食卓_食のシンポジウムの画像_

「食の多元的意味」を考えるシンポジウム

1型糖尿病、2型糖尿病、摂食障害経験者という3人のパネリスト、特別ゲストに文化人類学者・磯野真穂さんをお呼びして、「食の多元的意味」を考えるシンポジウムを開催します。以下に、その内容をご紹介させていただきます。

■シンポジウムの目的
食をめぐる言説の急激な変化の中で、悩みながらも、“自分らしい食のあり方”を追い求めてこられた3名のパネリストに発表していただき、ひととき参加者と共に生物医学だけではない「食の多元的な意味」について議論するシンポジウムです。

■開催日時2018年9月30日、10:00〜13:00
■会場:ビジョンセンター日本橋、本館503号室、  
    https://www.visioncenter.jp/tokyo/nihonbashi/space/
■会場へのアクセス(日本橋三越新館の向かい側の路地を入ってすぐ右側、第四銀行
 とミカドコーヒーの間にある白いレンガの建物の5階が受付です)
    https://www.visioncenter.jp/tokyo/nihonbashi/access/
■プログラム
☆パネリスト発表
パネリスト1:1型糖尿病患者の立場から
パネリスト2:2型糖尿病患者の立場から
パネリスト3:摂食障害経験者の立場から
☆特別講演 文化人類学者 磯野真穂さん
☆総合討論

■シンポジウムを企画した背景
近年、我が国では食をめぐる議論が大変盛んです。糖質制限食という食事管理法が国民の健康志向とも相まって、ダイエットや肥満解消を売りとするビジネス界まで巻き込んで、大きな話題となっています。

 我が国の健康行政はこの20年間で大きく変貌し、それに伴って個人の健康意識も大きく変化しました。転機となった出来事として、1996年、当時の厚生省が“疾病は予防できる”という認識を醸成することを目的として、それまで「成人病」と呼ばれていた糖尿病、脂質異常症、高血圧などを「生活習慣病」という行政用語で呼称するようになった出来事を挙げたいと思います。これによって、個人の生活習慣の改善に注目が集まり、「疾病の自己責任論」が強調されるようになりました。またこの名称変更は「病気の原因は、個人の悪い生活習慣である」という新たな病因論を生み、患者自身に「悪い生活習慣をしてきた人」というスティグマ(不名誉、屈辱)を与えることとなりました(浮ヶ谷,2004) 。

 さらに2008年からは腹囲が大きく血液検査に異常値を持つメタボリックシンドローム該当者ないしは予備群を選び出す、いわゆる「メタボ健診」が開始されました。これは一部の人々からは中世ヨーロッパの“魔女狩り”になぞらえて“メタボ狩り”と揶揄されました。

 こうした言わば“社会的な健康圧力”によって、国民生活の医療化(医療化とは、これまで医療的問題でなかった事象が、医療の問題として取り扱われ、治療の対象となっていくこと)が進み、「健康=良いこと」「病気=悪いこと」といった健康至上主義や「健康自体を人生の目的化してしまう」健康中心主義(ヘルシズム、healthism)が生まれ、医療社会学(医療社会学とは簡単に言うと、医療の世界を社会の視点から研究する学問)の専門家からはさまざまな批判が指摘されています。そして今や現代社会は医療や健康という概念なしには語れなくなってきたと言えます。

 一方、2000年以降インターネット技術の急速な進歩によって、誰もが簡単に健康に関する疫学情報にアクセスすることができるようになりました。さらに医療専門職だけでなく、メディアをはじめとした多くの個人や企業によって発信される玉石混淆の健康情報が人々の暮らしの医療化に拍車をかけ、糖質制限ビジネス(ライザップ、シャリなし寿司など)をはじめとする健康ビジネスを生みました。

このような社会の大きな変化の中で、さまざまな健康情報に翻弄され、「食をめぐる悩み・苦しみ」を抱える人々が急速に増加したことは必然の成り行きでした。食とは本来、個人の生き方や価値観に根ざし、その国固有の文化的な伝統を継承するものでもある筈です。しかし、近年、臨床疫学や生物医学にばかり依拠した食事論争が展開されている風潮に、私自身、大きな疑問を感じていました。
 
 そこで今回のシンポジウムでは、食をめぐる言説の急激な変化の中で、悩みながらも、“自分らしい食のあり方”を追い求めてこられた3名のパネリストをお呼びし、発表していただき、ひととき参加者と共に生物医学だけではない「食の多元的な意味」について議論するシンポジウムを企画しました。3人のパネリストには「生物医学的観点」とも「臨床疫学的観点」とも「食育の観点」とも異なる、それぞれの立場から、『ご自身と食の関係』について語っていただきます。なお、特別ゲストとして、「なぜふつうに食べられないのか:拒食と過食の文化人類学」、「医療者が語る答えなき世界: 『いのちの守り人』の人類学 」などの著書で知られる新進気鋭の文化人類学者・磯野真穂さんをお迎えします。

 こうしたテーマに関心をお持ちの医師、看護師、管理栄養士などの医療従事者、糖尿病や摂食障害の当事者やそのご家族などのご参加をお待ちしています。

Facebookのアカウントをお持ちの方は以下のイベントページからお申し込みいただけます。
https://www.facebook.com/events/263414764256721/

2018年8月1日、シンポジウム企画者 杉本正毅

#食文化 、#1型糖尿病、#2型糖尿病、#摂食障害、#食べること、#自分らしい食

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