テクノロジーとフィクションについて


1.本編

今回の中身はタイトルの通りで、フィクションの中で書かれるテクノロジーに関するものです。

作品にテクノロジーの要素を用いる作品があります。作品の中にはそのテクノロジーに対して、ネガティブに書く作品があります。以下にその一例を挙げます。

HOS(機動警察パトレイバー the Movie):レイバー(作中の世界観に出てくるロボットの総称)に搭載されたOSが暴走する。
HAL 9000(2001年宇宙の旅):宇宙船を制御するAIが宇宙船の乗務員の殺害しようと振る舞う。
SAO(ソード・アート・オンライン):デスゲーム要素のあるVRMMORPGサービスが開発される。

注意:このnoteは例示した作品を貶めるものではありません。

ただし、あくまでこれらの書かれ方は、作品が"主"であり、書かれるテクノロジーは"従"の関係にあると考えます。ですので、新しいテクノロジーそのまま書いてしまうと作品の展開に制約が出るので、テクノロジー側を作品の展開の都合や、インパクトを持たせるために意図的に(誇張などをされて)書かれるパターンだと思います。
私の推測ですが、このような書かれ方をするのは、演出の都合ではないか?と考えています。つまり演出の一環で"テクノロジー"を使った結果だと考えています。そもそもの問題として、上述の例の場合、HOSのような、(仮に二足歩行ロボットが実現できたとして)操縦時にいきなり自身の操作を一切受け付けなくなるようなOSが搭載された二足歩行ロボットには普通に乗りたくはないですし、HAL 9000のような乗員の殺害を意図するAIに宇宙船の制御を任せることはしないはずです(なお、HAL9000に関しては、続編である2010年宇宙の旅において、人間から与えられた命令が矛盾していたことが原因とされています)、SAOに関しても、(VRに限らず)デスゲームだと分かっているサービスに入りたいと思わないと思います。あくまでフィクションとしての面白さや、作品の展開の都合でそういう書かれ方をしたに過ぎないと考えられます。
フィクションで書かれるテクノロジーは、あくまでフィクションの産物であり、それらのイメージ(特にネガティブな印象)に過剰に引っ張られる必要はないと思います。

スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」のなかで、機能不全を起こしたロボティック・コンピュータ、ハルとともに宇宙船に乗り込んだ科学者たちにとって、キルスイッチは役に立たなかった。だが、この映画はフィクションだ。

ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう "9 人工知能は人間より賢くなるのか?"より(太字強調は引用者によるもの)。

2.実例

注意:以下は、「機動警察パトレイバー the Movie」のネタバレを含みます。

前項で取り上げた例のうち、「機動警察パトレイバー the Movie」を例に、HOSについて見てみると、「機動警察パトレイバー the Movie」では、レイバーに搭載されるOSとして圧倒的に高いシェアを誇るHOSに、潜在的に暴走の危険があることが徐々に明らかになり、話が進むにつれ、この挙動がバグではなく、意図的に仕込まれた挙動であることが明らかになります。映画は最終的に台風の接近に伴うレイバーの暴走を止めるため、暴走のトリガーとなる建物を破壊するために乗り込む、という流れです。
冷静に考えると、このような暴走の危険を潜在的に抱えたOSが、製品として出荷される前に危険性が発覚しないということが、実際問題としてあり得るでしょうか?また、映画では、感染すると、電源が切れた状態から起動する、というようなOSとしての挙動を超えた描写がありますが、現実として起こりうるのか?と考えてしまいますが、映画では非常に緊迫感のある映像を見ると、やはり物語の都合という部分が優先させたように感じます(あら探しをしているように見えますが。私は好きな映画です)。

Go to,let us go down, and there confound their language,that they may not understand one another's speech.
(いざ我ら降り かしこにて彼等の言葉を乱し互いに言葉を通ずることをえさらしめん)

『旧約聖書』創世記11章7節より。「機動警察パトレイバー the Movie」において引用されます。なお、映画ではこの言葉が表示された後にHOSが暴走するシーンになりますが、川井憲次氏の音楽も相まって、HOSに対する底知れない不気味さを視聴者に与える場面になっています。

3.余談(コミック版「機動警察パトレイバー」におけるHOSの描写について)

HOSに関して、搭載したレイバーが暴走する描写があるのは映画版だけで、コミック版機動警察パトレイバーではHOSは普通に新型のOSとして出てきます(ただし特車二課第二小隊のメンバーにとっては期待外れのOSでした)。

勿論、ウィルスなど仕込まれておらず、中身についてもシバシゲオ曰く、「搭載したからと言って劇的に機体性能は向上せず、あくまでも操作環境統合用のOS、要するに篠原製のレイバーの操縦に練達した搭乗者が別のメーカー製のレイバーにいきなり乗っても同じように動かせる(=動作の最適化ができる)ようになり、結果として作業効率が良くなるから機体性能が向上したように感じるだけ。機体性能も向上はするが平均して2~3%程度」、遊馬や後藤曰く「本来、(バビロンプロジェクトのような)大規模集中工事用の機械に搭載、使用してデータのフィードバックやノウハウを蓄積・共有して初めて意味があるものであり、イングラムのような出動ごとに状況が異なる機体に載せて使用してもあまり意味がない」というものになっている。

コミック版「機動警察パトレイバー」に登場するHOSの説明(ピクシブ百科事典のHOSの項目より)

しかし後藤喜一隊長は期待はずれでありつつも「使えると言ってくれ」や「第二小隊にHOSを乗せたら最強じゃないですか」などと発言しており、黒いレイバーである「グリフォン」を呼び出すための撒き餌としては使えると考えていたようである。

コミック版「機動警察パトレイバー」に登場するHOSの説明(ニコニコ大百科のHOSの項目より)

コミック版「機動警察パトレイバー」においては、HOSとイングラムの一号機の泉野明とはあまり相性が良くなさそうな描写が見られます。ただし、特車二課第二小隊の隊長である後藤喜一隊長は黒いレイバー「グリフォン」をつり出すための撒き餌として利用し、見事に成功していますし、映画では冒頭に身投げしていたOSの開発者である帆場暎一も存命で、漫画版でもチラ見せ程度ですが出てきます。
以前、機動警察パトレイバーに関するnoteでメディアミックスの話を出しましたが、その際に媒体で設定が異なっていることを伺わせる一端となるものです。

4.関連項目

4-1.書籍

機動警察パトレイバー 風速40メートル (富士見ファンタジア文庫) Kindle版

「機動警察パトレイバー the Movie」のノベライズ版です。"風速40メートル"というのは、HOSが暴走を起こす風速になります。

4-2.ウェブ上の百科事典

機動警察パトレイバー the Movie

HOS(ピクシブ百科事典)

HOS(ニコニコ大百科)

4-3.過去のnote

ゆうきまさみ先生とコミック版「機動警察パトレイバー」とついて


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