まも
Twitterにて載せた140字小説の加筆・修正版になります。
目が覚めると部屋にわたし一人だった。彼は、あの人はもう居ない。 思い出と寂しさを置き去りにしてわたしの元を去った。 「あっ──これって」 煙草だ。テーブルの上に見慣れた煙草が置いてある。彼の忘れ物。 煙草を吸っている彼の姿が好きだった。 わたしは慣れない手つきでその煙草を咥え、火を付けた。 「げほっ……まずっ」 初めての煙草。どこか懐かしい味がした。
「それじゃあ行こうか」 「うん。よろしく」ぼくは手を差し伸べた。 きみは嬉しそうに、ぼくの手を握りしめた。 小さくて少し冷たい手。思わず力が入った。 反応するようにきみは握り返してきた。 どこまで行けるかなんてわからない。それでも進もう。 きみと一緒ならどこへでも行ける。そんな気がするんだ。
「──それじゃあ、さよなら」 「あ、うん。じゃあね……」 彼女は素っ気なくにそう告げるとぼくに背を向けた。 何も言えず彼女の背中を見つめていると、彼女がこちらを振り返った。 「……ありがとう」 「あっ──」ぼくは言葉に詰まった。 それは彼女に想いを告げたときの返事と同じ言葉だ。 始まりと終わりが同じ言葉なんて因果なんだ。