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整理をすること、そして、19時に帰ること 【パラレルワークの心がけ】

私は普段、大手ディベロッパーで会社員をしながら、副業で、整理収納アドバイザーとして活動している。活動のメインは執筆業で、年1冊の書籍執筆と、新聞・ウェブメディアでの月1連載をしている。また勉強面では一橋大学大学院(夜間MBA)に通い、昨年春に経営学修士号を取得した。

『仕事の心がけ』を語るのも畏れ多くも思うが、私がパラレルワークをする上で、大切にしている小さなルールを2つ、紹介したい。
整理することと、19時に帰ることだ。

自分のために、同僚のために、心をこめてドキュメントを整理する

PCのデスクトップは、脳内の縮図といえる

整理収納アドバイザーと名乗っているため、「さぞ、昔から几帳面でいらしたんでしょうね」と多く言われるのだが、私自身はモノの多い実家に育ち、学生時代は汚部屋に暮らしていた。仕事を始め、PCのドキュメント整理とタスク管理を、業務の必要性に駆られて習得。その思考法を使ってようやく、家が片付けられるようになった。

私は新卒、住友商事に入社し、IT関連の事業会社への投資・管理を行なっていた。入社して早々に行なったのが、6社ある投資先の管理業務。各投資先の出向者から、財務情報、会議資料、細やかな情報共有諸々が毎日届く。
仕事を初めて間もない自分は、書類整理を、どちらかというと「しょうもない仕事」と捉えており、すぐに使わないファイルを共有フォルダに保存しなかったり、内容を理解せず1つのフォルダにぶちこんだりしていた。

ところが入社3年目で、「このやり方ではダメだ」と痛感する出来事があった。担当していた投資先を、急遽、売却することになり、売り手サイドでデューデリジェンス(企業価値・リスク調査)の担当をさせてもらった。入社間も無い自分には「交渉」のようなものは回ってこず、できることといえば、指示された書類・情報をスピーディーに出すことぐらいだった。

まさかその時、自分の担当先が売却されるとは思っておらず(商社の投資サイクルは長く、一度子会社となった投資先は何十年と保有し、経営を握り続けるのが一般的である)、日々の情報を漫然と捉えていた。あの時、資料の意味を正しく理解し、綺麗に整理しておけば…。自分の怠慢で、企業価値ごと毀損されてしまうのではないかと、焦りと後悔の連続であった。

フォルダが上手く整理できていない時点で、その情報は自分のものではない。当時の私のPCデスクトップは、一時保存の書類でぐちゃぐちゃだった。
デスクトップの状態は、私の頭の中の縮図といえた。

明日、担当の会社がまた売却されてしまうかもしれない。1つ1つの書類の価値を理解し、整理することこそが、担当会社の企業価値を高めるため、私にできる唯一のことではないか。
ということで、反省した私はファイル整理の鬼と化した。

ローカルファイルを、撲滅せよ

私がファイルを片付けられるよう、そして同僚が同じ過ちを繰り返さないよう、「ドキュメント整理道場」というマニュアルを作成することにした。

道場で掲げた最初にして最大のテーマが、「ローカルファイルの撲滅」だ。
人の仕事のやり方として、「オープン派」と「秘密主義派」に二分されるように思う。

例えば企画書の原案を作成し始めた時、書きかけのwordファイルを、あなたはどこに保存するだろうか。共有フォルダにいきなり入れてしまうか。まずは個人PCのドキュメントフォルダに入れておいて、完成したら共有フォルダにアップロードするのか。はたまた、デスクトップに置きっぱなし?

どちらの流派にも仕事が出来る人はいて、どちらが良いとは断定出来ない。例えばチャットのやりとりにて、オープンすぎる性格がゆえに「通知を鳴らしまくってうるさい」人もいるだろう。ただ、フォルダ構造とファイル名さえ分かりやすくしておけば、ドキュメントの数が増えて人を煩わせることはない。

組織の共有フォルダの容量がカツカツでない限りは、過去のバージョン履歴含めて、すべからく、保存をしていく「オープンマインド」を推奨する。 ある情報は一部メンバーのメール添付を参照、ある情報はチャットの文章を参照、ある情報は課長のデスクトップに保存…という具合だと、新米メンバーはいちいち、書類探しに人の手を煩わせ、自分の力で育てない。
フラットな組織は、美しいフォルダ環境の上にしか成り立たない。

