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■西村賢太は生きている

「文学」と「作家」への道(14)
「詩人の独り言」改

◇NHKよ、あれではあきたりない

4月29日、NHKで放送された「ETV特集 魂を継ぐもの~破滅の無頼派・西村賢太~」を見た。

昨年2月に死んだ(享年55)芥川賞作家について、死後1年を経て振り返る内容である。

僕は、死の直後に、個人的感想を「◇どうで死ぬ身の一踊りが終わった」と書き、昨年8月には彼の墓にも参り、「◇忘れられない 心に残る存在である人」とも書いただけに、番組内容にはちょっと満足できない。

西村についてさほど知らない、関心を持たない人間にとっては必要十分な内容だった…だろう。テレビ、マスコミなんてそういう視点で番組を作り、記事を書くのだから、その意味では合格水準の番組だろう。
しかし、西村の内面に迫るというのであれば、もうちょっと掘り下げることはできなかったか。

僕が昨年夏、七尾の寺に参った際、住職(西村とは長く交流のある人物)とちょっと立ち話をした。その際、彼の遺族がどういう対応をしたのか、と聞いた。
すると…
「あ…ん、お母さんがおってぇ、遺骨をね、宅急便で送ってきたんやわいね。直接、ここには来んかったわ」(私が同郷の石川県人なので、こんな感じで話したのだ)というのである。
少々びっくりした。功成り名を遂げた息子にそんな対応をした、というのは母親も彼を受容しないままだった、ということなのだろう。
その「事実」は、遺族・関係者に配慮するとしたら、確かに報じることはできない、際どい話ではある。

西村には、姉もいる。性犯罪を犯した実父も生きていてもおかしくはない。
彼の触れられたくない、本当の部分まで取材者としては迫ってほしかった。

彼が小説の中で、「秋恵」と書いていた恋人も今どうしているのか…。
これは西村本人から聞いたことだが、彼女とは別れたものの、芥川賞候補になった際には留守宅のポストに花束が差し入れられていてことがあり、「そんなことするのはアイツしかいないんですよ」と人懐こい笑顔を見せていた。同棲は解消していても、彼女とは続いているような雰囲気を感じさせた。

もうひとつ、彼が熱心に石川県七尾市に通ううちに、地元の新聞社の女性記者に一方的に恋をし、それも小説にしている…。
そうした人物にもあたって取材、証言をとってもらいたかった。

出てきたのは、中途半端な西村ファンと、担当編集者、小学校時代の同級生…といった簡単に取材に応じるぬるい人間しか出てこなかった。

西村の小説から感じた、脳みそが揺さぶられる衝撃の千分の一でも、ドキュメンタリーとして迫ってほしかった。

4日に再放送はあるし、NHKオンデマンドでは有料で見ることもできるので、見落とした人は見てちょうだい。

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