ぺぶはベッドで絵を描いている、する事がないものだから、私はじゃがりこを噛んでいる。ガリガリと前歯で噛むかグシャリと奥歯で噛むか、そのどちらが美味しいのかを考えている、ふりをする。今日はお休みなの?うん、だから絵を描いているの、人を黒く描くと心配してもらえるんだ。学校で貰った鉛筆でガリガリと塗りつぶす。傷はもう大丈夫?ぺぶは優しい、髪の毛の匂いも香ばしくてドキドキする。血が出てたけどもう平気。指はだめって言ったのに入れる馬鹿がいてさ、生理のふりをしてズル休みができたら最高だね。オモニは敏感だからバレちゃうよ?だよね、笑って、あれ、なんの話をしていたっけ。

ぬるい空気が淀んで心地よい。ぷくりと鼻に浮いた水玉の汗を、ペロリと舐めてくれるぺぶはやっぱり優しい。この国はとても寒い。外気に触れるまでの短い時間、私たちの汗は溶け合って、誰も入り込めない匂いの檻を作る。イルボンがねブログ見たってやってくるの、ぺぶは私より大きな乳をしているから喜ばれるね。そのうち大きくなるわよ、大きくてもねぇ。私たちの乳はけして子供を育てるためには使われない、これも昔からの女の役割だから、と無表情で首を振る。ぺぶは犬がすき?急にどうしたの、この絵、犬だけが空色でとても不思議な気がするんだ。ぺぶは悲しそうに微笑んで、そうして、じゃがりこがない事に気づいて私をペチンと叩いた。

じゃあね、ぺぶ、行ってくる。はちみつ色の時間は誰かの意思で濁った色に塗りつぶされる。どこにもいかないでね、どこにもいけないのよ、うん知ってる、いつもの問いかけと答え、コートを巻きつけて外に出る、寒い。オモニに挨拶するといつも通りの仏頂面で十番、っていう。クリームを鎧代わりに塗りこんで、鳥肌を隠して私はエレベーターに乗り込んだ。さてさて、手首に十番をさげたのが今日の飼い主、それこそ何百と何千と繰り返してきたことをするだけ。私の乳首に這うこのくちびるがぺぶのものだったらね。そういえば空色の犬は窓みたいだった、犬のかたちで犯されながら、私は窓を開ける。

ぺぶ、

そこには緑色の草原があって、そこには犬と同じ色をした屋根の小屋があって、オンドルもあるから凍えなくていい。後ろには水車もあって小麦を挽くのにも問題はない。美味しいパンを焼こうよ、じゃがりこは?あんなイルボンの食べ物はいらないよ。抱きしめる、ぺぶはあったかくて柔らかくて素敵だ、今日から二人っきりだね、ぺぶは微笑んで、ベッドは別にしようねって言う、やだよ寂しいじゃない、私を捕まえられたら、一緒に寝てあげる、ぺぶの足は早い、でも、なんとか捕まえて、懐かしい、匂いのする、草原に、二人して、倒れこむ、もう、離さ、ないから、ぺぶが、私を、くすぐる、なに、する、のよ、えっち、なんてはしゃいで、そうしてオモニから電話が来る。うん、問題ない。終わった。

チムジルバンのふたりの部屋にぺぶはいなかった。部屋にはぺぶの描いた絵と食べ終わったじゃがりこのカップが転がっている。この国はとても寒い。絵は空色の犬だけが綺麗に切り取られていて、それを見た私はもしかすると微笑んでいたのかもしれない

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