美しいフォルダ整理の5ヶ条

オープンなマインドが持てたら、細やかなテクニックとして、この5箇条を守ってみてほしい。

  1. クリック数を極力少なく

  2. 1フォルダ、1内容

  3. 階層をつける際、1階層に5フォルダまで

  4. 優先順位軸で上から順に並べる

  5. 重要でないものはArchiveに纏めておき、捨てはしない

大前提として、エクスプローラー(windows)やFinder(Mac)と、共有フォルダの同期が必須装備だ。Box・Google Drive・Dropboxなどクラウド保管サービスを、ブラウザのまま使用するのは不便だ。

その上で、よく使うフォルダをショートカット化しておけば、構造上深い階層にあっても取り出しの手間がかからない。
「今アクセスしたいフォルダ」は時期ごとに移り変わるはずなので、毎日開くフォルダに限定し、定期的に設定を見直そう。見直しを怠ると、デスクトップがショートカットだらけになってしまう。

フォルダ内に異なる内容のファイルやフォルダが並存すると、1つずつ開く必要があり、時間のロスになる。自分以外の人からみれば、さながら宝探しのような状態だ。内容ごとにフォルダを細かく区切り、分かりやすいフォルダ名をつけよう。冒頭に2桁番号をつけると、優先順位の高いものから表示させることができ便利だ。

フォルダの例。沢山の取引先が並存する場合は、「コ)こめだ商事」のように、冒頭にカナを振る

同階層に、フォルダが何個も並ぶと、選ぶのにロスタイムが生まれる。構造化・階層化をし、1階層あたりに5フォルダをMAXに区切ると良い。
大量のファイルを整理する場合には、構造ツリーを手書きしてから作業すると戻りがなくて良い。

また、フォルダ容量が許す限り、過去の経緯を「とりあえず残しておく」のも大切だ。書類整理をしようと意気込んで、データをどんどん捨ててしまうのは危険で、逆に整理の手がとまる原因となる。「しばらく見ないだろうな」という情報は「archive」フォルダに放りこんでおき、年度末の点検やプロジェクト終了時などのキリの良いタイミングに、まとめて削除すれば良い。

上手くドキュメント整理ができると、フォルダ内が「MECE」な状態になる。MECEは”Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive”の頭文字をとっていて、「モレなく、ダブりなく」という意味。自分が関わった仕事の情報がモレなく、ダブりなく、誰の目から見てもわかりやすく整理されていれば、自分の仕事は上手くいっている状態と言える。業務中の「あの書類、どこでしたっけ?」というやりとりも減り、心穏やかに仕事に没頭できるだろう。

タスク整理を極めれば、パラレルワークも怖くない

ベンチャー時代に培った、時間価値の概念

前職の住友商事では、3年間の本社勤務ののち、投資先のITベンチャー、株式会社サマリーに4年間、出向をしていた。出向して最初に驚いたのが、大企業とベンチャーの「時間価値」に対する考え方だ。
企業価値の根幹を為す、アプリ&WEBサービスの開発・デザイン・企画力は、社員一人一人の働きが原資となっている。「エンジニアさん・デザイナーさんのリソースをどのプロジェクトに注力するか」が経営判断上の重要ポイントになっていた。大企業でよくある「とりあえずの情報交換」「将来のための勉強会」が、ベンチャーに出向した途端に”勿体なきもの”に感じられた。

現在行なっている、整理収納アドバイザーとしての仕事は自分一人で行なっている。執筆の仕事もまた、自分の時間以外に原資はかからない。「何に時間を割くか」が、どう働くのか、ひいては、どう生きるのかを定義づけるものとなる。ドキュメントだけではなく、手持ちのタスクも、頭の中も、オープンにわかりやすく整理していきたいと考えた。

Get Things Doneの整理術

出向直後に、「我が社のタスク管理の思想」としてCTOより渡されたのが、デビット・アレン著のこちらの一冊。

GTDは"Getting Things Done"の頭文字をとった用語で、タスクやプロジェクトを整理して管理する仕組みのことを指す。自分にボールが回ってきたタスクを、とりあえず「DONE」としてしまうことで、仕事は前に進み、気持ちが晴れ、新しいチャレンジへの後押しとなるのだ。

タスク管理の仕方はシンプルで、とにかく、タスクを小さく区切り、DONEさせること。私の解釈では、大きな仕事も、小さな雑用も、5W1Hが一意となるタスクカードに区切っていくのが大切だと考える。

