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頑張りは過程じゃなく、成果で見せる。6年目でつかんだ初の日本代表――山口桃子選手インタビュー

実は、山口桃子選手は5年前に一度、ペアインタビューを実施済み。ただ、当時はまだ遊びの延長でときどきプレーしていた程度で、本格的に選手として毎週練習していたわけではありませんでした。

その後、本気でフレスコボールに向き合い始め、2021年アリアケカップミックスカテゴリー準優勝、2022年リクゼンタカタカップ女子カテゴリー準優勝など堂々たる結果を残すまでに。今回は、2022年度についに日本代表に選出された山口選手から、真面目な話を聞いてみました。

代表になった瞬間は「実感がなかった」

落合:ジャパンオープン2022で日本代表が決まった時はどんな気持ちでしたか?

山口:点数的に、代表に入れるかどうか微妙なラインだったので、自分のプレーが終わった後、どうなったかが不安で。まあやにも協力してもらって、Twitterのスコア速報を参考にその場で計算してみたら、たぶん入れただろうとわかったんですよね。

それでも、大会後の日本代表選手発表で呼ばれるまではドキドキして、「これで呼ばれなかったら落ち込むな」と思いながら待っていました。日本代表を目標にはしてきたけど、リアルな想像はできていなかったから、あまり実感はなかったかな。でも、それなりに頑張ってきたから、思わず涙が出ました。

落合:ももちゃんは何だかんだ5年くらいフレスコボールしてきて初めての日本代表ですね。

山口:そう、始めたのは結構早いんですよ。

落合:2017年の夏に初めて大会に出場していたのを覚えています。フレスコボールにはどうやって出会ったんですか?

山口:私が逗子海岸の海の家で会った日系ブラジル人の男の子に、ある時バーベキューに誘われて、行ってみたらそこに弥生さん(朝倉弥生さん/ZFC)がいました。その時にフレスコボールのセットも持ってきていて、私はテニスをやっていたから「できるんじゃない?」と言われて打ってみたのがきっかけですね。

そのバーベキューには亮太(斉藤亮太選手/ZFC)とまいこ(鈴木麻井子選手/ZFC)もいて、最初に打ったのはまいこだったと思います。

落合:そこから弥生さんと大会に出るようになって、その年の冬には男子の日本代表メンバーと一緒にブラジルに行っていましたね。

山口:元々海外が好きだったんです。高校生の時1か月間、カリフォルニアに留学したこともあったし、ハワイは5回くらい行っているし。ブラジルは弥生さんに誘われたのと、当時の航空券も比較的安かったので、行ってみようかなと思いました。

まだ全然「フレスコボールをやっています」とは言えないくらいライトに関わっていた時期だったから、ブラジル自体は楽しかったけど、そこから熱中するという感じでもなかったです。

その後も、海の家にいけばフレスコはついてくるから、夏にちょっと遊びとしてやるという感じでしたね。

落合:今現在テニススクールで働いていることも、フレスコボールに生きていると思いますが、テニス経験はいつからですか?

山口:小5のときにテニスを始めて、中高もずっと週6でテニススクールに通っていました。かなり厳しいところで、怒られて吐いたりしながら鍛えられましたね。

大学も体育会でテニスを続けて、卒業して最初はブライダル系の仕事をしていたけど、同じ会社のテニスの部署に欠員が出たことをきっかけに異動になって、今はテニススクールで受付とテニスコーチをしています。

初めて出し切れた大会。プレー中に鳥肌が立った

落合:本格的にフレスコボールをやろうと思い始めたのはいつからですか?

