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適切な売却希望金額とは?~実例から学ぶM&Aノウハウ①

M&Aの現場では実際にどんなトラブルが起こるのか、その乗り切り方、経験者の後悔や反省など……過去の事例を読み解いて得られた教訓を、これからM&Aにのぞむ皆様へお届けする連載です。

貴重な事例と支援ノウハウを教えてくださるのは、売り手支援歴20年のプロ・ブルームキャピタル社の宮崎代表です。
宮崎淳平 株式会社ブルームキャピタル 代表取締役社長
ライブドアグループ、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社社楽にてM&Aアドバイザリー業に従事。その他にもプライベートエクイティ投資案件、資金調達案件、及びファンド組成・運営を多数経験。2012年にブルームキャピタルを創業。同社は会社売却に特化した日本随一のファームとして知られている。『会社売却とバイアウト実務のすべて』著者。
▶M&A BANK出演動画 ①「売り手専門アドバイザー登場」②「新体制!M&A BANKに「あの方」が顧問として帰ってきてくれました」③「売り手の味方!あの名アドバイザーに聞くM&Aノウハウ」④「成立したばかりのM&Aを振り返るZOOM座談会


最初の提示額でつまづいてしまった案件


ー今回ご紹介いただく事例でネックになった論点はなんでしょうか。

論点はいろいろありましたが……一番のネックは値段交渉ですね。
その売り手さんは、私がシナジーを踏まえたうえで妥当だと思う3倍にあたる金額を強く希望されていました。ただ、最終的には私が想定していた金額ほどで交渉が成立しています。


ー「希望金額ではおそらく成立しない」とは売り手さんに伝えたのですか。

はい、「難しいと思いますよ」と言っていました。
それでもご本人はその金額を強く希望されたので、まずはそのままの額で買い手側に希望を伝えて、先方の反応をまたオーナーに伝えましたね。


ー予め希望額を下げて伝えることはしなかったのですね。

オーナーがそう望んでいるわけですからね。でも、売り手のことを考えて「もう少し下げた方がいいのでは?」とは伝えていました。10年近く前のことですが、このときにオーナーと少し口喧嘩になったことはよく覚えています(笑)
たしかに売り手の利益を最大化する立場のアドバイザーが言うべきことではないかもしれませんが、最初の提示額が高すぎると悪い結果を生むこともあるので、僕はそうお伝えしたんです。

言い換えると、もう少し低い額で出していれば、より早く、より良い相手と、より良い条件で売却できていた可能性があって。


ー「希望額が高すぎて、かえって値段が下がる」とはどういうことなんでしょうか。

まず、希望額が高すぎると買い手候補が最初からかなり絞られてしまいます。入り口が閉ざされて、そもそも検討してもらえない。明らかに妥当ではない金額を言う売り手と話をしたい買い手はいませんから。
また、粘る分だけ時間がかり、その間に他の要素が重なって悪い結果に繋がることがあります。

この案件を例にとると、交渉が難航する過程で業績が悪化してしまったんです。たしかグーグルの検索アルゴリズムの変動があり、その影響を受けてしまった。
交渉中にこういうことが起きると、そのリスクを価格に反映する(値段を下げる)方向に話が進むことがあります。

M&Aに動き出すタイミングは遅くなかった分、希望額の交渉でロスした時間が惜しかったなと思いますね。



自分の希望額が妥当かを確かめる方法①頼るべき人


ーとはいえ、「自分の希望額が高すぎないか」を確認するのは難しそうです。

妥当な金額は、第三者に聞くしかないですね。望ましいのは、M&Aに詳しく、かつそのM&Aに利害関係のない人ですかね。支援を依頼する予定の人だと相手にも利害が生まれるので、ポジショントークになりやすい。

特に仲介の場合は「成立させること」にインセンティブが働くので(より成立しやすいように)安めの額を薦める傾向があります。
逆にどうしてもその案件を取りたいと思われていたり、着手金や月額報酬をとる会社の場合は、売れもしないのに「●億で売れますよ!」と高い金額を言って契約に誘導したり、ということもありえます。

僕が言うのもなんですが、やはり営業トークがベースになってしまう可能性がある人に聞くのは、M&Aに限らず得策ではありません。


ーなるほど、ではどういう人に相談するのがよいでしょうか?

ぱっと思いつくのは、税理士とか弁護士M&A経験のある経営者といった方たちですね。3人以上に妥当な額を聞いてみたら、ある程度正確に把握できると思います。



自分の希望額が妥当かを確かめる方法②基準値を求める5つの計算式


―詳しい人に相談する以外にも、自分の希望額の妥当性を検証する方法はありますか?

全ての会社に使えるものではないですが、僕はおおまかに以下のような考え方で妥当かどうかを判断しています。

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