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旅の扉_journey

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旅行は見知らぬ世界へ接近するひとつの方法だと思います。 旅行体験が、現在を、過去・未来へとつなげるはず。 自分の心にしまっておかず、皆さんと共有できれば嬉しいです。
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【フランス旅行】 『ソーグのひと夏』に思いを馳せるフランス・ドライブ紀行

「#わたしの旅行記」の企画に参加させていただきます。 市の図書館で、とある小説に手が伸びた。タイトルに、なんとなく感情が動いたのだ。 借りて読むと、そこから連想されるフランスの旅を思い浮かべた。 とある小説とは、 ロベール・サバティエ『ソーグのひと夏』(福音館文庫) である。 『ソーグのひと夏』を借りたのはほかでもない、「ソーグ」という音の響きにどこか懐かしさを感じたからである。 なにゆえそう感じたのか。 本を手にしたときには分からなかったのだが、本の末に載っている地

【海外旅行】 はじめての海外旅行、それは《世界一周便》だった

いつもは映画のことを書いていますが、今回は海外旅行について。 わたしがはじめて海外に行ったのは遥か昔(?)のこと。 どのくらい昔かといえば、後述する、いまはなきアメリカの航空会社名から推定すればお分かりいただける……と思う。 10代の頃から海外への想いは強く、その中でも、文芸や映画の世界で触れるヨーロッパ、とりわけパリへの憧れは相当のものだった。パリの地に立ち、自分の眼で確かめてみたい。そんな思いで、ヨーロッパ旅行を遂行しようと思ったのだ。しかも、初めての航空機利用。国内

【エッセイ】 モンサラーシュと橋本愛主演『リトルフォレスト』と平野紗季子『生まれた時からアルデンテ』と『愛すべき死体映画批評』

以下の文は、紀行文を書くことに飽きたわたしの道草です。 モンサラーシュは港である ポルトガルの田舎町モンサラーシュはスペインとの国境に近い、標高332メートルに築かれた城塞都市。モンサラーシュは広大な沃土の守護者だ。 沃土とはアレンテージョのこと。 アレンテージョは豊かな水脈を湛える陸上の海だ。そこに、忽然とモンサラーシュは姿を現した。 この町の指標である塔は、まるで海を照らす灯台のように思えた。 ポルトガル最初の都市エルヴァスを昼頃に出発したわたしたちは、南へと

【エッセイ】 平野紗季子『生まれた時からアルデンテ』とガケ書房(ホホホ座)

モンサラーシュは港である。 ポルトガルのアレンテージョの高台にある村モンサラーシュはスペインとの国境に近い、標高333メートルに築かれた城塞都市、裾野に広がる広大な沃土の守護者だ。 沃土とはアレンテージョ。 アレンテージョは、豊かな水脈を湛える陸上の海。そこに、忽然とモンサラーシュは姿を現した。 この街の指標である塔は、まるで海を照らす灯台のように思えた。 ポルトガル最初の都市エルヴァスを昼頃に出発したわたしたちは、南へと進路を進めた。 この日は高速を使わない。 アレンテー

【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_2日目(その1)

この記事は《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その3)》の続編として書かれています。 昨夜はワインの酔いと疲れのせいか、心地よい眠りについた。 今朝は昨日と違い快晴。空気がさらりとして、心身ともに気持ちが良い1日になりそうだ。 朝食はコンチネンタルスタイルの簡素なもの。クロワッサン、バゲット、それにカフェオレ。フランスの安宿にみられる典型的な朝食である。 クロワッサンはしっとりと、バゲットは小麦特有の旨味とパリパリ感があり、ともに美味し

【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_2日目(完結編)

この記事は《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_2日目(その1)》の完結編として書かれています。 交差廊は建物の中心軸と垂直に交差する、平面図でいえば十字架の腕の部分である。交差廊は実に不思議な空間である。交差廊中央の穹㝫を支える4本の円柱の中心に身を置くと、身廊、内陣、側廊と分節化された教会が、一瞬にしてわたしの身体へと収斂するかのような錯覚を覚える。教会の建築構造の内的主題とは、内陣へと収斂するその構造ではなく、交差廊のそういった精神機能=身

【映画評】 ジョエル・カルメット&オリヴィエ・バウアー『ことばの風』を想う

日本人にとり、ニコラ・ブーヴィエは『日本の原像を求めて』(原題)Chronique japonaise(1975刊、邦訳1994草思社刊)の著者としてよく知られたスイス人の作家、写真家である。 彼は24歳のとき、友人である画家のティエリーと行き当たりばったりの旅にでた。それも愛車であるフィアットに乗り、ジュネーブから日本に向け、陸路、ひたすら東へと向かう旅であった。 これをフィルムに収めれば壮大なロードムービーになったのに。 ジョエル・カルメット&オリヴィエ・バウアーがニ

【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その3)

この記事は、《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その2)》の続編として書かれています。 列車がクレルモン=フェランに到着したときには雨はやんでいた。しかし、夏も盛りだというのに雲は低くたれ込み、どんよりとして蒸し暑い。旅行用の重いバッグを抱え、少し歩いただけでじっとりと汗がに滲む。日本の蒸し暑さほどではないけれど、それでも、汗で衣服が身体にまとわりつき気持ちが悪い。 数年前に宿泊したホテルに部屋の空きがあれば、そのホテルに宿泊しようと

【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その2)

この記事は《中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その1)》の続編として書かれています。 定刻、列車は音もなくパリ・リヨン駅を離れた。構内放送はない。 雲は低くパリを覆い、重い雰囲気である。しばらくすると雨が降りだした。雨粒が窓ガラスを流れ落ちる。パリの風景は雨粒の中に凝縮され、いくつもの結晶となって流れた。 持参したトマス・クックの時刻表を調べると、列車はマルセーユまで行く。通常、パリからマルセーユへ向かうには、幹線のリヨン経由、つま

【フランス旅行】 中部フランス・オーヴェルニュ地方、クレルモン=フェランの2日間_1日目(その1)

ドン、という鈍い音がしてま間もなく、ゴーっと呻きをあげキャセイ・パシフィクの機体はしばらく震えた。成田発・香港乗継ぎパリ行きのキャセイ・パシフィック機。窓からは等間隔に配置された灯が後方へと流れて行った。ここがパリ郊外のシャルル・ド・ゴール空港であると認識させるものは、機体がターミナルに繋留されるまで何もなかった。外はまだ闇に包まれているのだ。それもそのはず、予定より1時間早い、まだ早朝の5時になったばかり。空が薄明を帯びてくるにはまだ1時間ほどあるだろう。早い到着だからとい