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シェアする暮らしを「引き継ぐ」 

JR中央線で高尾から2つ向こうの藤野駅。柔軟でおおらかな、オルタナティブな空気があるエリア。最近またじわじわと、人気が高まっているようです。
ここに2011年竣工した「里山長屋」は、コーポラティブ方式(※)でつくられた住宅。4つの住戸とコモンハウスからなります。世帯ごとの住戸は独立した空間を確保しつつ、コモンハウスを共有、暮らしの一部を共同化して暮らしています。自然の生態系をお手本としながら、世界中の伝統的な暮らし方の知恵をあつめて、人間を取り巻く自然や社会・経済などあらゆる要素を総合的にデザインするパーマカルチャーの考え方をベースにした住まいです。

※注)コーポラティブ方式:暮らす人・使う人が設計プロセスから関わることで、設計の自由度を高めると同時に無駄なく集合住宅をつくる方法。

里山長屋の設計コーディネートは、ビオフォルム環境デザイン室代表の山田さん。ご自身も長屋に住んでます。まち暮らし不動産とは「okatteにしおぎ」「八王子天神町OMOYA」などでご一緒しております。

さて、この暮らしの心地よさや、パーマカルチャー的考え方については別の機会に譲るとして。
実はこの「里山長屋」、4区画のうち1区画が、2024年春以降に譲渡の予定があります。買い手募集や引き継ぎのお手伝いを、まち暮らし不動産が行います。3月末ごろから現地の見学説明会が始まります。ご興味ある方は、ぜひどうぞお越しください。

”コミュニティ”が続くには

今回は、里山長屋のようなシェアする暮らしを「引き継ぐ」話を少し。

まち暮らし不動産は、場づくりを伴う不動産開発をしています。もう少しいうと、場をつくり・維持し・引き継ぎ・閉じるまでの、一連のことを考えています。
そんななかで、よくいただく質問のひとつは「場が継続するにはどうしたらいいですか?」というものです。
コツはいろいろありますが、その一つは「人が入れ替わること」。ゆるやかに新陳代謝することを大前提につくります。新しい人がはいって、既存の人が少しずつ抜けていって、いつのまにか全員の顔ぶれが変わっていてもいいようにつくります。

特に、いわゆるコミュニティ型不動産とか、コミュニティスペース、シェアスペース、シェアハウス、コレクティブハウス等では、それを構成するメンバーの顔ぶれが変わっていくこと(組織的な新陳代謝をしていくこと)は、とても大事なことと、私たちは考えています。

しかし、ひとたびコミュニティ的なものができたあとには、既存コミュニティ側から見ると、新規の人に対して、「既存のコミュニティをなるべく壊さずに、次の人に買って欲しい・仲間に入って欲しい」「既存のコミュニティに”合うひと”に入って欲しい」「”いいひと”に入居して欲しい」と感じるようです。コミュニティの側、つまり既存の入居者さんや事業主さんが、入ってくる人を「選ぶ」というスタンスになりがちです。

もちろん、「住宅への入居(賃貸借)」や「利用の権利」とか「土地建物の所有権」が絡む場合、一度引っ越したらお互い長い付き合いになりますし、人の入れ替わりで自分と多少価値観が違うひとが入ってきたら、驚いたり、すれ違いが生じる可能性もあります。ちょっと保守的な気持ちになるのも理解できます。が、既存コミュニティ側が「いい人」を決めるって、ちょっと気持ち悪いなと思いませんか・・・(私はとても気持ち悪いです・・・)

仕組み(ルール)を気持ちと別に扱い、気持ちの負担を減らす

じゃあ、どうするか。
まち暮らし不動産の考え方はこうです。

「仕組み(ルール)と気持ちを別に扱い、気持ちの負担を減らす」

ちょっと説明が必要ですね。

たとえば、わかりやすい例として、シェアハウスに新しい人が入居する場合を考えてみましょう。シェアハウスでは入居者さん同士がすでにいろいろと日常の約束事をつくって暮らしていることが多いです。入居者さん同士は仲が良く、頼ったり頼られたりしながら暮らしています。

