【詩】「嫁」
嫁もらわにゃあな
父にそんなことを言われていた
30年以上前 三十路に近づくころ――
ぼくは 聞き流していた その言葉
いま 一人息子もそんな年ごろ
ぼくは その言葉を口には出さない
心の中でつぶやく
お前も嫁をもらう年ごろだな と
仮に言ったところで
「何言ってんの……」と受け流されるだけ
ぼくがそうしていたから 息子も同じ
三十路過ぎても同じように言われ
「もらった」ときは35のとき
女の側にすれば
嫁に行く――か
今や
嫁を もらうも 行くも
口に出せないか
もはや死語
もらうも もらわれるもなくなり
独りもんの男と女が 累々累々
それはそれで
それぞれが判断して
選ぶ生き方
親も子の嫁など
気にしてはいけない
だのに
のど元までその言葉が……
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