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今の自分に必要なことを考え抜き、フォーカスする。結果を出し続ける秘訣――岸田直也選手インタビュー

2019年シーズンから4年連続で日本代表となっている岸田直也選手。優勝回数も多く、ペアが変わっても結果を出し続けているトップ選手です。多くの人が「本番に強い」イメージを持っていると思いますが、聞いてみるとそれは本人の感覚とはかなり違うものだとわかってきました。

今回は、岸田選手のフレスコボールとの出会いを振り返るとともに、その頭の中を少し覗いてみたいと思います。

「初めは出る気がなかった」デビュー戦で感じた興奮

落合:ジャパンオープン2018でフレスコボールデビューをしていますよね。初大会はどうでしたか?

岸田:最初のジャパンオープンでは、緊張していたのもあるし、アップの仕方もわからないし、関西メンバーで出場していたのは自分とまっちゃん(松井芳寛選手/GVK)と千賀子さん(風味千賀子選手/GVK)だけ。めちゃめちゃアウェーで「これ、ほんまに楽しくなるんかな」という感じでした。

そんな中でも男子トップ3のラリーを見てかなり興奮したし、鳥肌が立ちました。すごいって。でも、まだ粗いところもあるし、自分もここから1年あれば入賞できる可能性はあるんじゃないかと思ったのが正直な感想です。

落合:奈良から、はるばる三浦海岸(神奈川)まで徹夜で運転してきていましたね。

岸田:最初はそんなに大会に出る気持ちはなくて。僕はジャパンオープンの次の日に奈良でテニスの試合があったので、「ハードスケジュールやし、いきなりジャパンオープンなんていうすごい大会に出るのは厳しいやろ」と思いながら、まっちゃんにごり押しされたのを覚えています(笑)。でも、行ってよかったですね。

落合:これまではどんなスポーツをやってきたんですか?

岸田:幼稚園から小3か小4まではスイミングをして、4年生の時に自分の小学校にあったラグビーのクラブチームに入りました。足が速いということで、5年生からはラグビーと並行して陸上クラブに入って、いろいろな種目をやりました。中学では陸上部に入って、その時は1500メートルや3000メートルが中心でした。

テニスを始めたのは高校からです。仲のいい友達がテニス部に入ると言っていたので、自分も始めようかなと思ったのがきっかけです。

落合:小さい頃は特定のスポーツにこだわりがない感じですね。

岸田:スポーツもそうですし、高校も、自分が行きたい高校が特になく、仲のいい友達が行くから自分も行こうかなという感じでした。周りに流されるままに生きていましたね。

高校を卒業して社会人になって、自分でテニスサークルを作りました。初めは同世代でテニスをしたい人を集めてやっていたのが、定期開催になってきたので、サークルとして立ち上げることにしたんです。

関東の練習で毎回課題を3つ持ち帰り、関西の練習でクリアしていく

落合:フレスコボールはどういう経緯で始めたんですか?

岸田:千賀子さんとの共通の知り合いがいて、その方を経由してフレスコボールを紹介されました。テニスに似たスポーツで楽しそうだと思ったので、1回行ってみようと思って行ったのが2018年7月の3連休。

動画で見ると簡単そうに見えたけど、意外とラリーが続かなかったのが最初の印象です。でも、フレスコボールはいかに落とさずラリーを続けるかが大事なので、トップ選手と打つとラリーが続くじゃないですか。それがやっぱり楽しかったですね。

落合:そこから先ほどのジャパンオープン2018で初出場。翌年の2019年にはミックスカテゴリの日本代表になるわけです。1年でここまで登れた要因を、自分でどう思っていますか?

岸田:ジャパンオープンで優勝することを目標にしてから、上手い人はどうしているのかをよく観察するようになりました。その頃は月1で関東に行っていたので、関東の練習で毎回自分の課題というか、次に自分がすべきことを3つくらい持ち帰って、関西に帰って1ヶ月でそれをクリアできるように練習する。それを毎月繰り返しただけです。

トップ選手と自分は何が違うのか、勝つために何をすべきか、考え抜く

落合:これまでで印象に残っている大会はありますか?

