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建築を深読みできる入門書「教養としての建築入門」(^^)

本(教養としての建築入門)(長文失礼します)

そのタイトル通りの建築入門書ですが、「教養」と冒頭につくのが単なる入門書には留まらない内容となっています。私自身も大学の建築学科を卒業後、建築業界や不動産業界の建築部門に長く従事してきましたが、これまでの復習も兼ねて読んでみることにしました。

筆者の坂牛卓さんは現役の建築家で、内容は第一部・鑑賞論-建築の見方、第二部・設計論-建築の作り方、第三部・社会論-建築の活かし方の3部から構成されています。
先ずは建築を見てその良さを実感し、建築を実際に設計してみる。さらにその建築が社会における役割を考えてみるというものです。

第一部は、最初のステップとして名建築と呼ばれる建築物を様々な観点から観賞するものですが、建築にも様々なスタイルがあり、筆者は以下のように分類しています。
「写真建築」とは輪郭線が明瞭な建築物で写真映えがするもの。「演劇建築」は「写真建築」の静的な建物ではなく動線などで連続性のあるもの。さらに「顕微鏡建築」は建物のディテール(細部)を強調したもの。さらに「物自体建築」は、モダニズム(近代主義)への反動として建築は人のためにあると同時に、自然の一部という思想に基づくものです。こうした予備知識となる前提が、建築鑑賞の深読み役立つと述べています。

第二部では、実際に建築設計をする過程を、建築家である筆者の実務経験を基に解説していますが、筆者が提唱するのは「建築病院」という考え方で、病院に内科や外科があるように、建築も分業化して各専門性に特化した業務を提供できるようにするとしています。

最後の第三部では社会における建築の活かし方、役割についてで、建築が政治や社会によって、大きく影響を受けてきたという事実は歴史も証明しています。
近代建築の主流となったモダニズムですが、「ホワイト派」はその巨匠であるコルビュジェ派のことであり、コルビュジェの設計した建築物が白い箱型のデザインだったことからこう名付けられました。そしてその設計手法は設計の主体を設計者に限定するというものです。それに対する「グレー派」は、アンチ・コルビュジェ派のことであり、設計手法にも様々な他者を受け入れるという対抗軸です。

建築家が設計やデザインを全て1人でやり通すのか、他人の手法を取り入れながらアレンジしてデザインするのか、これは各当事者の信念やこだわりによって変わってきます。職人気質ゆえのこだわりも当然あると思いますが、ちなみに近代建築の3大巨匠はいずれも高等教育を受けていない職人出身の建築家でした。こうした対立軸も、その時代の潮流の影響を多く受けたものであると言えます。

また「スターアーキテクト」が誕生したのは、建築が商品化され、高く売れる、投資性の高い商品になることが強く期待されるようになってきたからで、時代の要請として必然的に発生したということになります。これも経済効率優先の概念であり、建築は芸術活動であると同時に、人間を包み込む器である人間との関りを追求する融合活動であり、社会に関与す社会活動であるとの認識の重要性を筆者は説いています。

入門書といいながらも、私のように業界関係者でも初めて目にする言葉がいくつもあり、正に広範囲での教養を身に付ける1冊だと思いました。

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