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Lとキラ(月)はどちらが勝ったのか——『DEATH NOTE』考

あまり書くまいと思っていたのですが、あまりにも見当たらないので書いておこうかと思いました。

結論から言うと、Lです。推理に関しては。
矜持のような面から見れば、引き分けのようにも思います。
ただし、確証は持てません。
あくまでも可能性の話として聞いてください。

ちなみに、重大なネタバレどころかお話の筋のほとんどに関わっているのでお気をつけください。


月が苦手なこと

月が負ける、もしくは危機に陥る時には、共通した性質があります。
月は「見えていない可能性」に負けます。

実は、このことはLが発見していたものでした。
テニス後の喫茶店での一幕。「L知っているか死神はリンゴしか食べない」という3枚の写真を使った推理クイズのやり取りをします。
月は、Lのひっかけを見破り、写真を、文はおかしくなるけれども書いてあった「数字」の順番に並び替えます。

しかし、ここでLは月に対して4枚目の写真を提示します。
3枚目までは、月がデスノートで操ったものだったのですが、4枚目は明らかに自分が操って書かせたものではないので反論をします。

これに対して、Lは
「3枚しかないと決めつけ、4枚目を推理できなかった」
と言います。

しかし、月はこれに
「これは推理力ではなく反応を見ているんだ」
と考えています。

この後に、Lは疑いを3%に高めます。

この流れで言われると、いかにもLが態度と推理力の高さで高めたように見えますが、これ今改めて冷静に第三者的に考えると、ここでLが疑いを高めた要因は、態度だけではないはずです。一番の問題は「3枚目で推理を打ち切ったこと」です。

逆に言えば、月が軽んじていた「4枚目の可能性までの推理」これが月が負ける時の要因であるのです。

作中に見られる例

まず最初に、リンドエルテイラーを使って実験をした時、月は初めてLという存在に触れました。Lは日常を送っていた高校生からすれば、「4枚目の写真」に他なりません。
そして、挑発に乗った月は易々とLの策略に陥ります。
まさに、見えないものへの可能性への配慮が足りていなかった瞬間でした。

そして、FBIが送り込まれて、レイ・ペンバーが殺害された後に危機を迎えます。それが、美空なおみの存在です。彼女こそがここでの「4枚目の写真」です。この場面では偶然にも月が先に出会ったから良かったものの、月からするとかなり危なかった状態でした。
しかも、「見えない可能性」について、実は美空なおみはある程度対策をしていました。それこそが「偽名」の使用でした。見ず知らずの人間でいかにも好青年な高校生くらいの人に対して使用しているのです。誰がキラでもおかしくない可能性を考えて。
これは、彼女が作り上げた推理から導き出された、ありえないかもしれない、極限まで低い「可能性」について信じ対処したものでした。
つまり、ここでも月はレイ・ペンバー殺害から「見えていない可能性」によって危機に陥るのです。

次の「4枚目の写真」は、弥 海砂、第二のキラです。
死神、ノート、そして監禁(させる)までの大きな負けをつけたのが、この「見えない可能性」でした。美空なおみについては、推理をするのは難しいところでした。しかし、このもう一つのデスノート、第二のキラの可能性は、自分がノートを手にした時点で予め考慮することができたはずです。見えていたはずの「見えない可能性」でした。これはまさに「4枚目の写真」です。

第二部は何だったのかー「ニア」と「メロ」から

そして、最後は大きいものを一つ。
これこそが、デスノートが二部構成でなければいけない理由です。
正直なところ、私は二部があまり好きではありませんでした。
しかし、この説が思い浮かんでからは驚いています。ただただ、驚いています。

二部の感想でよくある「ニア」と「メロ」というよくわからないキャラクターが急に出てきたのが、意味わからなくて云々というもの。
これ、とても的確な感想だと思います。感想に的確とかないのですが。

実は、この「ニア?メロ?急に出てきて誰やねん自分ら」という感想を抱いたのは、読者だけではありません。当時のLチーム全員が思っていました。
我々は、あの時登場人物たちと感情を共有していたのです。この辺りは書き手として敬服するばかりです。

急に出てきた謎の人物。これが何を意味するか。

「ニア」「メロ」、この二人こそ、Lの一番重要な「4枚目の写真」だったのでしょう。

つまり、第二部は細かいところの想定のずれや賭けの部分もあったかもしれませんが、キラを追い詰めるところまで、もっと言えば夜神月をキラと断定していくまで全てが「L」の算段だった可能性があります。

