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オセロの1枚目はどこにある?投資家をも動かした「自分自身」の変革

作家で実業家の北野唯我さんと新規事業家・守屋実さんが、「未来をつくる人を増やすための教科書づくりプロジェクト」の一環として行っている定期対談。これまでの2回では、「意志を持つことの重要性」「事業の種の見つけ方」「起業家に必要な素養」などについて2人の立場から議論してきました。

第3回である今回は「意志を持つ人」の具体例として、守屋さんのサポートを受けているVALT JAPAN株式会社の代表取締役・小野貴也さんをゲストにお呼びし、起業の経緯や守屋さんとの出会いからこれまでを詳細にお話しいただきました。

障がいを持つ人の就労支援というソーシャルビジネスが、いかにして始まり、伸びてきたのか。そしてVALT JAPANが創る未来とは何か。意志のパワーを感じさせる、リアルな起業ストーリーが語られました。鼎談の模様を全3回にわたってレポートします。

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事業の経済性を高めるために考え抜き、想いを伝える

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北野:先ほど守屋さんから、社会性が高いビジネスは経済性にフォーカスが当たりづらいというお話がありました。一方で、3ヶ月で生産性が3倍になったという小野さんの記事を読みました。これはシンプルにすごいことだなと思うんですが、どうやって実現したんですか。

小野:ここは本当に僕の職務だと思っています。流通させるべき仕事は、「障がいを持つ方々が今の実力でも十分な賃金を得られる、かつ、企業にきちんと喜んでもらえるもの」。こう定義してサービスを開発し、営業していることが経済的に成り立っている1つの理由です。

2つ目としては、僕らのメッセージへの共感だと思います。経済面で工夫しているとはいっても、障がいや難病を持っている方々はスーパーマンではありませんし、やはり挫折するケースも多い。

なので、「VALT JAPANは、新しい活躍機会のある社会をつくりたい。だから、福祉事業所さん、利用者さん、職員さんに一緒に協力してほしいんです」ということを必ず伝えるようしていました。その思いに共感して、事業所側も成果が出るまでやり続けてくれました。この2つがうまく重なって、いい結果が出たと感じています。

守屋:でも何でしょうね、この小野さんの熱量みたいなものが源泉ですよね。誰よりも本気で戦い続けている人がいるから、自然とその熱量が漏れ伝わっていく。その輪が徐々に徐々に大きくなって渦になって、今があるんだと思いますね。

北野:VALT JAPANさんのビジネスは、ラクスルモデルとおっしゃったんですけど、このビジネスモデルはどの辺りで着想されたんですか。

小野:守屋さんと出会ったときは、クラウドソーシング系のビジネスが注目されていた時期で。でも障がい者雇用の領域では、クライアントさんと障がいを持った方々の直接マッチングは上手くいかないと、私は現場で立証済みだったんです。

発注企業側も障がいを持った方々と一緒に仕事をするという価値観には共感できるけれども、やっぱり不安があるのと、直接一緒に働いた経験がないのでうまくいかない。だから僕らがきちんと間に入ってマネジメントをして、彼らの価値を最大化することをまずはやるべきだと伝えました。

成長軌道に乗るまでの「助走期間」を誰かがサポートしなければいけない

北野:このモデルを見たときに思ったのは、間に入る人の重要性です。障がいを持つ方々の想いを通訳してあげて、特性も理解して、適切に差配する。そのディレクター的な人は重要ですが、その人にばかりしわ寄せがくるんじゃないかなと。そこはどうマネジメントされているんですか。

小野:めちゃめちゃしわ寄せだらけでした。最近は優秀なメンバーもたくさん増えて、だいぶオペレーティブになっていますが、創業3~4年目ごろまでは、3徹みたいなことも当たり前で。Excelの上から下まで1つひとつ見ていくような最後の品質チェックを人海戦術でやって、やっと納期に間に合わせたりもしていました。

受注する前のディレクションも、そもそも企業さん自身、要件定義がなかなかうまくできていないことが多いので、そこも一緒に考えていったり。本当に体力と気力の勝負でしたね。

守屋:そこをちゃんと当初にやり切っているって大事だと思うんですよね。そんなこと、ものすごく強い意志がないとやりきれないじゃないですか。後から自分の関係している会社でも発注させてもらったんですが、すごく堅実に頑張ってくれて。間にディレクションする人が入るだけで、これだけ価値ある労働になるのかと思いました。

北野:障がいを持つ方々が仕事をして成長して、自己肯定感が上がって、また仕事をする、というサイクルを2、3周回しきるまでが鬼のように大変ですよね。でもそこまでいければ、働く方もディレクターの方々もスキルが上がるからスムーズに回るようになる。そういうモデルですね。

