見出し画像

hss型hspの冒険|忘れられないレストラン

先日、友人に土地勘のない場所のイベントに誘われ行くことになった。

お昼ご飯どうします?って話になり、
おしゃべりも兼ねて
イベント会場の近くで食べましょうと
お互いのスマホで検索。
たまたまふたりとも目をつけたお店が
なぜかロシア料理。
一緒だったという偶然を楽しむ為に
とある一軒のレストランに行った。

ロシア料理をしっかり食べた事のない私達は未知なる食の冒険に心ときめかせて
この日を楽しみにしていた。

当日、慣れない細い路地を四駆でぐるぐる迷いながらやっと辿り着けたレストラン。

看板はしっかり出てるけど
ところどころ痛んでで時が止まっているような雰囲気が感じられる。

一瞬、店のチョイス間違ったかな、と
不安になったが、
土地勘のない場所でまた探すのは困難。
友人はさほど気にしてない様子だったので
店の中へ入ることにした。

中はこじんまりとした店内。
8人座れば満席な感じ。
あと4席くらいあるけど、
店の備品やらなんやらがたくさん置いてあり
座れない。

片付ければもっとお客さん入るのに、
と謎のおせっかいが心の中に生まれる。

どうしようか。
やっぱりチョイスミスしたかな。
店の前で感じた不安がまた追って来た。

しかも私たちが入ってドアの鈴がカランカランとなったにも関わらず誰も出て来ない。

こんにちはー。

しーん。

2人でどうしようかと顔を見合わせるけど
状況は変わらず。

もう一度、気持ち少し声のボリューム上げて

こんにちはー。

、、、

ガサガサと音がしてキッチンの奥からでできた色白のおじいちゃん。

私たちを見ると
どうぞお好きな所にお座りください。と言われ
私たちは窓辺の席を選んだ。

すみませんねー、なんせ嫁さんが亡くなってから
私一人でやってましてねー、
今ピロシキ作ってたんですよ。
もう終わりましたんで
大丈夫ですよ。

おじいちゃんの黒色のエプロン、ピロシキの生地作ってたんだろうなと分かるくらい
お腹の辺りが真っ白になってる。

おじいちゃんは水とメニュー表を持ってきて元気に話す。

もーね、嫁さんが亡くなってからひとりでしょ。
手が回らなくてねー。ランチも席がいっぱいになったら終わりにしてるんですよ。

そうなんですね。
良かった、私たち一番乗りだったから今日はランチにありつける。

ランチメニューはこの2つからどうぞ。

二種類という選択肢の狭さはおじいちゃんの出来る範囲を物語っているのかと感じながら
そのひとつ、
ボルシチ、サラダ、ピロシキ、ポットパイ、デザート、コーヒー
のほうを選んだ。

ポットパイって書いたけど
本当は正式な名前があった。
けど、ケンタッキーのポットパイがわたしの中でメジャーすぎてポットパイと変換されてしまった。

友人と近況を話しながらも店内が気になる。

しばらくすると
60代くらいの女性ふたり組と熟年のご夫婦一組が同時に入って来た。

満席になった店内に
お腹の真っ白なエプロンでおじいちゃん店長、

もーね、嫁さんが亡くなってからひとりでしょ。
手が回らなくてねー。

メニューを見せる前の前座をしている。

みんな熟年とあっておじいちゃんに温かい反応を見せる。

私は安心した。
私従業員でもないのにどうしてそう思うのだろう?

満席になってしばらくすると
私たちの席に料理が運ばれてきた。

ボルシチ、サラダ。

世間話をしながら食べてるけど、
味覚は何かを感じてる。

ふわーと優しい味が広がる。

雑然とした店内とおじいちゃんの賑やかな声からはちょっとばかり違う繊細な味が分かる。

ピロシキ。

油っぽくなくサクサクっと口に入ると
具のシンプルな旨みがふんわり広がる。

わぁ、ピロシキ毎日食べても良いかも。
そんな好待遇を感じてしょうがない。

窓辺のインテリアがごちゃついてるのが
違和感なほどに丁寧な料理たち。


ポットパイ、

もう、ケンタッキーと比べるものでは無かった。

分厚いカップに
手作りのサクサクパンがまーるくカップを覆っていた。
その中にマッシュルームと玉ねぎのグラタンがパンの天井いっぱいに風味を染み込ませていて、
パンからも染み込んだグラタンの香りがアロマのように漂っている。

パンをちぎってグラタンにつけて食べる。
ホワイトソースも余計な濃さがなくてパンもグラタンもどちらの良さも口の中で分かる。

話の途中で友人が思わず

おいしい。

それを聴いて

私も頭の中でいろいろ味わってたけど言語化できてなかった。

おいしい。

そうシンプルだけどこういう時に使う言葉なんだと感じた。

義理で言う「おいしいおいしい」が今日はない。

だってこの日久しぶりに
本当に心から感じるものが沢山あった。

帰りにおじいちゃんに
声かけたくなった。

美味しかったです。

目を見て伝えてしまった。

本当に大好きな時に出来る私の行動。

また行きたい。
おじいちゃんがいつまでも元気で
そしてどうかバイトのひとりでも雇って
少しだけ店を整えて
細く長くこの味で感動させて欲しい。

偶然じゃなきゃ会えなかった感動。

平凡な日常に優しさをくれたロシア料理、
というかあの料理を生み出すおじいちゃんに感謝しかない。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?