山口:この1年半くらいですね。それまでも大会には出ていたけど、今とは考え方が違ったかな。フレスコのために体を鍛えようとか、週に何回動くようにしようと考え始めたのはこの1年半。

きっかけは、2021年のアリアケカップのミックスで2位になったことが大きかったかもしれないです。きんにくん(赤塚康太選手/SKFC)との初試合で、プレー中に鳥肌が立ったんですよ。「これ、行けるかも」って。

落合:確かにあのプレーは、会場も一番湧いていた記憶です。

山口:それまでは毎回緊張して自分の力を出しきれなかったけど、そのとき初めて自分のプレーができたと思います。そのあたりからだんだんフレスコに対して熱くなって、きちんと考えて練習し始めました。

落合:トレーニングはどのくらいしているんですか?

山口:週2くらいでジムに行っているのと、あとはテニスコーチのときに動く感じです。それとフレスコボールを含めて週5回は体を動かすと決めています。

落合:女子ペアを年間通して固定した(大和地未沙子選手/ZFC)のが2022年の1年間でしたね。

山口:ミックスでは1回だけ優勝したことがあったんですが、女子で優勝したことがありませんでした。特に初期は、男子はある程度強く打っても返してくれるけど、女子だとやっぱり返ってこないことが多くて。

でも、加減して打つのは難しいし、気も遣うし。ペアも、割とスポット的に決めて出ていたので、「ペアで一緒に頑張っていく」という感覚になったのは2022年が初めてでした。

練習への姿勢も、それまでは遊びの一環だったから、ときどき行ってお酒を飲みながらゆったりプレーすることが多かったんですが、ここ1年は全然飲んでいないですね。こんなにフレスコづくめの生活になるとは思っていなかったです。

「全力で打つだけじゃ勝てない」方向転換が功を奏した

落合:日本代表が現実的になってきたのはいつのタイミングですか?

山口:(準優勝した)7月のリクゼンタカタカップかな。あれがなかったら間違いなく代表入りできていなかったと思います。

落合:ベストが出ましたよね。あの時は何が良かったんですか?

山口:あの時は出場順がいろいろと変わって、女子カテゴリーのトリだったんですね。それで私は「トリらしく頑張るぞ」と盛り上がっていて。プレッシャーよりも、「見せてやる」という気持ちの方が勝っていました。改めて思ったんですよ、私はトリの方が力を発揮できるのかもしれないって。

落合:とにかく注目が欲しいと?(笑)

山口:注目欲しい。欲しくない?(笑)

落合:トリはありがたいですよね。

山口:未沙子と一緒に「難しく考えずにやっていこう」と話して、それがうまくいった感じですね。あまり力まずに入れたかも。

ただ、自分で一番かっこいい試合をしたなって思うのはその1つ前、5月のオダイバカップです。動画を見返していても気持ちいいなと思います。周りからも「気持ちいいプレーだね」という声が聞こえたし、実際にそう。その時はまだ「自分らしいプレーをしよう」と言っていました。

落合:私もそのプレーは結構見ていたんですが、迫力ありましたね。その大会後に何が変わったんですか?

山口:オダイバカップは結局入賞できなくて、「このやり方じゃダメだ」と思ったんです。「どうしたら点数を取れるだろう」と考えて、まずは落球を減らさないといけない。「じゃあ落球数を1桁にするにはどうするか」という風に、だんだん数字のことを考えるようになっていきました。

落合:その結果が、次のリクゼンタカタカップでのプレーです。結果的にオダイバカップの反省を生かせた感じですよね。

山口:確かにそうかもしれない。全力で打つだけじゃ勝てないから、スピードを少し落とすことにしたのがリクゼンタカタカップでした。動画を見返しても、実際にスピードは出ていないけど、あれがなかったら目標としていた日本代表入りはなかったので、本当に良かった。でも、2点差で優勝できなかったのは今でも悔しいです。

頑張っている姿を人に見せたくない

落合:私はももちゃんたちが代表になって嬉しかったです。

山口:それは嬉しい。でも、まあやみたいにたくさん優勝していて、日本代表も経験している立場だったら、今みたいに頑張れるかわからないなとも思います。2018年にミックスで1回優勝したときに、「もういいかな」と思って一時期フレスコボールをしなくなったんです。だから、今の目標を達成したら、もういいかって思うかもしれない。

落合:今はまだ成し遂げてないって感じなんですね。

山口:まだ女子で優勝してないからね(何かを訴えるような目)。

落合:……私何かしました?(笑)
ところでももちゃんはフレスコボールをする上で目標としている人はいますか?

