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米国10年金利の今後の行方と決定要因について(ソシエテ・ジェネラル証券 劍崎氏/モーサテ Oct.17,2023)

アメリカの10年国債金利は、中東情勢の悪化により、リスクオフの流れがあり、足元では少し低下し始めているが、9月は大幅な上昇となった。この上昇について解説する。

アメリカの10年国債の金利の変動要因は大きく分けて2つある。

⑴ 将来の政策金利の予想である期待政策金利
⑵ 債権を長期にわたって保有するリスクに応じた上乗せ金利であるタームプレミアム

2023年8月末から10月頭にかけて、米国債10年金利は約0.8%上昇し、その中で期待政策金利は、ほとんど変わっていない。一方で、タームプレミアムを受け、ほぼこの上昇を説明できる。


タームプレミアムを決定する要因として、2点ある。

⑴ 財政赤字の見通し
⑵ FRBの量的緩和(QE)もしくは量的引き締め(QT)の影響

財政赤字の見通しの悪化、FRBの量的引き締めにより、タームプレミアムを押し上げる方向に働く。
逆に、財政赤字の見通しの改善、FRBの量的緩和策によりタームプレミアムを押し下げる方向に働く。

2021年の前半に注目すると、バイデン政権が大規模な経済対策を発表したことで、財政赤字の見通し悪化し、その結果タームプレミアムがプラス圏に浮上した。

その後、議会の抵抗により、大規模な経済対策が決められなくなり、財産赤字の見通しが改善し、タームプレミアムが再びマイナス圏に落ち込む形となった。

2022年の4月以降、財政赤字の見通し以上にタームプレミアムが上昇した。その理由は、FRBの量的引き締め策が開始された影響が出ている。

2023年8月以降、米国債の増発、政府閉鎖の危機、会員議長の解任などがあり、米国政府の債務返済能力に疑念を抱かせるような時代になり、タームプレミアムを押し上げる状況になっている。

今後市場の財政赤字見通しについて、つなぎ予算の期限が2023年11月17日と言うことを考えると、期日が近づくと再び政府閉鎖の懸念、政府の債務返済能力に対する疑念が高まる可能性がある。

現在市場が織り込んでいる財政赤字の見通しは、対GDP比でマイナス5%程度を想定している。
ただ、アメリカの議会予算局が、2024年、25年度の最初の見通しを−5.8%と予測しているため、今後政府の債務返済能力に対する疑念が高まれば、この財政赤字の見通しに対する市場の折り込みが一段と高まると可能性がある。

今後、アメリカの10年債利回りが5%に達するかどうかについて、財政赤字の見通しとFRBの短期市場の見通しであるFF金利先物に照らし合わせたところ、足元の10年債金利が急上昇していると言うことを受け、追加利上げは不要である可能性を述べている。

足元の1年先のFF金利先物は、現在4.9%程度となっており、仮に追加利上げがないことが織り込まれると、4.6%程度に低下する可能性がある。

また、中東情勢の緊迫により、米国10年金利を約0.3%下げている状況にある。ただ今後、財政赤字の見通しに対する織り込みが、− 5.75のレベルまで進んでいくと、1年先のFF金利先物が下がり、中東情勢の緊迫が続いても、10年金利が5%に達する可能性が出てくる。

日本への影響について、海外要因としての米国10年債金利と日本の期待インフレ率を照らし合わせ、日本の10年債金利の適正水準を出した。

日銀が、今後も残存期間5年超10年以下の国債を毎月3兆円購入し続けると、日本の市場参加者の期待インフレ率が1.5%、米国10年債の金利が5%とすると、日本の10年金利は1%を超えることが示唆される。

日銀は、7月の会合により、市場機能の低下要因として期待インフレ率に注目し、イールドカーブコントロールの運用の柔軟化に踏み出したが、アメリカの10年金利が5%達すると、外的要因を理由に、再びイールドカーブコントロール運用の柔軟化を考えられる可能性がある。

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