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体を動かす喜びと、感じた“呪縛”。ペアと、自分と向き合い乗り越える――宮山有紀選手インタビュー

宮山有紀選手は、デビューイヤーから現在(2022年度)まで、4年連続で日本代表選出。言わずもがなのトップ選手ですが、実は私(落合真彩)は大学の同期であり、大学4年間ソフトボール部でともに活動した仲です。

今回、これまでのフレスコボール歴で意識してきたこと、しんどかったことなどを話し合う中で、自分たちのルーツを改めて感じる、楽しい時間となりました。その様子をぜひお楽しみください。

習い事の合間に壁にボールをぶつけ、欲求を満たした小学生時代

落合:最近フレスコボールを始めた人には、私たちの関係性はあまり知られていないかもしれないので、フレスコボールを始めた経緯から少し振り返りましょうか。

宮山:フレスコボールは、大学のソフトボール部で一緒だったありさ(芝有沙選手/FBF)とまあやがやっているということで名前を知り、2018年にまあやが日本代表になってブラジルに行くというのをSNSか何かで見てから少し気になっていました。

たまたままあやが奈良に来ることがあったので、せっかくだからやりたいなと思って、橿原神宮近くの競技場の隅っこで、初めてフレスコボールをしました。

動画も見ていて、どんなスポーツかのイメージはあったから、ちょっとくらいはできるだろうと思って。やってみたら、まあまあできたな(笑)。シンプルに「面白い」と思ったのがその時の感想です。

落合:記憶があるかどうかわからないけど、最初は「奈良に行くからついでに久しぶりにご飯でも」みたいなノリで話していて。それまでフレスコボールの話なんてしていなかったのに、いきなり宮山さんから「フレスコボールはしないの?(笑)」と言われて、「え、なんで?(笑)」という感じでした。そのときに、千賀子さん(風味千賀子選手/GVK)とつなげたんだよね。

宮山:そうそう。奈良で体験会があると聞いたから連絡先を聞いて。初回の体験会には、まっちゃん(松井芳寛選手/GVK)や直也(岸田直也選手/GVK)がすでにいて、その時は鹿がいるところでやった(笑)。

その後関西でフレスコボールを広げていこうという中で、桜ノ宮ビーチが活動拠点になって。その頃にはやましょー(山下祥選手/GVK)も合流して、GVKというチームを作っていくタイミングでした。

落合:スポーツはソフトボール以外に何をやってきたんですか?

宮山:小学校のときはスポーツの習い事をしたかったけど、公文とかピアノとか習字とか、他の習い事が多くて、全然そんな隙がなくて。とりあえず空いている時間は家の前の壁にボールをぶつけてボール遊びをしたい欲求を満たす生活でした(笑)。中学からはソフトボール。女子サッカーをやりたいなと思ったこともあったけど、結局大学までソフトボールでしたね。

卒業してからは学校の仕事をいろいろしながら、4年目で正式に小学校の教員として採用されたので、土日は休み。だから、マラソンをしたり、フットサルをしたり、基本的には動いていたかな。

「何しに来たんやろ」初めてのブラジル選手権

落合:フレスコボールデビュー戦が、2019年3月のオオモリカップです。

宮山:この時はめっちゃ緊張しました。膝ががくがくしたし、できたこともあるけど、悔しかった記憶があります。周りの選手は歴も長いし、上手いし。それを見て「もっと上手くなりたいな」と思いました。そこからスイッチが入りましたね。

落合:実はこの2019年デビュー組が、今かなり主力になっていますよね。

宮山:始めたタイミングも絶妙だったんですよ。もし今自分が始めたとしたら、日本代表になれるかはわからないから、いいタイミングで始めたなと思います。

落合:その年のジャパンオープンでは女子カテゴリで優勝しました。

宮山:そもそも参加ペア数が少なくて、3位や2位になったことはあったけど、優勝はなかなかできなくて。でもジャパンオープンのときは周りの声がしっかり聞こえたし、緊張感でほどよく盛り上がっている自分がいて。お互いにいいプレーができて気持ち良いなと初めて思ったのがこの大会でした。
ただ逆に、その年のブラジルはプレーの記憶がなさ過ぎて印象深いです。

落合:2019年のブラジルは、日本女子は初日の朝イチでのプレーとなり、さらにその中でかざみやペアがトップで出ました。

宮山:5分の記憶が本当にないです。その後にみんなの試合があって、応援という形で横にいたけど、涙も出てくるし、そんなすぐ切り替えもできないし。無力感で打ちひしがれていた2日間でした。

落合:私はすぐ次が自分の出番だったから、あまりプレーは見られなかったけど、横で応援している男子メンバーも、サポートしようにもどうしたらいいんだろうという状態だった気がします。今振り返って、何でそうなったと思いますか?

宮山:今思うのは、ブラジルに行ってからの練習は、本来調整をするべきなのに、そこでまた上手くなろうとした感じはあったと思います。

ブラジル人のすごいプレーを見て無駄に焦ったというか。3日4日練習したところで上手くなるわけではないのに、もっと上手くなろう、上手く見せようという欲が出て、自分たちを見失ったまま本番を迎えてしまった。

スピードガンの音が鳴っているのかどうかもわからない状態で、気づいたら終わっていました。「何をしに来たんやろ」とすごく悔しかったのを覚えています。

「期待に応えなきゃ」という呪縛

落合:2019年に1年で日本代表になってブラジルに行って。2020年以降は、フレスコボール界での立ち位置はかなり変わったんじゃないかと思います。良くも悪くも周りから「優勝するでしょ」と思われるようになったんじゃないですか?