山口:あまりいないです。たまに、ブラジル人のCarolina選手の豪快な振りを意識することはあります。でもそれもインスタに上がってきたものをたまに見る程度。あとはその都度、「この人のディフェンス意識してみよう」とか、「この人のリズムで打つと足が動きそうだな」とか、日本人選手を真似してみることはあります。

落合:毎回違う人でも、真似して試しつつ練習しているんですね。

山口:そうやって真似していってだんだん上手くなるのかなと思います。正解がないスポーツなので。

落合:ももちゃんは普段、熱量みたいなものが見えにくいのですが、何をモチベーションにしてフレスコボールを頑張っているんですか?

山口:見えにくいのはあえてそうしているからです。あまり頑張っている姿を人に見せたくない。そういう性格なんです。それが自分のスタンスだから伝わらなくてもいいかなって思っています。だから本当はジムに行ったり合同トレーニングをしたりするのも、周りに見られるからあまり好きじゃない。

逆に、1人の方がちゃんと追い込めるから好きです。そういう風にトレーニングを積んで、大会はトリとかで出て、その成果だけを見てほしい。「意外とちゃんとやってるからね」って見せつけたい(笑)。

落合:これインタビューで公開されちゃいますけど大丈夫ですか?(笑) でもフレスコボールを始めて5年経って、今も続けているところが、その熱量を表している気はします。

山口:確かに、そこまで熱がなければいなくなっているからね。

ブラジルでは、自分たちのレベルがどれだけ上がったかを試したい

落合:ブラジルで楽しみなことは何ですか?

山口:現地での練習です!あとは試合かな。前回行ったときは、フレスコのことは意識しなかったし、ディフェンスなんて全然できなかった。でもその時と今では全然レベルが違うので。相当練習してきたし、自分でも本場のレベルに近づいてきているんじゃないかなと思うから、自分たちのレベルがどのくらいなのか試してみたい。それが楽しみです。

落合:フレスコボールをしていて、しんどくなるときはないですか?

山口:特にしんどくはならない。慣れてますから。学生時代の方がもっときつかったし、その時と比べてもちろん体は違うけど、精神は一緒。だから、しんどいと思ったことはないです。むしろ、日本代表になったから、SNSとかも含めてより頑張ろうかなと思っています。

落合:そういうのってありますよね。私自身も最初のジャパンオープンで優勝したことが、それ以降続ける上ですごく重要だったなと思っています。結果を出してこそ、よりモチベーションが上がっていくというのは納得感があります。
今はフレスコボール以外の時間は何をしていますか?

山口:ブラジルに備えて、最近は少しポルトガル語を勉強しています。前回行ったときに、「英語は少し話せるからなんとかなるかな」と思っていたけど、全然なんとかならなかったのが悔しくて。今年こそはポルトガル語を話せるようになりたいと思っています。

カフェに行ってテキストを開いたり、NetflixやYouTubeでポルトガル語の動画を見たり。海外に憧れて英語を学んだ時と同じように勉強しています。

落合:すごい。ちなみに将来は海外に住みたいと思ってるんですか?

山口:当時は住みたいと思っていたけど、今は一周回って日本がいいな(笑)。

(インタビューおわり)


●まーや的雑感

2021年アリアケカップのミックスのプレーは、後に順番を控えていた私もかなり意識してしまうくらいの素晴らしいパフォーマンスと会場の湧き方でした。そこから一気にフレスコボールにのめり込み、日本代表に駆け上がっていったことを踏まえると、「一度でも大会で結果を残す」ことが、その人の成長をドライブするのかもしれないな、と思います。


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