  • What:何をやるのか

  • When:いつまでに終わらせるのか

  • Who:誰が、今ボールを持っていて、誰が本件の関係者なのか

  • Why:このタスクの目的は何なのか

  • Where:作業はどこで行うか、成果はどこに使うか

  • How:どのようなプロセスで行うか(過去はどうしていたか)

Whatの部分が「営業戦略を考える」などフワッとしていては、いつまでたってもこのタスクは終わらない。1タスク、標準で30分、最大でも3時間内に終わるよう、区切らなくてはならない。

例えば営業戦略を考えることが大きなゴールなら、「前任者へのヒアリング実施」「メンバーとのブレスト会の告知」「全社会議での進捗発表準備」といった具合だ。1日の頭にタスク表を確認して、日中は随時タスクを更新し、1日の終わりに抜け漏れないかおさらいをする。急遽仕事を休む時、タスクカードごと渡せば、相手がそっくり状況を理解できるくらいの粒度が理想型だ。

頭で覚えるな、ツールに頼れ

仕事に限らず、人生には様々なタスクがある。子供の送り迎え、親の誕生日祝い、ゴミ捨て… 人のワーキングメモリーには限りがあり、私の場合は、3つ以上のタスクが頭にあると、混乱で動きが鈍ってしまう。最初から頭で覚えることは諦め、ツールに全幅の信頼をおくのが吉だ。
私の出向していたベンチャーのサマリーでは、Asanaという管理ツールを使っていた。看板方式のツールとしてはTrelloが有名で、無料で利用可能。Teams内にも類似機能があり、チャットでの会話からそのままタスク化もできる。

ツール導入のハードルが高ければ、Excelやスプレッドシート上で管理するという手もある。No.・カテゴリ・タスク名・ボールを持っている人・締め切り・備考の列・完了チェックマークを作り、フィルター機能で絞れば、今日中のタスクや、未完了のタスクを簡単に表示させることができる。定例のチーム会議などで上から順に確認をしていけば、ボールを持ちすぎているメンバーに声をかけたり、後回しにしていた長期タスクを思い出すこともある。

3分以内にできることは、「タスク管理ツールに入力するのが面倒だから今やってしまおう」という意識で、もらって瞬時に捌いてしまうのが吉だ。アンケート回答、飲み会の振り込み、簡単な経費承認など、3分以内で出来ることを1カ所にまとめておいて、待ち時間等のロスタイムに消化をしておこう。

ちなみに、「トイレットペーパーを買う」というような、些細な(しかし忘れたら困る)タスク系は、LINEの「リマインくん」というサービスが便利だ。LINEのお友達になれば、トークの要領で、覚えておいて欲しいことを、教えてほしい時間に通知してくれる。スマホさえ開けば、帰り道でかならずトイレットペーパーのことを思い出すので、それまでは脳から消し去ることができる。

脳のワーキングメモリーは有限。またタスク消化に避ける時間も有限だ。
自分や同僚の限りある時間を何に使うのが良いか、一人で抱えずに、タスクで見える化して、オープン化を心がけよう。タスクにしてしまえば、頭の片隅に入れることもなく、気持ちよく忘却して、目の前のタスクに集中できるだろう。

意地でも、19時に終わらせる

ドキュメント整理とタスク整理をマスターし、やるべきことに全集中できる環境が整ったかと思われる。しかし「タスクを全て一人でこなさなければ」と完璧主義に陥れば、労働時間は伸び続けてしまう。

もちろん、良い長時間労働も沢山ある。大きな案件の責任者や、伸び盛りのベンチャーのコアメンバーなど、19時で帰るなど甘っちょろいことを言っていられないだろう。1つのことを掘り下げるためには、ある程度生活は犠牲にして、長時間の没頭が必要だ。

しかし、こと、”パラレルワーク”のためには、「どこかで際限をつける」というのが極めて重要で、「時間」というのが一つ分かりやすい節目になる。

社会人大学院に通ったことがきっかけ

私は元々、ひどく残業をしてしまうタイプで、土日も含め「常に臨戦態勢であることが正義」と捉えていた。価値観が変わるきっかけとなったのが、社会人大学院に通ったことだ。
2020年4月から、一橋大学大学院に入学したのだが、コロナ禍と重なるタイミングだったこともあり、仕事も通学も全てオンライン完結となった。
日中はベンチャーで働きつつ、19時以降は大学院生として授業を受け、休日に復習や宿題をした。

