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リレーコラム #5「毒にも薬にもならないもの」

 もう定年で退職してしまったけれど、父はタイヤのメーカーに勤めていた。すごく寡黙な人で、仕事の話は一度も聞いたことはない。僕は東京の西側に育って、自転車なしには暮らせない生活をしていたのだけれど、子どもらしく、パンクなんて日常茶飯事。パンクした自転車をガタガタと押して帰るのだけれど、翌日には直っていることが殆んどだった。それは父が何も言わずに修理してくれていて、何とも誇らしい、嬉しい気持ちになったのをよく覚えている。

 僕は、中津箒という箒を作る事を仕事にしている。国内では数えるほどしか作り手がいない仕事で、自然の素材のみを使った仕事。さぞかし子育てにもこだわりがあると思われがちなのだけれど、子どもに伝えられるのは、毒にも薬にもならないことだと思っている。それは美大生だった頃、ある先生に言われたことに遡る。美術の表現力や人を動かす力を信じている僕は、その強い力が暴力になるのではないか。という不安を抱えていた。先生は言った。「どんなに身体にいいものでも、摂りすぎれば毒になる。素晴らしい薬も、使い方を間違えれば毒にもなるものだ。」
 それは美術に限った話ではない。どんなに社会に貢献している仕事でも、それが過剰な形で広がれば、人を傷つける。美術でも、音楽でも、道具でも、コンテンツでも。ちょうどいい所に、ちょうどいい量が、ちょうどいい形で届くから、誰かの笑顔になる。毎日8時間以上働いて向き合っている仕事というものは、そのバランスを探す旅なんじゃないかとすら思う。
 自然のこと、暮らしのこと、道具のこと。僕が毎日触れている仕事の知見を、子ども達にも機会があれば教えるけれど、それを毒と取るか薬と取るかは彼ら次第。人に優しく、でも、笑顔を忘れず、だけでもいいから、夕暮れに自転車のパンクを直すみたいに。そっと、毒にも薬にもならない形で、子ども達に仕事で得られた生き方を伝えられたらと思う。


吉田慎司
中津箒職人
家族構成:8歳(男)5歳(男)0歳(女)

【質問】
Q1.忙しい毎日、どうリフレッシュしている?
 フルーツ狩りとか、お祭りとかキャンプとか、みんなで行きたい場所にできるだけ行くようにしています。
子どもと一緒に、みんな21時台に寝てるので、疲れは残りません!(笑)

Q2.子育て中に使ってよかった施設やサービス、教えて!
 広くて大きい公園は宝ですね!プレーパークや、児童会館のイベントなども楽しいです。

Q3.あなたにとって「子育てしながら働きやすい職場やまち」
 寛容であることですね…!子どもが叫んだり転がってても受け入れてくれる街。子どもがいると予定や時間に合わせる事がそもそも無理なので(笑) 理解してくれる職場でしょうか


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