スポーツ選手の「消える」現象について考えてみた

写真は5年前に愛知県で行われた全日本中学校陸上競技選手権大会(以下全日中)男子1500m決勝。
左から2番目が私です。(予選4分04秒73はその年の全日本中学ランキング10位。決勝は14位と惨敗でした。)
全国大会のファイナルで走るという貴重な経験を中学生の時にさせていただきました。
5年前のことですが今でも鮮明に覚えていますし、大学に入学した際は多くの先輩や同期からこの大会について問われました。
私の後ろを走ってるのは吉田圭太選手。(広島・世羅高→青山学院大学)前を走ってるのは遠藤日向選手(福島・学法石川高→住友電工)と現在の世代を率いる選手達。他にも神林勇太選手(熊本・九州学院高→青山学院大学)や齊藤涼選手(秋田・秋田工業高→旭化成)といったその後大きく飛躍する選手達が出場していました。
この他にもこの大会で活躍した選手で現在も日本のトップレベルで走る選手は大勢います。
しかし私は、存じの方も多いと思いますが

この大会を最後に個人での全国大会出場がありません。

それどころか、中学時代は当たり前だった県大会での優勝も高校では一度も達成することができませんでした。陸上選手として最も本質的な目標である自己記録の更新という目標でさえ2013年から達成できていない種目もあります。

なぜ、中学の頃は全国レベルで勝負することができていた(ここに関して異論がある方がたくさんいらっしゃるとは思いますがここでは今より高いレベルで勝負することができていたと解釈ください)選手が突然、表舞台から「消えた」のか。

専門誌で特集が組まれたり、「消えた天才」というテレビ番組が放送されたりと最近ホットな話題ですが、「消えた」選手本人が原因を考えたものは少ないのではないでしょうか。

私は「消える」前も全国トップレベルではなかったため、「消えるも何もそこまで強くなかっただろ」という意見が一定数あるのも覚悟の上ですが、昔はある程度できたのに今は思うようなパフォーマンス(スポーツ以外でも音楽、勉強、仕事…)が発揮できなくなっているという方を含め、私の周りの「消えていった」仲間達も一定数存在するのでなぜ彼らが「消えた」のかも含めて「消えた」人間である私の考えを良かったら見ていっていてください。

まず、世間一般的に「消える」原因として考えられているものは「早熟」説ではないでしょうか。
ジュニア期にハードなトレーニングを行い過ぎた結果、「伸び代」のほとんどを使いきってしまう、というものです。
確かに、中学、高校で全国大会に出るには相当なトレーニングが必要です。今考えれば中学時代よくあそこまで追い込んだトレーニングを継続できたと思います。練習も基本的には自分で決めていたのにも関わらず妥協せずやりきることができました。結果が伴ってくれたのでこのプロセスは否定されにくいものですが、結果よりプロセスの方が今となっては大切で誇れるものです。

しかし、この説では、全てのジュニア期のトップ選手は伸び代の使いきっているといることになってしまいます。先述したように全日中やインターハイで活躍した選手がそのまま大学や社会人で活躍している選手の説明がつかないため、他の説を検討する必要がありそうです。

結果を出すためには本当に多くの要素が整うことが必要です。その中でもやはり一番大切なものは自らの能力を伸ばすためのハードなトレーニングを継続することではないでしょうか。実際、トレーニングの内容が変化してパフォーマンスが低下する方は多いように思います。
そこで私は自身の経験も踏まえて「結果を出すためのハードなトレーニングを継続できる状態が失われてしまう→レースで結果がでなくなる→過去や他者、理想と現実のギャップに苦しみ自分の目標や進むべき道を失ってしまう」というプロセスがあるのではないかと考えました。

「結果を出すためのハードなトレーニングを継続できる状態が失われてしまう」とは、進学や異動に伴いコーチが変わり、相対的にトレーニング強度が落ちたり、タイプの異なるトレーニング(スピードタイプの選手が距離重視のトレーニングを強いられるなど)を行わなくてはいけなくなったりすることです。その他にも故障が増えたり、通学時間が伸びて回復(ケア、食事、睡眠等)に時間をかけられなくなり疲労の蓄積によりトレーニングの消化率が悪くなることも含まれます。

ハードなトレーニング(自らの限界値を高めるトレーニング)が継続して積めなければ、選手としての能力は頭打ちになるか劣化していくので、年齢の増加と共に周りの選手がレベルアップしてきて、レースで勝てなくなってきます。更に、自己記録の更新も難しくなってきます。そうなってくると、選手の心理として今やっていることに自信がなくなってくると同時に、現実や活躍したという過去とのギャップに苦しみます。
過去の自分から未来像をある程度予測していることにより、
「自分はこんなはずではない」
という思いの元、結果を出すために必要なものを見失ってしまい(オーバートレーニングや、正しいトレーニングでさえも結果が伴ってなければ疑ってしまう)、最終的に過去の自分が立てた目標に遠く及ばない場所まで堕落してしまい自己嫌悪に陥ったり、目標との距離がありすぎて努力しても届きそうもないことを悟りそのまま表舞台から去ってしまう、というサイクルがあるのではないでしょうか。

私の大学の専門科目は社会科学のため科学的根拠は全くありませんが、これまで言われてきた「早熟説」や「燃え尽き説」よりは実体験が元になっているので多少は説得力があるとは思います。