宮山:確かに期待値が上がって、それに応えなきゃ、代表としてかっこいいプレーをしないと、という気持ちは強くなりました。特に2021年に本格的に大会が復活してからは、「結果を残さないと」という呪縛のようなものに囚われてしまうことがあり、顕著にプレーにも出てしまっていました。

2人で、何がいけないのか、何がこうさせているのか、自分たちがどうしたいかを改めて考えました。自分たちの目標は「ブラジルで自分たちのプレーをすること」なのに、「周りの期待に応えなあかん」という気持ちが大きくなりすぎている。

それを確認できたので、そこから抜け出すために、試合の入り方や練習の仕方をいろいろ試して、2021年の1年をかけて呪縛を解いていった気がします。

落合:自分軸ではなくて、周りへの反応的に行動してしまっていたと。そうすると当然、思い通りにならないことも多くなりますよね。

宮山:これ、逆質問あり?

落合:ご自由にどうぞ(笑)。

宮山:まあやはもう7年くらい続けていて、ずっとトップにいるわけで。私みたいにプレッシャーを感じることもあったんですか?

落合:もちろんありました。立場を意識しすぎて、どちらかというと自分で背負ってしまっていた。でも2020年に1年休んで、そういうことを全部置いてきました。そこからは、結果を出せても出せなくても、「だからどうした」と思えるようになったというか。結果を出せたからいいとか、出さなかったからダメとか、そういう軸がなくなったかもしれない。

宮山:それはなんとなくわかる。私たちも、優勝や2位という順位よりも、目標に対する結果を見るようになったなと。上手くできたのに2位だったらもちろん悔しいけど、自分たちが立てた目標を達成できていたなら、それはもう実力だからと思えるようになりました。

フレスコボールを始めてから、心が動く場面がすごく多いんですよね。気持ちの振れ幅が広がった感じ。どん底も今までより深くなったし、逆に絶好調の上がり具合もずっと高くなった。この幅の広がりは自分がフレスコボールを通して得たもの、変化だなと思います。

寄り道する中で大事なことにたどり着く

落合:自分が上達できた要因をどう考えていますか?

宮山:物心ついたころから、動きまくって遊びまくって、知らない間に磨かれてきた身体感覚がベースにはあるとは思います。それに加えて、常にペアがいて、ペアとしての実力を高めることに注力できているのも強みです。あとは、普段から細かい感覚をたくさん試しているところかな。

落合:細かい感覚?

宮山:体の状態って、その日によって全然違いますよね。だから、今日はここかな、今日はこっちか、という風に感覚を変えながら探っていく。大枠の打ち方は変わらないけど、探っていくうちにできることが増えているんです。

あと、動画を撮ってみると、自分がイメージしている動きと、実際の動きが一致していないことがありますよね。これって、たとえその瞬間のプレーとして上手くいっていたとしても、長い目で見ると実はまずい状態。それを解消するためにもいろいろ試したりしますね。

落合:少しずつ意識するところを変えながら、いろいろと試していくことは私もやっています。それで思い出したのが、筑波ソフト部時代のこと。毎日、練習前にホワイトボードに自分がその日意識することを書いていましたよね。実はあれのおかげで、動きを超細分化して考えるようになったんじゃないかと。

宮山:あーそれはあるかも!毎日書いているとだんだん書くことがなくなってきて、でも毎日出さないといけないから、無理やりひねり出して書いていた(笑)。これは違うとか、これはいいとか、ちょっとずつ試して。

落合:でも、「いい」と思ったことを必ず続けるわけでもない、みたいな(笑)。

宮山:そう、そうやねん!(笑)

落合:さっき言っていたように、昨日の自分の体と今日の自分の体は違うから、今日の自分で試さないといけないというのはすごくわかります。

宮山:先週はこれで良かったのに、今週になったらうまくいかないみたいなことはよくあります。だから、「今日の私はどのパターンにハマるかな」って試す。そうやっていろいろ寄り道していたら、最終的にこれが大事なんかなというところに行きつくと思います。当時はあのホワイトボード、何のためにあるんやと思っていたけど、ここにつながってたんか!(笑)

動いているだけでも幸せだけど、それを人にも楽しんでもらえる喜びは大きい

落合:2019年に大会に出始めたときには、今のような状態になるとは思っていなかったと思うけど、その時からある程度やる気ではいたんですか?

宮山:それはそう。生きている中でまさか日本代表というものに手が届くかもしれないなんてこと、滅多にないじゃないですか。しかもそれが、自分が大好きなスポーツで。これはやるしかないやろって思っていました。

でもその後さらにハマっていったのは、自分が本当に好きなスポーツを、誰かと一緒にやることで相手も楽しんでくれる喜びが大きかったからです。フットサルやマラソンも、もちろんハマる人はいるけど、世代やスポーツ経験関係なくできる間口の広さは、フレスコボールの魅力ですよね。

落合:話を聞いていて、「体を動かすことが好き」ということがすべての源泉な気がしました。

宮山:私はスポーツじゃなくても、動いていること自体が幸せだから、それによってさらに他の人の楽しい時間を過ごすお助けもできていると思うと、「ありがとうございます」って感じです。

フレスコボールをこうしたいとか、強い使命感があるわけではないけど、今までやってきた出前授業やイベントは楽しいし、子どもでも大人でもスポーツを始めたり、何かにチャレンジしてみようと思うきっかけになれば嬉しい。今後もできるだけ続けられたらなと思います。

(インタビューおわり)


●まーや的雑感

私たちの出身大学は、数多くのスポーツでオリンピック選手やメダリストを輩出していて、同期にも世界レベルのアスリートがゴロゴロいました。その中にあって、我がソフトボール部は初心者も多く、万年人数不足の“弱小”部。日本代表になるなんてとても考えられませんでした。そんな我々が今、まだまだマイナーなスポーツであるとはいえ、ともに日本代表として活動しているという事実は感慨深いものがあるなあと思うのでした。


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