかになってしまう状態になりました。挫折しかかっている私がなんとなく学校内の建物をウロウロしていたところ、教授に呼び止められました。

「なにしてるの、あなた。精神科に行きなさいよ」

と声をかけていただいたのがとても印象的です。そこで何を言われたのか今ではあまり覚えていませんが、私の温和さや物腰の柔らかさが活かせるのは精神科ではないかと。ずっと関心があって学んでいたんだから精神科で力を発揮しなさいとかそういうことだったと思います。それがきっかけとなって精神科への異動を決めたのですが、この出来事がなかったらと思うと、外科病棟でずっと患者さんにいい加減な看護をしていたのかなと思うとゾッとします。
 精神科の奥深さに魅了され、数年後教授のもとへ大学院生となって進学をしました。このように人生のターニングポイントで必ず力になってくれた大切な恩師です。

学びを得てよかったと思うこと

 一言でいうと物事を多角的に捉えられるようになりました。教授が口癖のように言っていた言葉があって、

「世の中には良いこと、悪いことで分けられることはほんの一握りであって、どんな事柄にも背景がある」

という言葉です。極端に説明をすると、世の中には窃盗や殺人事件、虐待、暴力などする人がいて司法で裁かれていきます。精神科ではたまに前科がある方や、人を殺めてしまった人とも関わることがあり、その出来事だけを捉えてしまうと「悪い人なんだ」「何かされないように気をつけなくちゃ」と思います。しかし、その人のその事柄の背景を見ずして「良い」「悪い」と判断するのは視野を狭めてしまう要因になります。言われるまでもない

「事件のとき幻覚妄想が活発で、本人だけではどうしようもない状態だったんだ」

「子育てにいっぱいいっぱいになったとき、助けを求める場所もなかったんだ」

「前科があっても、今を一生懸命生きようとしている強い人なのかなあ」

 看護師の基本ですけど、臨床にいると患者さんの逸脱行動をどう対応するかとか、問題をどう対処するのかという方法を考えるのにとらわれがちになってしまう傾向になることがあります。そんなとき教授の言葉を思い出して患者さんそのものをみることから始めます。
 どんな事柄にも、「待てよ。これはどういうことなんだろう」と立ち止まれるようになったことが私の一番の収穫でした。そして人を容易に批判しなくなりました。よかったね。

内容を一部紹介

 そんな私の恩師が、精神科看護師の役割と考えていることが5つあります。

①人間への信頼を取り戻す
 自分を大事に関心を持って接してくれる人への信頼故に自分を信頼するということ。他者を信頼し、自分を信頼し、ひいては人間への信頼につながる。信頼し直す再学習をすることを支援する役割。
 「こんなに私を大事にしてくれて、こんなに大事にされた私を、私はもっと大事にしてもいいよね」と思ってくれるような看護をする役割です。
 精神疾患患者さんは、人から傷つけられた体験を多く持っている人が多いのでこの役割は非常に大事です。

②全人的復権
 リハビリテーションのこと。病気になったがゆえに10代で入院して、大学をやめなきゃいけないとか、新しく就職するときもなかなか雇ってもらえないとか、自分の住みたい場所に住もうと思っても拒否されるとか・・一般市民であれば当然持っている権利を剥奪されてしまうという今の精神疾患患者様の現状。一般市民としての権利を取り戻せるよう支援することです。

③治療的環境の提供
 長期に入院している人。管理された場所で長期に生活をしていると生活力が下がっていく。入院していても自分なりに学習して成長していける環境を整える。看護師のアイディアがものをいう。日常のルーチンワークだけこなしていては能力を引き出すことはできない。
 レクリエーションや作業療法の充実を図ることが大事。健康面を引き出すことができる環境づくりをする。環境を整え、場面を設定できるのは患者の一番近くで働く看護師の役割。

④再発予防
 薬は飲み続けなければ生活が破綻する。完全に治ったということはなくて、外来に通い続けないといけない。副作用があるなど様々な理由で中断してしまうこともある。大きな再発の原因になっている。
 服薬継続、外来通院継続を支える役割。

⑤セルフケアの支援
 自分で整容したり、食事をする、自立するための支援

 中でも一番私の心に刺さっているのは①の自分への信頼を取り戻す支援。学んでからずっと患者さんとの約束は守る、誠実に対応するをモットーにしています。まあ何があるかわからない臨床では約束は基本的にしないんですけど、

患者さんから話を聞いてほしい要望があってすぐに時間が取れないときは
「〇〇時から申し送りだからそろそろ行かないといけない(具体的に予定を伝える)
他の患者さんがの状態が悪くなったりすると話を聞けなくなってしまうから、お約束はできないんだけど、(常に優先順位に追われる立場を伝える)
仕事が落ち着いていたら〇〇時頃必ず話を聞きに来るからね」(可能だった場合の予定)と言って、可能だったら行き、不可能になったら後日フォローと言う形をよくとってました。

 だいたい「ちゃんと対応してくれてありがとう」と言われます。こんなとき丁寧さはものをいいますね。自分を活用できている感じがします。

まとめ

看護だけではなく人生においても事柄の背景を捉えることは大切。「良い」「悪い」で捉えることは危険

精神疾患患者さんは人から傷つけられた体験を多く持つ人である。だからこそ誠実な対応、大事に対応する丁寧さが求められる。

 どんな人でもちゃんとその人の背景や生活歴を見て、ニュートラルにその人を捉えたい、どんな人でも大切に看護して人への信頼を取り戻してほしいと思った学びでした。

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