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自ら輝き、居場所と光を与える人(2017年48歳)

家を出た時には、「おっしゃ、バッチリ!」と思っていた服装。
その場に立ったら「全然頑張りが足りていなかったよ、トホホ……」と思い知らされることはないだろうか?
私はよくあるのだが(大汗)、その日東京駅近くにあるラグジュアリーホテルの「ラウンジカフェ」にソロチャレンジした時もまさにその気分。……なんてもんじゃなく、痛恨の一撃をくらっていた。

「こ、これがリアルなラグジュアリーワールド……」
そう、私は当時やたら「ゴージャス&煌びやか空間」に憧れていて、度々インターネットで様々な場所をリサーチしまくっては、身を置ける日を夢見ていた。
ただ、現実化するには、どこも敷居が高すぎる気がしてならぬ。
「素朴な私でも、それとなく場に馴染んで、優雅な時を過ごせるところはないものか……」

そこで思った。「ラウンジカフェならなんとかいけるかも!?“カフェ”なんだし!」と。
結果、最もグッと来たこちらのホテルのラウンジカフェに決定。
更に色んなサイトの画像でみっちり予習をし、いよいよ勇気を振り絞ってチャレンジしたのだった。

だがしかし。
やはり現場には、画像からは伝わってこない「場の雰囲気」というものがあるもので、まずは想定外の「非日常感」に1ボディーブローを喰らう。
そして、他のお客さんの華やかさにも1ボディーブロー……。だって皆さん、大ぶりの耳飾りに、色鮮やかなストールを首からゆったり下げたり、ミニバッグで上品に仕上げたりなどなど、地元ではなかなかお目にかかれない装いなのである。

「し…しまった!カフェという親しみやすいワードから、都会のホテルのラグジュアリーっぷりをかなり甘く見積もってしまった……。もう、私のバカバカバカ……」
入り口ですでに満身創痍となった私。己とのギャップに思わず足がすくんむ。
いや、もうこうなってくると、なんだか自分がフラワーショップに紛れ込んだ「つくしん坊」に思えてならない。
野にれば微笑ましいが、華やかなショップではどう頑張っても場に溶け込めない素朴さなのである。

「頑張ってこれなんだから、もうどうにもムリなんだ……」
場違いを痛感したつくしん坊は、ひどくみじめな気分になった。……なのに、よりによって案内されたのは、最もキラッキラなカウンター席!
『ええええーーーっ!』
天高く突き破る緊張ゲージ。泳ぐ目。ぎこちない挙動。覆いかぶさる肩身の狭さ。……私は亡霊のようにひっそりと着席したのである。

カウンターテーブルは、珍しいロの字型であった。
内側には、颯爽と立ち働かれているスタッフの方々。その頭上には、豪華な巨大シャンデリアが燦然と光を放っており、こぼれ落ちるキラキラとした煌めきが、皆さんを一層輝かせた。

私は、彼我の凄まじい隔たりを感じながら、焦点の合わない眼でその光景を呆然と眺めた。そして決心した。
「一刻も早くいただいて、一刻も早くこの場を去ろう!」
この瞬間、憧れの優雅な時間は、作業時間へと化した。
注文の品をジリジリと待ち、届くや否や一 心不乱に完食する。

あっという間に空になったお皿。じっと見つめながら、ふと思う。
「一体、何しに来たんだろ……」
虚しさが込み上げ、悲しみは増し、もう退席しようと顔を上げた。
が、ちょうどその時、カウンターの中の若い女性スタッフさんが気さくに話しかけて来られた。
私はとても驚いた。まさかお仕事中のお忙しそうな方に話しかけられるとは……。
おかげで、少し心が解きほぐれる。まあ、もう帰るのだが……。

などと思っていたら、意外にも他愛のない会話が続いた。
するとそこへ、出入り口の方から結構賑やかな声が聞こえて来た。
どうやらカフェ前の廊下でなにかが起こっているようだ。

「なんでしょうね……?」
スタッフさんはそうおっしゃるとスサッと振り返り、私も横にググッと身を乗り出し、出入り口から廊下へと目を凝らした。
そしたらなんとそこには、まさにこれから式場入りしようかという新郎新婦のお姿が!
でもって、賑やかな声の主は3人の子供たち。ウエディングドレスの長い裾を持ち、天使のようにキャッキャとはしゃいでいる。
いやこれがもう、異次元オブ異次元!そこだけが特別な光を浴びているように、キラッキラと際立っている。まさに“天の祝福”と言った題名がぴったりな絵面なのである。

『あらー素敵~』
眩し気に目を細める私。と、急にスタッフさん。ブインと勢いよくこちらを向き直り、興奮しながらおっしゃった。
「結婚式を見ることが出来たなんて~!!お客様っ!すごくラッキーですよ!!」
「えっ!?」
瞬間、私は強烈な光に照らされた。神々しいばかりの“素”のお言葉と笑顔に、細胞ひとつひとつまで照らし透かされた思いだった。
それくらい、フレッシュで真っすぐな“素”のエネルギーだったのである。

『……あっ、つくしん坊にも光が……!』
放たれる光に燦燦と照らされる中、私はなぜか自分の存在全てを許されたような気になった。
『フラワーショップに居てもいいのかもしれない。……と言うか、どこに居ても、このままの私でいいのかもしれない……』

場違いだと思っていても、意外と自分の居場所はあるのかもしれない。
いや、もしかして場違いだと思っているのは自分だけなのかも?
そんなことを、このわずかな時で示して下さった、スタッフさんの美しく力強い“素”のパワー。私は心の底から礼賛し、しみじみ感謝した。

そして「絶対いつかまた来よう!」と固く誓い、来る前よりちょっとだけ堂々とラウンジカフェを後にしたのであった。


余談
一般的に、接客業の方々はそつのない「アルカイックスマイル」であることが多いが、この時のスタッフさんの素の笑顔は、本当にかわいくて素敵だった。
もちろん、平常時にはそつのない笑顔で十分である。しかし、ここぞという時には、やはりちゃんと感情が乗っている笑顔だと嬉しい。おかげで私の心は大きく動かされたのだ。
この日は色んな輝きを目にしたが、彼女の笑顔が一番パワフルでまぶしかった。