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立証活動で数値を使うときの注意点は?

久々のnote記事、今回は本人訴訟の「論理学」(第58回noteを参照してください)です。立証活動の時、数値を使うに当たって注意すべきことについて述べていきます。

労働審判や民事訴訟で立証を進める時、証拠(書証)に示された数値を使って定量的な立証をしていけば、説得力は増すことになるでしょう。しかし、数値を使う際には注意しなければならないこともあります。それは、数値の精度に留意すること。当たり前のことではありますが、立証活動では特に気を付ける必要があります。

立証活動で数値の精度という時、真っ先に意識すべきことは「引き合いに出された数値は、母集団全体としての特性を表していると言えるのか?」ということです。母集団の人のうちの一部の人についてある測定をした場合、測定されて出された数値が信用できるものか否かは、測定対象となった一部の人の数、および属性に偏りがないということに大きく依存するはずです。

例えば、ある企業の管理者候補従業員86名(女性19名、男性67名)の管理者登用試験の結果を性別で見るとします。

最初の46名(グループA)の結果を確認した時点で、女性受験者9名のうち合格者が6名で不合格者が3名、男性受験者37名のうち、合格者が34名で不合格者が3名であったとしましょう。そうすると、集計済の46名については、女性受験者の合格率は66.7%、男性受験者の合格率は91.9%となります。66.7%÷91.9%=0.725ということになり、女性受験者の合格率は男性受験者の合格率の7割5分に満たないということになります。これだけ見ると、この企業として、概して女性従業員の昇進が男性従業員の昇進に比べて多少遅いことが見て取れます。

ところが、残りの受験者40名(グループB)の結果を確認すると、女性受験者10名のうち合格者が10名で不合格者が0名、男性受験者30名のうち合格者が30名で不合格者が0名であったとします。

とすると、管理者候補従業員86名全員については、女性受験者19名のうち合格者は16名で不合格者は3名、男性受験者67名のうち合格者は64名で不合格者は3名となります。つまり、女性受験者の合格率は84.2%、男性受験者の合格率は95.5%となります。84.2%÷95.5%=0.882ということになり、女性受験者の合格率は男性受験者の合格率の9割弱。この企業として、概して女性従業員の昇進が男性従業員の昇進に比べてさほど遅いわけではないと解釈することもできます(もちろん、合格率に性別は関係ない、あるいは女性受験者と男性受験者の合格率は同率であるべき、などといった見解もあると思いますが)。

さて、女性従業員と男性従業員の昇進スピードの違いを測る場合、関連ある数値は、管理者登用試験の受験者全員を対象にした数値であるべきで、その部分集合からの数値ではありません。最初の46名(グループA)の集計をした時点で残りの40名(グループB)の集計結果がまだ出ておらず、その40名の数値次第で、この企業の女性従業員の昇進スピードは男性従業員と比べて遅いとも遅くないとも言えたわけです。

例えば、もしグループBの女性受験者10名のうち合格者が0名で不合格者が10名、男性受験者30名のうち合格者が30名で不合格者が0名であったとします。そうすると、管理者候補従業員86名全員については、女性受験者19名のうち合格者6名で不合格者13名、男性受験者67名のうち合格者64名で不合格者3名となり、女性受験者の合格率は31.6%、男性受験者の合格率は95.5%となります。31.6%÷95.5%=0.331ということで、女性受験者の合格率は男性受験者の合格率の3割強に過ぎなくなり、女性従業員の昇進スピードは男性従業員と比べて著しく遅いということになっていたはずです。

逆に、もしグループBの女性受験者10名のうち合格者が10名で不合格者が0名、男性受験者30名のうち合格者が0名で不合格者が30名であったとします。そうすると、管理者候補従業員86名全員については、女性受験者19名のうち合格者16名で不合格者3名、男性受験者67名のうち合格者34名で不合格者33名となり、女性受験者の合格率は84.2%、男性受験者の合格率は50.7%となります。84.2%÷50.7%=1.661ということで、女性受験者の合格率は男性受験者の合格率の1.6倍となり、女性従業員の昇進スピードは男性従業員と比べて格段に早いということになります。

すなわち、部分集合であるグループAの数値からのみでは、立証には十分でない。グループAとグループBで構成される母集団全体の数値が出されてはじめて、立証ということになるのです。

もっとも、このグループAのサンプリングが、十分な数が抽出されたものであって、母集団全体の属性が適切に反映されて母集団全体の平均として与えられているなら、母集団全体の数値を見るまでもなく、グループAのみの数値でもよいかもしれません。

しかし、そうした場合であっても、民事訴訟や労働審判では、「十分なサンプリングの数が抽出されているか」「母集団全体の属性がサンプリングへ適切に反映されているか」が争点になる可能性があります。また、仮に十分なサンプリングの数が抽出されていたとしても、やはり「母集団全体の属性がサンプリングへ適切に反映されているか」という点が争点として残ってしまいます。確実な立証を進めるには、やはり母集団全体の数値を引き合いに出した方がよいでしょう。つまり、民事訴訟や労働審判において当事者が立証活動に使う数値は、母集団全体とは異なっているような部分集合を選ぶべきではないということです。

第71回noteでも述べましたが、部分の特性を全体の特性として捉えることは、「合成の誤り」といって典型的な論理の誤謬でもあります。立証に数値を使う場合は、この点に留意していただきたいと思います。

今回は以上です。

街中利公

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