ニアが「二代目L」が怪しいと思うのは、当たり前のことでした。
なぜなら、メロが事件を起こさずとも何かしらの事件が起きればLが考えなければいけないからです。
ライトがLにならずとも、チームにいる限りはLの考えとして最も優秀な推理をするであろう月の考えをニアたちが知ることになります。そこからは、本編と同じようにチームに揺さぶりをかけて情報提供を求めれば良いのです。「二代目Lの推理をしているものが怪しいです」と言って。
こうすることで、月が二代目Lになろうとなるまいと、実は同じ結末にたどり着くことができます。

ただし、二代目Lは月がなりました。こうすれば月の推理を聞きやすくなります。それに、キラとLを同時にやるには無理が生じてきます。矛盾が起こるからです。キラ側に偏れば、Lの言動は対キラの最善とは言い難くなります。しかし、そこに対キラの推理で最善の推理をしてくる第三者が現れるわけです。その推理のずれが、次第に周囲のものへの疑惑になればいいのです。

そうして、見事にLチームは瓦解していきます。

ここで注目したいのが、ヨツバを追っている時のLの発言です。
「私が死んだら月くんにLを継いでほしい」ということを頼みます。その場で断られても問題ありません。月が気にしているのは、目の前のL自身に疑われることです。しかし、L継承は自らが死んでしまった時の話です。L自らの推薦を他の人にも聞かせることによって、自然としかも月自身も自らの意思で「二代目L」になったように思えます。

二代目Lともなれば、チームメンバーからも推理を任されるようになります。決定権や対外の言動の最終決定権も二代目Lに任されます。実際に月は、それらを持っていました。だからこそ、ニアに看破されてしまいます。

急に頭が悪くなる月

二部に入ってから月が急に頭が回らなくなったようにも思います。
しかし、これは当然のことです。なぜなら、月にとって苦手である「4枚目の写真の可能性」と常に戦っていたからです。
ニアも「4枚目の写真」ですが、メロもまた「4枚目の写真」であるわけです。この考え方でいくとメロの功績は大きいです。

なぜなら、正体不明で何をしでかすかわからない人物だったためです。
月からしてみれば、あまりにも情報がない人間です。それらは、常に彼にとっての「4枚目の写真」に他なりません。
一方で、ニアはメロの考え方をよく知っています。
この情報の非対称性がもたらした「可能性」の解像度は、月とニアの読む手数や想定を大きく変化させます。そもそも、誰かわからない人間の犯行と、同じ養育施設で競い高め合った人間の犯行では、次の一手への確信度合いも違いますし、メロもキラに対して攻撃をするわけですから、2対1の構成になるわけです。
一見三つ巴ながら、ニアと月が負わなければいけなかった負担には差があリます。

苦手と情報量の差があっては、どうしても後手に回らざるを得ません。

第二部とは

さて、総括すると二部は、月が落ちぶれたというより、Lが準備した地位と「4枚目の写真」で見事に術中にハマってしまった月が負けていく物語です。
第一部(監禁からヨツバ編)では、月の作戦が読者に伏せられた状態で展開していきます。
それに対して、第二部ではLの作戦が読者に伏せられた状態で展開していくと考えられます。
そして、互いに代理人を使った戦いです。
月は、死神、あまねみさ、火口を使い、Lはニアとメロを使っています。

自分が最も優秀な世界にいる月にとってのLは目の前にいてもなお認めきれない二つ目の「4枚目の写真」であったわけです。

まとめ

つまり、キラ確保の推理バトルなどについては、白日の元に晒したLが勝った言って問題がないと思います。実際には、ニアとメロが力を合わせて戦いましたが、それはLが用意した「4枚目の写真」だったのです。つまり、最初から苦手だと見抜かれていたもので月は敗北したと言えます。

ちょっと、おまけ

最後の女性は誰問題があります。
これ、4枚目の写真論で考えると「ここで初登場の女性」と考えても差し支えないと思います。我々、読者に与えられた「4枚目の写真」です。

この文章の最初に書いたのですが、確証は持てません。可能性の話です。なぜなら「4枚目の写真」こそが、確証のない可能性への追及だからです。
それでは、そこに存在するのは何かといえば「物語」です。推理者が作る3枚目の写真から考えられる「ストーリー」です。

この女性の登場までに出てきた情報から、この女性のことについて考える時に生まれる可能性への言及、あるいは解釈の可能性という「物語」。すなわち読者が推理者となり自らの「物語」を作るための「4枚目の写真」ではないのでしょうか。

そうなると、ストーリーを作るもの、つまりある意味で物語という「新世界」を作る「神」になるかのようですね。

おまけのおまけ

私は、この女性は「真に正義の社会を望むもの」だと解釈しています。
日常のように戻ってしまったかもしれない社会でも、キラに触発されながらもキラ信者ではない者。
つまり、月が本来目指していた「真の正義」の世界を祈るものかもしれません。そうであれば、月の理想も、ひっそりと達成されていくのかもしれません。

その意味での「引き分け」です。

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