岸田:いくつかあります。1つ目は2019年7月のミウラカップ。フレスコボールを始めてちょうど1年のタイミングでしたし、自分のターニングポイントになった大会の1つです。男子カテゴリで入賞したいと思いながらやってきて、その大会で初めて優勝できました。

ちょうどその頃から、少し視野が広くなってきた気がします。それ以前は必死すぎて何も覚えていないことが多かったんですが、その頃からトップ選手と自分は何が違うのかを冷静に考えられるようになってきました。例えば、ゲームプランニングやアップの調整方法を一定にできているのがトップ選手だなと、見ていて感じました。

次に印象的だったのは2019年のジャパンオープンです。とにかく優勝したかったので、勝つために自分が何をするべきか、もうめちゃめちゃ考えました。練習の動画を見返しては自分の悪いところを削って、安定感を出していって。大変でしたけど、それが今の基礎になっていると思います。

岸田:あとは、2022年のジャパンオープンです。前年の年末にやましょー(山下祥選手/GVK)から「日本代表になりたいから1年頑張ろう」と言ってもらって、代表になるために組んだので、結果的にジャパンオープンで優勝できて代表にもなれてよかったです。特にこの優勝は、GPAメンバーにも喜んでもらえたのが一番うれしかったです。

落合:有言実行の結果を残してきているイメージがあります。目標をしっかり達成するということは、それまでのスポーツでもやってきたことなんですか?

岸田:テニスの社会人サークルのときも、「3年以内に全国大会に出る」という目標を立てて、ちょうど3年目に全国大会に行けたんです。1年目と2年目は悔しい思いをして、3年目がラストと自分で決めていたから、少しでも結果が残るようにいろいろ考えた末に上手くいきました。でも、それくらいしか有言実行と言えるものはないかもしれないです。

中途半端にしない。期限を決めてギュッと詰め込む

落合:率直に聞きます。結果を残せる人と、頑張っているのに結果に結びつきづらい人では何が違うと思いますか?

岸田:根本的な考え方じゃないかと僕は思います。結果を残す人は、深掘りして考えているし、自分のことをよく知っていることが多いです。でも結果がなかなか出ない人は、自分のことを知っているようで知らなかったり、深掘りが足りなかったり、考える方向性が少し違ったりするんじゃないかなと。

僕はフレスコボールが好きだからやっているし、自分がしたいことだから、忙しくても時間を割く。そういう考え方があるからこそ、いい方向に進んでいくと思っているので。

でも例えば、フレスコボールが好きだけど、それ以外のこともしたいとか、プライベートも大事だからとか、いろいろな理由をつけて全部が中途半端になってしまっている人もいるんじゃないかなと思います。

落合:エネルギーが分散してしまっている人は確かにいると思います。

岸田:そうですね。僕は「これ」って決めたら、他のものはズバズバ切ってしまうタイプ。結果を求めるから、1ヶ月なら1ヶ月、1年なら1年、ギュッと詰め込みますし、期限までに自分が思う最低ラインはクリアするようにしています。

「先週の練習が微妙だったから、今週はその分帳尻を合わせないといけない」と追い込んだりもするし、逆に「今週が良かったら来週ゆるめよう」ではなくて、「そのまま上げていこう」とか。

意識しているのは、行けるならそのまま行っていいし、もしオーバーペースになって苦しくなるようなら、その時はいったん止まればいいということ。その時によって自分ができることを常にしてきている感じですね。

落合:自分の体力が今どれくらいかと、それをどこにどのくらい投下すべきかがよくわかっていますよね。それが「自分を知る」ということなのかなと私も思います。追い込んでいきながらも、オーバーペースにならないようにコントロールしていく。それをブレずに続けているから本番に力を発揮できるんですかね?

