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死の妄想 No.776 生きるのがつらいPornhubへ

 ソフトポルノが脳内で爆発するたびにすごい大声でマッチョになってしまった。人であることを、一瞬で忘れてしまった。

 おれはいつも虐待されすぎて餌が食えない地域猫のような立派なツラをしていたが、目の下が青いのを気にしていつも潤滑アイシャドウをベタベタつけるアル中のウンコでもあった。喋りかけるな…こう言いながら土日を無意味に過ごすことがもはや耐え難いものだった。

 グラシアスビーム(感謝光線)を放ちながら改札を通った。最大の体調不良を引き起こす通過駅の階段、20円ではどこにも行けない定期券…死刑囚になるであろう男の指名手配写真と目が合った。血より赤いくちびると、あまりに黒々とした大きな瞳の、平成の粗末な写真だ。ここを通るたびに、おれはドマゾのポルノスターになってしまう。身体がトラテープ柄の先行者のような動きしかできず、股間から特大グラシアスビームを九州のほうに発射すると、九州はまたもでっかい音を立てて滅亡した(こげなんもう十分たい)。
 (とくに女のほう)キメてんだろ?みたいなポルノが好きで、また心の底から憎んでいた。むらむらするとシティ・センターcity centreのtheatre 666に見に行くのだ(ここの人間とはいっさい口をきかない)。自分の深刻などうしようもなさと、その割の脳の限界を思い知らされた挙句、精子まで持っていかれる。日中すら、ふとした瞬間にその薄気味悪いポルノが現実空間のおれのあり方や思考回路を曲解して意味づけたり、あるいは急激に攻撃したりする。これは吐き気がする…一瞬の精神変容や楽しいかもわからない幻覚のために体に合わない物質を大量に服用するのと同じことだった。似たようなことは過去にもいくらでもやっていた。

 前まで勤めたウンコ商事の人事の糞と代官山の糞店で面談した時にあれが忘れて行った高級なイヤホンを耳に詰め込む。他の人の音を耳に入れるよりはいい。バンド・mbv(マチュア・ボーイズ・ウェヌス)の中でも、一番好きなのはbortzという曲だった。この音楽は着地せず、音色はガチャガチャに混じっているし決して綺麗ではなく、そのことがたいへんに官能的だとおれは考えていた。音が割れているし、ギターの奴が弾きながら始終「いやぁぁぁぁぁ!!!ああああ!!!!」とか口で言ってて、シャブ中じゃないかと心配になる(妄想①)。特に便所でそれを考える。駅の毎朝の便所ではひどい妄想だった。

「僕もウソ わからへん」

 週に4回下痢糞をしていくので、電車の定期代はウンコ分でしっかり安くなっている。駅では毎朝改札の付近に立ってる警官が小遣い稼ぎのために肌の黒い者を適当に捕まえて荷物をほじくり返して遊んでいる。なるほど、こいつらなら外国人を収監して殺すことに全く躊躇はないだろう。不動産屋が、無知な学生や商売女を口車に乗せて余分に20万円程度巻き上げることなどなんとも思っていないように、彼らはやる。マジメ・シリアス・人のためとはこういうことだ。わかったか?自称教育者(インフルエンサー?)(人材屋?)(研修屋?)のゴキブリさん。思考と感情を失くしたネットユーザーと何も知らない赤ちゃん相手に講釈垂れてるうちが華だぞ。

 毎日どこもかしこもウンコ臭い。電車で、新しい職場で、電話で、家で、映画館で、ピカピカした謎のでっかいビルで、全てウンコのにおいがする。飲食店なんか、凄い。飲食店は半分でええんです(土井善晴)自分がウンコ臭いんじゃないかと思って(妄想②)、1日に何度も便所に入ってウンコ漏らしてないか確認したり、アルコールで首を拭いたり、2回シャワー浴びたりする。

 家に帰ったら、キングが何も連絡せず先に上がっていて、牛ホルモンとキャベツを炒めながら酒を飲んでいた。「臭いな。お前ウンコ臭いぞ、飯も」とおれが悪態つくと、キングはにやにやしてフライパンにニンニクチューブとナンプラーを追加していった。ナンプラーは少量を使ってしっかり火を通せば美味いが、適当に入れたら塩辛くてお尻の穴の匂いがする。ベトナム人の母を持つ彼はよく知っている。
 こいつは名にし負う大男だが小心者で、役所で働く嫁さんに虐められる(虫のいどころが悪いと無限に暴言を吐かれる、物を投げられる)のでしょっちゅううちに上がり込んで酒を飲み、寝て帰っている。嫁さんにとっては、「じぶんがかがやく」社会においてキングは「他の人」だ。キングだって普通に(バスの運転手として)働いているが、収入で劣る。買い物とか、掃除とかの、面倒な家事なんかのくだらない粗を探してはあれしろこれしろ、なんでやってないんだ、ウドの大木、人に頼りっぱなしだ、と面罵される。
 「役人なんかみんなそれで食っとるんよ、人の粗探しして仕事を作るために仕事してね……お前は立派だよ!気にすんな。あいつらメンヘラだから無視してれば勝手に擦り寄ってくるようになるよ」などと、毎度おれは頼りない慰めをする。キングは、「甲斐があったらな。甲斐がないんだよ俺は。実際は俺の方が役に立つのに…事実はここでは関係ないね。もうすこしうまかったらな…」こいつもおれも、何百年生きているわけではないから頭で理解できていないが、ナニがうまかろうが下手であろうがメスの方が生き物として圧倒的に強く丈夫であることに変わりない。そもそもナニのうまさは強さやポジションの話ですらない。形状の話になってしまうが、どうやっても「食われている」のはこちらである。
 鉢合わせたことはないが、キングはtheatre 666にもたまに足を運ぶと言っていた(その一言だけで生ちんぽ触られたみたいでイヤなものだ)。例えば女がアゲ等をキメてるみたいにすぐ海老化するようなポルノは、少なくともおれのようなオス側から見ると、去勢された者の情けない聖母願望と屈折したマチズモの入り混じった結果なのである。そして二者は遠いところにはない。ヒトラーは不能だったし、あの時代世界一のマッチョだった。theatre 666の住人は、「最小限の手数で屈服するナオン」が欲しいのだ。自分がただ生きているだけで抱きしめてくれる綾波が欲しくてたまらないのだ。そして、「要領よく」「効率的にやる」という反転した21世紀のマチズモがこの願望を上手に塗りつぶしている。じつにくだらない、馬鹿げた話だが、ありえない話でもない。

 追加の酒を買いに出ると、イタ子(昔イタリア史を学んでいたから)いう一歳上の女と鉢合わせた。いらん子学部の仲間だ。イタ子は喫煙しないので鼻がきく。酔ったおれは、イタ子に「ウンコ臭い気がするんだよ、確認してくれよ」と絡んだ。「全然せんよ。酒臭くてタバコ臭いけどウンコはもっと凄いやろ」と彼女はニカっとした。おれがtheatreに行って馬鹿真面目に傷ついたり頭を悩ませたりするのは、どう考えても自分からはウンコのにおいがしないからかもしれない。



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