大学院に通い始めるタイミングで、同僚に頭を下げ、私の仕事が19時に終わるよう、ミーティングの時間などを調整してもらうことにした。最初は人に仕事を押し付けているようで、申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、実際のところ、チーム全体の仕事の総量も、私の労働時間に比例してスリム化されたのだ。

会社員として働いていると、「やらなくても困らない」タスクが無数に存在する。私の大学時代指導いただいた教授の著書に、「できる社員はやり過ごす」という本があるが、私はこれまで、やり過ごせない社員であった。
積極的に「不要不急のこと」に取り組むことで、時には新たなチャレンジとして評価されることもあったが、自分がマネージャーポジションになると、その「あれもこれも」精神が部下の仕事を増やしていた。
自分の大学院通学という時間を大切にする気持ちが芽生えたことで、人の時間も同じように尊重できるようになり、結果として「やり過ごし」が上手くできるようになったと思う。子育てや介護を頑張る同僚への尊重の気持ちも、以前より強くなった。

「今の仕事が忙しすぎて、仕事以外のことが何も頑張れない」と悩む方は、大学院に通ってみるのをおすすめする。自分で本を読んでの学習もよいが、人に仕事を頼んでまで勉強の時間を割くには、ある程度の大義名分がないと続けられないだろう(大学院の詳細についてはまた別の記事で書くとします)。

本1冊、GW休暇で書き切る

私は小さいころから、文章を書くことが好きだった。ピアノを長く習っていた影響があるかもしれないが、タイピングを長時間同じ姿勢でやっているのが、ピアノを弾いているようで、非常に楽しく感じている。
本業・副業の「副」の方は、苦なく続けられる分野を選ぶことが何より大切だ。

私の執筆スタイルとして、長期休暇に死ぬ気でまとめあげることとしている。2020年より年1冊ペースで執筆している書籍については、毎週ちょこちょこ書くのだと、前回の内容を思い出すのに時間がかかったり、誤って重複・矛盾した内容を書くリスクがあるため、まとまった時間に集中して書くようにしている。会社員の私にとっては、正月休みと、GW休暇がチャンスだ。現在の勤務先が大変にホワイト企業なこともあり、祝日は確実に休める。

片付け本は季節的には12月出版が多い(年末大掃除に向けて)ので、年末年始の休暇で企画書をまとめ、5月のGWで執筆をするのがスケジュール的にはちょうど良い。目標は、1日1万字分、書くこと。家事を母親に頼るため、執筆の際には仙台に帰省をしている。
朝起きて、書き始め、1万字書いたら終わり。それを5日間続ける。
GW休暇に向けて、ネタ帳として、LINEにキーワードや参考URLをメモしておく。休暇中以外は筆をとらず、ひたすらLINEにメモするのみだ。

「休暇中に働きづめなんて、どうかしている」と友人からは言われるが、1時間あたり2,000〜3,000字書くようにしているので、実質は1日あたり4~5時間程度の稼働。それ以外の時間は、家族とゆっくりご飯を食べるなり散歩するなり、ごく普通の里帰りをしている。

常時、「本業でやり残しがないか」「副業でもっと書けるのではないか」と気にしながら生活すれば、どんなに健康でもすぐに辛くなってしまうだろう。会社員の方は、同僚への感謝を忘れずに19時であがらせてもらい、副業の方は、長期休暇に一気にまとめる、というスタイルで、なんとか、メリハリをうまく保っている。

健康的に、パラレルワークをしよう

先に紹介したGet Things Doneの書籍の中で、ケリー・グリーソンによるこのような言葉がある。
「やらなければならない様々なことが、漫然と頭を占領し続けている。これこそが、時間とエネルギーを最も消耗しているものの正体だ」

パラレルワークで、やらなければならないことを様々に増やし、頭がぐちゃぐちゃになって、消耗してしまっては本末転倒だ。
でも、目の前の事象をきちっと整理して、1つ1つのタスクを細かく区切り、欲張らずに消化していけば、いつのまにか仕事の山はなくなっているし、その種類は1つでも2つでも案外、負担は変わらない。この小さなDoneを繰り返すことが、私のwell-beingの源であり、その種類がパラレルに跨っていることもまた、彩となっているのだ。

#仕事の心がけ







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