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朝から泣いた話

SMSに一件の通知。
4年前に卒業した教え子からの連絡だった。
(当時私は結婚前で、地元である県外の学校に勤務していた。)
1年生と3年生の2回、彼女を担任していた。

以前から、中学校のときの写真を見返すと
あの頃に戻りたくなると何度も言う子。
教壇に立つ人ならきっとわかってくれると思うが、正直複雑な思いだ。
現時点で彼女の人生の中にあの頃を
上回る時間がないのかな、
いつまでもあの頃に引きずられて
前に進めていないのかな、と
ちょっとだけ心配になる言葉。

でも今日はそんな思いを払拭してくれる
最高の知らせだった!


彼女はいわゆる手のかかるタイプで、
入学前は小学校から彼女についての
やたら長く詳しい引き継ぎがあった。

入学して間もなく、他クラスの女子と
彼女が音楽室前でタイマンを張った。

「◯ね」が挨拶だった。
コミュニケーションが取れなかった。

毎日毎日、同時多発的にいろんなことが
起きる学校の中でも、彼女の存在は
一際目立っていた。

大学院を卒業したばかりの新採の私には
なかなか打つ手が見つからず、
「あの子が教室にいなければ…」と
思ってしまった朝もあった。

それでも時間をかけて、
少しずつ信頼関係を築いていった。


勉強をしてこなかった彼女は、
学年で最後の最後まで進路が決まらなかった。
若かった私は彼女の進路決定のために
本当にいろんなことをやった。
彼女はそのことを今でも感謝してくれるけど、
別に私に何かできたわけではない。

コロナ禍で政府から全国一斉に休校要請が
出され、サポートも中途半端に終わった。
これについては彼女だけではなく
初めて受け持った生徒たちみんなそうだった。
公立高校入試を目前に補習を完了することも、
面接練習(公立高校入試では筆記試験と面接試験が全員に課される)をしてやることも、
何一つ万全にしてやれなかった悔しさが
当時の学年にはあった。

彼女は私立高校をはじめ、専門学校、
公立の全日制高校を受験するも全落ち。
故に学年最後の進路決定者となった。
2020年3月30日、
入試時期が最も遅い定時制高校へ無事合格。
結婚による他県への異動のため、
既に前任校を退職していた私は
当時の学年主任からSMSでこの吉報を受け取った。


そんな彼女がこの春
4年間通った高校を卒業するという。

まさかこんなときがくるなんて!
4年前、合格おめでとうという気持ちと
この子が4年間も定時続くか…?という
疑いの気持ちが私の中を渦巻いていた。
そんな心配をよそに、
彼女は日中、ピザの配達をしながら
「彼女らしく」朗らかに高校生活を
満喫していたのだ!

さらに、先月母になったそう!
あれから彼女にいろんな出会いがあり、
新たな命と共に生きる選択をしたことが
どれだけ嬉しいか。
私も去年、母になった。
産む前もかわいかった生徒たちは
産んだ後さらにかわいく大切に見えた。
そうか、そうか、母になったか。
朝から泣いた。
これからは一回り離れたママ友だな!

今は地元を離れて暮らしているらしい。
それも嬉しかった。
卒業前にクラスの生徒に話したことがある。
あなたたちは地元を離れなさい。
こんな狭い田舎に一生いるつもり?
外の世界を見に行きなさい。
それはものすごく怖い。勇気がいる。
でも、出た者にしか見えない
広い世界があるんです。

私は田舎の循環社会の中で生きていくことを
あまり良しとしないところがあって。
最終的に地元に帰ったとしても、
一度は外の世界で生きてほしいと思っている。
他を知ると必ず生き方が変わる。
その思いがあの教室にいた何人かに
伝わっていたら嬉しいのだ。
彼女には伝わっていたらしい。

出会った頃の彼女とはまるで違う今の彼女。
本当にいろんなことを見てきたのだろう。

私は中学校3年間の彼女しか知らないのに
今もこうして連絡をくれること、
人生のほんの一部にいた私の存在を
一瞬でも認めてくれることが嬉しかった。
これが、この仕事を辞められない最大の理由だ。

以上、嬉しくて朝から泣いた話。

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