中小ITショチョーの秘密①/「仕事する理由って何ですか?」
2023.07.01(土)創作大賞が間際に迫ってるなぁ・・・
ふと思った「私が今、置かれている立場」をざっと書いてみて「#創作大賞」+「#お仕事小説部門」に出してみよう。というチャレンジです。
あらすじ
1.事務所勤務と新人教育
2023年6月
2023年入社の新人が大阪での集合研修終えて、東京オフィスに初めての勤務でやってくる。といっても東京の事務所は、大阪本社からすると東京支社。
私は、この事務所の「所長」である。
事務所と言っても、この場所には「所長一人」しかいない。
その理由は、この会社の業務形態にある。
IT業界と言っても華々しいアプリ、スマートなWebデザインのような人に見えるようなITテクノロジー企業ではないと思う。SIerといわれる「ITで課題を解決する集団」という、外から見れば賢く聞こえることを謳っているIT企業である。
実態は技術を身に着けてある程度したら、人一人に価格が付き、システム導入先のプロジェクトに派遣される。
その場でシステム開発を行うという仕事に従事する言い方は悪いが「人売り商売」ともいわれている。
そのため、この会社には「従業員=社員(技術者)」はいないのである。
そして、「ショチョー」という呼び名は、私がやるつもりもなかった管理職に強引になった事情を知る人がつけた呼び名である。
「なぜ、そんなことになってしまったのか?」
そして、この所長が今のポジションで働くこととその理由を考える物語である。
新人女性が東京支社に初出社
東京支社はとある雑居ビルの一角にあり、オフィス賃貸し始めて20年以上になる。
部屋の広さは、業務用のテーブル6席+所長席/パーティションで仕切られた会議室が一つでよくある士業の方のようなオフィスに近い構成ではないかなと思う。
20年以上あるこの東京オフィスの所長は、私で4代目になる。
まさに新入社員にとっては東京オフィスの初日。
朝9時前に「カランカラーン※」
小さな女性の声で「失礼します」
※よく喫茶店にある「扉が動く鈴」が昔から取り付けられている。
いつもは一人しかいない東京の事務所に、研修で2カ月終わった充実感を持って来た新人女性。リクルートスーツで初めての東京事業所の出社は、さぞかし緊張するものだっただろう。
大阪での集合研修の話を聞き、当分利用することになるだろう東京事業所の施設案内をさっと済ませる。
東京事業所でしばらく「教育」という大阪での「IT基礎研修の復習」とこれから「業務で使う特別なIT技術の習得」に向けて事務所で勉強することになった。
すぐに仕事ではないのか…
(新人女性も少し気合い抜け)
この業界では、集合研修でITの基礎を教えた後それぞれの配属先でOJTという昔ながらの教育方法で先輩社員の下につけて仕事をしながら教える。というやり方をとることもあるが、今回の新人女性はいろいろと訳アリである。
(それも「2.新卒採用」で説明)
すぐに仕事に就けないということがわかると「これから何をするのか」を所長である私から小鳥にエサをやるように細かく砕いてタスクに粉砕する。
それぞれの目標設定は個人にゆだねるが、今回の新人女性はそれも社会人のルールとして教える必要がありそうだ。
5月に私が仕事の合間をみてスケジュール作成したExcelファイルを新人宛てのメールアドレスにファイル添付で送ったところだ。
ITの基礎は、所長の私でも教えることはできる。
以前、この会社には中途採用で採用した女性(20代前半)がいる。
新卒の集合研修ができない上に、全く違う業界からの転職をした。
中途採用した女性は、採用面接の日に風邪にかかり、熱が出て別日に面接し、内定。1か月後にわが社に就職した。
新人教育のような集合研修ができないのは、中小企業の教育の悩みでもある。そこで、私がITの基礎について教えることにした。
東京事業所近くの書店へ行き、自分に合った基本情報技術者試験の本を買い、私しかいない事務所で勉強を始めた。わからないことがあれば、元システムエンジニアの私に「教えてください!」と言って毎日1時間ほどホワイトボードを使って教え、授業の時間を作った。
ただIT基礎を教えるだけではなく、まだシステム開発の現場に出たことのないものに「仕事のやり方」や「集団で開発すること」などを織り交ぜながら世間話のような感じでホワイトボードを前に教育した。私も自分の管理職業務がある中で1日数時間を捻出して教えることは楽しみの一つでもあった。
ほかの新卒で入社するものたちよりも仕事(取引先)に行くタイミングは遅くなったが、自分のキャパシティ以上に頑張る人物。
気づくと今やこの東京事業所の4年目社員となり、取引先でも人気者。仕事の合間に簿記も勉強して非常に評価を得るものとなった。この女性のモチベーションは「給与」。前職では残業代もボーナスも休暇もない業界で働き、自分が年を重ねても、人生のステージが変わったとしても続けていける職業と会社に就職したいということで弊社の内定を承諾してくれたようだ。
この中途採用で入社した女性は、弊社の「ゆるさ」と自身の立てた目標の到達での「給与がアップする」ことに非常に満足感を得て、事務所で学習する時間は楽しい時間だったともいう。
ということで、今年入社した新卒の女性にもそれを適用したが、それはうまくいくとは限らない。
と思っている。
それぞれの人に合うように
このような発言を定期的に繰り返すが
社会人一年目にある「わからない」という正しい認識だと思う。
「6月」という月はこんな新人女性にとっては、取引先で先輩と仕事をすることになることを夢見てひたすら勉強に明け暮れるにが続く。
1度だけの「顔合わせ」
新人女性と東京事務所に所属するメンバーが顔合わせをすることになった。
東京事務所に所属するメンバーは、10名。私と新人女性で12名。
本社を合わせると60名程度の中小IT企業だが、一部門としては立派な数。10名程度を統括する長が「所長=私」である。
とある日の午後、顔合わせはウェブ会議形式ですることになり、私が部門の長としてメンバーにメールを送り、当日は新人女性と所属メンバーで話を30分ほどしてもらうことになった。
私はログインしてくるメンバーを見た後はウェブ会議から退出し、事務所にいる新人女性の画面の後ろで様子を見守ることにした。
学生の時はなにをしていた?