ハウスに入居するときには、明文化された”ルール”を引き継ぎます。シェアハウスの使い方でいえば、たとえば「火災予防のために禁煙」とか「このスペースは◯時〜◯時に使える」「ゴミの捨て方はこうしよう」「そうじ当番はこうね」という具合です。それを守る人と守らない人がいる場合の対応についても、ルールで決めます。構成メンバーが入れ替わっても一旦ルールが引き継がれ、次のメンバーたちが実情や必要に合わせたものに改変していくことになります。まち暮らし不動産がシェアハウスを支援するときは、入居者間で決めることは、入居者間で決められるように支援し、事業主(大家さん)が決めるべきことは、決められるように支援します。
(もうこのあたりで、すでに一般的な不動産管理業者と仕事やスタンスがやや異なるので、話についてこれない人ごめんなさい。)

一方で、たとえば入居者さん同士の、「頼ったり頼られたりする」「一緒にいて安心」というような関係性自体は、不動産に付随して引き継がれることはありません。それは、個人同士の固有の関係性であって、コミュニケーションの積み重ねによって可能になることです。不動産を借りれば(権利を買えば)、自動的に可能になることではありません。

つまり、「不動産を共に使いあう間柄として、ルールを守り合えるかどうか」と「私にとって、いい人かどうか・私にとって気持ち良い間柄になるかどうか」は、少なくとも別の問題として扱う必要があります。
前者は入居検討時にルールを説明し、理解してもらったうえで、「自分が守るルールとして妥当と感じるか、ルールを守ることで得られるメリットがあるか」を本人に決めてもらいます。(「本人が決める」が大事。)つまり、既存コミュニティ側は「選ぶ」のではなく「選ばれる」ほうなのです。
後者は「そのような関係性が生まれやすそうなルール(仕組み・枠組み・約束・ガバナンス)、ツール(道具・ファシリティ)、ロール(役割)を作っておく」ことで対応します。コミュニケーションを積み重ねられることを重視します。

あなたのコミュニティは、「どなたでもどうぞ」と言えますか。

しかし、日本のいわゆる「コミュニティ」はルールを明文化しないケースが多く、どうもこの二つの問題をゴチャマゼに考えてしまうように思います。

「仲が良ければうまくいく」とか、「同じ地域に住んでいるからうまくいく」って思いがち。最初から仲の良い人がいるわけじゃなく、「一緒に暮らしていくうちに、仲良くなれる可能性がある」だけなのに。

おそらくこれは、日本人がどうやら「自分たちが、自分たちのルールを作って運用する(つくる・まもる・かえる・やめる)」とか「ガバナンス」が概ね不得手ということも遠因かと思います。とくに「ルールを変える」がとても苦手かも。だからむしろ、ルールを明文化することに、とっても尻込みしてしまう。ルールを変えることができないと、お手盛りで運用してしまい、ルールは余計に守られず、ガバナンスは効かず、なんだか不自由で不公正なことが増えてしまう。
どちらが原因でどちらが結果かは、わかりませんが・・・。

もう少し「ルール」や「仕組み」による運用部分をふやし、「ルールをつくる・まもる・かえる・やめる」の力を高めれば、人が入れ替わっても、どんな人が入ってもへっちゃら!な部分が増えます。つまり、新しい人を迎え入れるとき、気持ちが保守的になりすぎず、人を「選ぶ」必要性も低くなります。自分たちのコミュニティにぜひどうぞ!一緒に暮らそう!一緒に使おう!と呼びかける勇気を持ちやすくなります。

場づくりの最初は、仕組みが手厚いと少々窮屈な感じもするかもしれませんが、維持したり引き継いだり、新陳代謝のある場を作りたいと思うなら、「気持ち」だけでやろうとすると、逆にしんどいですよ。疲れますし。
自分たちで、自分たちのルールを運用できるようにすることに、気を配った方が得策です。


引き継がれる場、続いていくコミュニティのコツや、
不動産のことについて、これからも時々書いていきたいと思います。




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