では、このようなサイクルを打破するためにはどうすればよいのか。
結論はこの3つだと思います。

1.信用できるコーチに師事する
2.外的環境(回復を効率的に行うため)を整える
3.メンタル面において、自信を持ち続ける工夫をする

1は高校、大学などでは大人数を少数のコーチが指導するため、合う、合わないに関わらずどうしても皆同じようなトレーニングをせざるを得ないということ組織のデメリットから抜け出し、パーソナルな指導を受けることが重要であるということです。選手は進路となるチームで1日1日どのようなトレーニングを行っているかを完全に把握して進路を決めることは少ないと思います。そのような情報の非対称性がある中での進学(チーム、コーチの選択)を余儀なくされているのが現状です。
コーチを変えるということは日本の現状を考えると現実的ではないかもしれませんが、陸上競技ではプロ化の動きなども盛んですし、個人競技などはもっと積極的にチーム間の移動があってもいいのではないかと思います。結局、結果を出し続けるために最も重要なことはトレーニングだと思います。それを信用できないコーチの元で行っていても結果はでないのではないでしょうか。アメリカなどではジュニア期から一貫して特定のコーチが指導をしている例もあるようなので、選手が最善の指導を受けるための制度作りが求められていると思います。

2は、ハードなトレーニング後に必要な迅速な栄養摂取と質の高い休養(睡眠)をとることを妨げている障壁を取り除くことにより結果を出すためのハードなトレーニングを継続できる仕組みを整えることです。
具体的には、社会的行動(通学時間等)によるネックの解消のため寮に住むことでトレーニング後すぐに食事を摂れるようにしたり、(男子長距離ではこれにより一度停滞しても大学や社会人になって飛躍するケースが多いように感じます)回復に関しては時間の確保等自己意識が重要な面もあるため、一概に外的環境のせいにすることはできませんがこれも社会的行動(仕事、レポート、バイトなど)によるものを極力解消するような工夫をできる範囲でやることが大切なのではないでしょうか。
女性選手の「消える」原因に関して年齢が増すにつれさまざまな「管理」が難しくなることを指摘していた方がいましたが、これは男性も同じことでよくも悪くも、年をとるにつれていろいろな「楽しさ」を知ってしまいます。それまで競技に集中していた方はなおさらその「楽しさ」に溺れてしまうことも多いと思います。それ自体は社会的な付き合いということから仕方ない面もありますがもし可能であればハードなトレーニングを継続するためにと頭の片隅で考えて自ら線を引くことも重要なのではないかと思います。(と自分に言い聞かせています。笑)

3は、一度自信を失い競技から退いても何度でもリスタートができるということを自覚すること、自分の可能性をもう一度信じること。でしょうか。メンタル面に関しては重要だということは自覚していますが知識がないので深く触れることはできません。
結果が出なくなってくると選手は精神的に追い込まれます。そこで自己嫌悪の底から引っ張りあげるためにはメンタルを科学的に捉え、もう一度高いパフォーマンスを発揮できるようにする内面作りが求められていると思います。
これに関しては現在では多くの専門家がいますので、その方の力を借りるのもひとつの手ではないでしょうか。根性論では何も解決しないので、デリケートなメンタルというパフォーマンスに大きく影響するものを科学的なアプローチでプラスの面に変えていくことで「まだやれる」と思えれば選手はもう一度立ち直れると思います。

この競技をはじめて9年目となりますが、そのなかで多くの方と出会いました。人として大切な価値観や考え方は陸上を通じて得たものがほとんどだと思います。大切な仲間もたくさんできました。
しかし、多くの方が道半ばで陸上競技を辞めていく姿も見てきました。やる気や継続意思がなくなったという主体的な要因で辞めていく方もいましたが、コーチとのトレーニング方針でのトラブルによりかつてのようなパフォーマンスやその他ハードなトレーニングを継続するためのネックが「創られて」しまうというような外的要因により発揮できなくなり「消えて」いった方も多いような気がします。強くなるために進学した先で地獄のような日々を送り、退学せざるを得なかった事例も見てきました。

「消える」原因に関しては本当に複雑で多種多様なものが根幹にあると思います。ただ、「消えた」と言われる選手も懸命にもう一度あの場所を目指す、という意志を持ちトレーニングに励んでいる選手もいます。

結果だけでプロセスや人格までも評価されるこの世の中で「消えた」と言われる選手や必ずしもトップレベルの選手ではなくても壁を壊そうとする選手の姿は本当に感動します。これこそがスポーツの本質的な部分であると思ってます。
もちろん結果を出すことは素晴らしいことです。しかし、現実的にスポーツを生涯の生業としていける方は何人いるでしょうか。スポーツ選手は誰しも引退を迎えるときがきて、競技力はトレーニングを怠れば低下していき、スポーツをやっていない方よりも運動能力が劣る日も必ず来ます。
そうなったときに何が残るか。競技能力を差し引いて何が残るのかを追及していくことが長くスポーツに関わってきて大切なのではないかと思います。

最後は個人的な感想になってしまいましたが。
今回はTwitterのフォロワーに向けた陸上競技に関する話題で一番書きたかったことを文字におこしてみました。
感想、意見等リプでお待ちしております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
素敵な1日をお過ごしください。

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マッチ

男子大学生。陸上競技(長距離)選手。東京在住。「スキマ時間に彩りを。」をテーマに思ったことを綴っています。

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