小野:そうですね。ただ、それだと再現性が低くて、本当に優秀なディレクターがいないと成り立たないので、今はサービスラインナップをきちんと固めてオペレーションも固定化することによって属人性の問題は解消しているところです。結局、障がいを持った方が成長するまでの助走期間を誰かがつくらないと、彼らはいつまでたっても新しい活躍機会を手に入れられないんです。

世の中の反応を変えるのは「自分自身を変えられるかどうか」

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北野:めっちゃリアルですね。先日資金調達もされたということですが、VCさんの反応はどうでしたか。

守屋:最初のうちは苦労しました。皆さんはじめは「いいね、いいね」って共感してくれるけど、最終的に「でもうちは出資できない」みたいな。だったら最初からダメって言ってくれた方が良かったのに、ということが続いて心が砕けそうでしたよね。

小野:トータル5ヶ月ぐらいで資金調達できたんですけど、前半戦3ヶ月はまさにそんな感じでしたね。

北野:僕は物事を長期で見ることが重要だと思っていますが、資本主義社会だとどうしても短期目線になりがちですよね。

人々が長い目で見られるようになるために、今成功している大企業経営者ではなく、今後成長していくであろう人に投資や教育をして、その人たちが10年後20年後に成功したときに、「もっと長い目で見ないといけないよね」とか「もっと社会全体の富を増やす思考しなくちゃいけないよね」といった発信をする。そのことが教育の価値だなと思います。

その意味で、本はまさに長い目でみた教育なんです。本を読んで起こった1°の傾きの変化が、5年後や10年後、めちゃくちゃ大きな差になる。だから僕は本に力を入れているんです。

VCとのコミュニケーションも、短期目線と長期目線のギャップがあると思います。実利性と思想性のギャップとも言えるかもしれません。どうすればそこを乗り越えられると思いますか。漠然とした質問ですが、要は「世の中のオセロの1枚目はどこなのか」ということです。

小野:今回のラウンドでは前半戦、本当に動かなかったのですが、後半戦はむしろ逆に、スムーズに進みました。この前半と後半のハーフタイムのところが、まさにオセロが変わる瞬間だったのかなと思います。

その理由としてまず1つ、僕自身が大きく変わったというのがあります。守屋さんや外部アドバイザーにたくさん指導いただいて、僕が使う言葉や見せる資料と数字、順番、ストーリー。ここにしか原因がない。そう思うようにしたんです。

マッチングモデルは確かに論理的ですが、そもそも障がいを持った方々の価値はちゃんと伝えられているのか。僕らのプラットフォームが社会問題の解決だけじゃなく、経済的にも寄与するということが100%伝わっているのか。これをとにかく徹底し続けました。

守屋さんからは本当に細かい数字や言葉についても指導してもらって、相当ストイックにやっていきました。だから「自分がどこまで変われているか」が1つ転換点になったんじゃないかと思います。

プロダクトとネットワークづくりに集中してマーケットチェンジを起こす

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北野:いやぁ、深い。このエピソードを聞いただけで「ついていきたい」ってなりますよね。守屋さんが前回、道徳と国語と算数とおっしゃっていましたが、まさにその3点ですね。

守屋:今の話だけでも、経営者としての差分が出ていると思います。他責にして「世の中って無理解だな」とか、「VCって金のことしか考えていないよな」という方向に持っていくのではなく、ちゃんと自責にしている。こういう根っこの道徳はすごく大事ですよね。

道徳で間違うと、国語が間違うし、国語を間違うと算数はもうどうにもならないものになってしまう。だから最初の道徳や「意志」を、小野さんは持っていますよね。

北野:社会性の高い事業をしている企業が利益を出したり資金調達したりすると、よく知らない人からの反発もくると思います。IPOを目指されているということも記事で読んだのですが、今後どういう風に資金を使っていくのかについて伺ってもいいですか。

小野:1つは、プロダクトドリブンなサービスに仕上げていくことです。7年間、1500案件の受発注を通じてデータがものすごく溜まってきたので、このデータベースに対応するシステムをきちんと開発し、そのプロダクトを活用して企業と障がいを持った方々をつなげてまた新しい仕事の流通を起こしていく。プロダクトを中心としたテックカンパニーになることが直近のミッションです。

もう1つは、新しいネットワークづくりです。今、日本全国に約700社ある特例子会社(大手企業が障がい者雇用のために設立している子会社)の方々とコミュニケーションを取り始めています。特例子会社で働く障がいを持った方々にもいろいろな課題がある中で、この700社ときちんとネットワークを組めれば、必然的に本社もついてくる。そう考えたら、トータルの時価総額が何百兆円みたいな話なんですよ。

この経済セクターを我々のプラットフォームを通じてネットワークすることで、間違いなくマーケットチェンジを起こせる確信があります。この2つに集中投資していく予定です。


― SHOWSでは、今後も定期的に公開対談を行ないます。北野さんや守屋さんと一緒に「未来をつくる人を増やす本」をつくってみませんか?
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