岸田:みんなによく「メンタル強いね」って言われますけど、自分も緊張しますし、本番前にビビっていることもあります。メンタルが強いとかではなくて、大会は自分が練習でやってきたことを出すだけなんですよ。

別に練習以上のことをしようとは思わないし、練習通りにすれば結果が出るくらいにしか思っていない。これは世界大会だろうが、ジャパンオープンだろうが、練習での5分間だろうが変わらないです。

そして最後はやっぱり応援が力を貸してくれます。応援の一押しがあることで最後まで気持ちを切らすことなく5分間を終えることができる。皆さんに感謝しかありません。

試合になると「大事にいかないと」「勝ちにいかないと」って、普段以上のことをしてオーバーペースになって、リズムが崩れていく選手が多いような気はします。

落合:きっしゃんは高いレベルで相手のいいプレーを引き出すイメージもあります。

岸田:自分ではそんな感じはしていないんですけどね。結果を出せると思った人とでも、出せていないことは多々ありますよ。ただ、僕は相手がのびのび打ってくれるのが楽しいので、本番中でも練習中でも、相手が楽しんでもらえるような配球をしようと思っています。

相手が乗ってきているならそのリズムに乗っていくし、調子を崩しているなら、いいときのリズムに持っていけるように、1テンポ落としたところから徐々に上げていくイメージです。自分自身がオーバーペースにならないようにしつつも、相手のリズムも崩さないように意識しています。

大蔵海岸は練習の場所だけでなく、息抜きの場所

落合:プレーの部分で思うようにいかないときはどんな風に脱していますか?

岸田:プレー面でしんどいときは、自分の気持ちが不安定なときが多いので、そうなったらその日はもう練習しません。思い切って練習を止めて、人のプレーを見ていることが多いです。リズムのいい人だけをぼーっと見ることで、自分にいいイメージをもらえたらなと思っています。

落合:フレスコボールに自分の時間を使い続けていて、しんどく感じることはありますか?

岸田:僕の場合、頻繁に明石(大蔵海岸)に行っています。2022年は52週あるうちの31週も通っていました。もちろん奈良から通うのは時間的にも金銭的にも大変ではあります。

でも、自分にとって今はそこが練習場所というだけでなく、息抜きの場所にもなっているというか。居心地がいいし、リラックスできているので、練習する・しないは正直関係ないなと思っているんです。そういう意味では、あまりしんどさを溜め込むことはないですね。

落合:今後について何か考えていることはありますか?

岸田:まず今年3月のブラジル大会では、日本人みんなで結果を残せればいいなと思っています。今シーズンは選手としてももちろん頑張りたいですが、指導者として関西全体もそうだし、四国とか、自分を頼ってくれる人のレベルアップをしていきたいです。

まだぼんやりとではありますが、ブラジルに行ったりギリシャに行ったり、いろいろな世界で経験してきたことに対する恩返しというか。自分にできることを考えたときに、「教えること」は自分にとっては得意なことだと思うので、少しでも自分の技術を伝えて、日本全体のレベルが上がってほしいなと思います。

(インタビューおわり)


●まーや的雑感

「目標とプロセスの明確化」「フォーカスする力」「自分のHPの把握と配分」。インタビューを終えて、改めて感じた岸田選手の強さがこの3点でした。目標を明確にすること、そこに向けて周りに惑わされず突き進むこと、自分のエネルギーを把握して適切に配分すること。手前味噌ながらこの3点は私も強く意識していて、とても共感しました。目標を「夢」や「理念」ではなく、「確実な未来」にするために大切なことが詰まっていた気がします。


フレスコボール日本代表選手団『FRESCOBALL ALL JAPAN 2022』クラウドファンディング実施中!

2023年3月18日・19日にブラジルで開催される大会に出場する日本代表選手団がクラウドファンディングを実施しています。「選手たちを応援したい」「想いに共感した」と思ってくださった方はぜひご支援をよろしくお願いいたします!


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