趣味は?
なんでITとかうちの会社なの?
いろんな話は出たと思う。
いまや「休みの日に何してるの?」は異性から聞くと「ハラスメント」になる可能性もあるので、質問自体が慎重。そして、できるだけ先輩たちもウェブ会議では顔を出してくれたが、新人女性は事務所でマスクを外すことはなかったし、一部顔出しのない先輩社員もいた。
こういうところを見ると、感染症での特有のコミュニケーションにも見えるが、これはいたって普通の従業員のやり取りでもある。
一つ、私も「失敗したこと」がある。
もう少し新人女性と先輩社員たちの距離を縮めたいと思い、次の週にも顔合わせと称したウェブ会議を企画した。
1回目の顔合わせに参加できないメンバーもいたためで、その中では新人女性にパワーポイントで短い自己紹介を作ってもらい、先輩たちが話しやすいものを作ることだった。
たたこのウェブ会議には、だれも来なかった…
「業務が忙しい」という理由のほかに東京事業所所属メンバーには「1回、新人の声が聞けたので2回目は参加しなくてもいい」という考えもあったのだろう。
ウェブ会議を指定した時間に、事務所所長と新人女性のみが接続したウェブ会議室に先輩社員たちは来ることはなかった…
このスライドを作ってくれた新人女子には「申し訳ないことをした」と、その時は反省した。
新人女性にとっては「社会人はドライ」とも思ったかもしれない。
先輩たちに教えてもらう時間
ただ勉強するだけでなく、週に2回程度、先輩がとあるパッケージソフトの研修を1時間から2時間程度、業務の合間を縫ってオンラインで教えてくれる時間がある。
先輩は、業務の合間と言っても自宅でテレワークをしているメンバーが中心で、業務中でも時間が作れる先輩が新人女性にウェブ会議システムを通して教えてくれる。
上司の私にとっては非常にありがたい話で、先輩社員たちも自分の業務があるにもかかわらず、新人女性のために貴重な業務時間を割いて教えてくれるわけだ。もちろん、自分の業務があれば、ウェブ会議中でもそちらが優先になるのだが、テレワーク中にそこまで声がかかるということは稀である。
なにより新人女性にとって良いのは、東京事業所で働く先輩の声を聞けることである。
午後の時間を利用してウェブ会議で、先輩が研修してくれた後、新人女性がイヤホンを外す。
新人女性は、先輩が教えてくれることに感謝していた。
イヤホンをしているぐらいなので、研修の音声は私にはわからないが同じ事務所でウェイブ会議をしていると新人女性の声は聞こえる。
その声は、自分が苦労かけて先輩に教える時間をとらえてしまっていると申し訳なさそうにするのと同時に、先輩に教えてもらえているという嬉しそうな声にも聞こえた。
報告会議
ウェブ会議を利用しているが基本的に事務所に出社して、私と新人女性は1日事務所にいる。新人女性はひたすら参考書をノートに書き写して勉強している。私が業務の合間に、質問を定期的に投げるだけの日々が過ぎる。
そんな中、月に1回、自分の仕事の進み具合やプロジェクトの進捗具合を所属メンバーの前で話す機会がある。
過去(コロナ前)には、夜19時以降に事務所に集まってリアルの場でそれぞれの仕事の進み具合を聞く時間を設けて20時には帰る(または飲みに行く)ことがあった。
この習慣は、東京事業所が2002年にはじまって前任3代ほど所長がいたが、全員が引き継いできたものだったりする。
4代目の私は、その形をいまはしていない。
この会議もウェブ会議で実施しており、全員ができるだけ参加できるように1日に2回開催し、時間をずらしている。それぞれの都合に合わせてどちらかの会議に出れば、所長である私から「会社の連絡事項」などを聞き逃すことなく参加できる形式にした。
それは、参加する方には便利ではあるが、コミュニケーションが偏る結果となっている。
新人女性には、同じ内容の会議をこの日だけ2回出席してもらい、自己紹介スライドを2回説明してもらった。ただ、顔合わせもして初めてではない先輩たちは、このウェブ会議ではすこし冷たかったかもしれない。
作った資料が報われたことでその日はよしとすることにした。
6月下旬のある日
IT基礎を毎日勉強し、システムの開発の現場を知らない新人女性との時間が東京事業所に出勤するたび過ぎていく。
そんなある日、新人女性と話しているときに彼女の就職活動の話になった。
弊社に内定が取れるまではかなり紆余曲折のあった人物で就職活動での苦労を聞いているときに彼女の口から出た言葉から、この文章を書き起こそうとした理由ができた。
彼女にとっては40代後半は親ほど離れた年齢の人に今働いている理由、そしてこの会社に勤めている理由を聞かれてすんなり一言で答えられる気がしなかった。
話はここから始まっていく。
ーーー第一話はここまで。
ここまで読んでくれてありがとうございます! 読んでくれる方の多くの「スキ」で運営されてます!! XやInstagramのフォローは自由にどうぞ!