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ジョニーベア【3】1600文字

↑前のお話↑

【3】とっておきのピクニック

ジョニーベアが森を散歩するようになった頃、
森の木々は緑の葉で青々としていました。
照りつける太陽の季節が過ぎると、
冷たい風が森の中を通るようになり
木々の葉っぱの色も黄色や赤や茶色と変わっていきました。
今日もママベアと森の散歩でしたが、
いつもとは違う景色の中を歩いていました。
それはママベアと約束したとっておきのピクニックの日でした。

「とっておきのピクニックって何処に行くの?」
ジョニーベアは辺りを見回しながらママベアに尋ねました。
「今日がとっておきになれるかどうかは、
もう少し歩いて行くと分かると思うわ」
ママベアは何やら思わせぶりに答えました。
しばらく歩いていると、
向こうの方で川の流れる音が聞こえてきました。
するとママベアの足取りが止まり、ジョニーベアに向かって言いました。
「向こうの山の真ん中あたりにある木々は何色に見える?坊や」
「赤や黄色やオレンジに緑もあるね、
色んな色が見えるけど半分くらいは赤色かな」
「そうね、半分くらいは赤色に染まっているわね。
その赤色が半分っていうのが今日のピクニックには大事なのよ、
今日はとっておきのピクニックになりそうよ。ついていらっしゃい」
ジョニーベアは気持ちを弾ませてママベアについて歩いていると、
涼しげな川の流れる音がだんだんと大きくなってきて、
空気の中にも川のにおいを感じるほどになると、
眼の前の景色が開けて、そこに大きな川が現れました。
日の光に照らされて、水面がキラキラと輝いて、
ドドォーと大きな音をたてながら川の水は流れていました。
ジョニーベアは水飲み場の小川はそれまでに
何度も見たことはあったけれど、
ここまで大きな川を見るのは初めてでした。
そして、その川ではこれまた沢山の魚が流れとは
逆の方向に上っていくのを見て、
ワァーと声を出して思わず立ち上がって、
川と魚たちの大きな景色をながめていました。
「どう坊や?、今日はとっておきのピクニックでしょ」
「凄いねママ、この魚たちは何しているの?」
「この魚はサケっていうの。
彼らは新しい命を繋ぐために森に帰ってきたのよ。
彼ら自身の新しい命と森の動物達の命を繋ぐためにね」
川をよく見てみると、キツネにタヌキにタカやワシ、
そしてクマ達が川のあちこちで川を上っていくサケを漁っていました。
「わぁすごいや、みんなサケから命をもらって命を繋いでいるんだね」
「そうなのよ。私達も寒い冬に備えて、しっかりサケの命をいただくの。
とっておきのピクニックは森の動物たちにとって大切なのよ」
ママベアはそう言うと、ざぶんっと川の中に入っていき、
あっというまにサケを口で捕まえて、坊やの方にサケを放り投げました。
ジョニーベアはガブリとサケを食べてみました。
「なんて美味しいんだろう!」
ママベアは次から次へとサケを捕まえては、
ジョニーベアの方に放りました。

西の空に太陽が沈むまで、
二人は川でのんびりと過ごしました。
お腹はいっぱいになり、
二人して川のほとりで寝ていました。
「この川に来る途中の道で、
山の色を坊やに聞いたでしょ?
あそこの山の色が半分くらい赤色に染まる頃に、
サケたちがこの川に帰ってくるのよ。
これもよく覚えておくのよ。
冬の寒さを越えるには
このサケの命が大切なのよ」
「そんな大切な日を忘れっこないよ、ママ。
それにまた明日もこの川に来たいな」
「いいわよ、また明日もこの川でピクニック
しましょうね、坊や」
ママベアは微笑んで答えました。

ピクニックの帰り道、
ママベアとジョニーベアは一緒に歌を歌いながら歩いていました。
お腹もいっぱいで、お昼寝もして、楽しいばかりの1日に
心弾むメロデイが流れていました。
そんな時、
先を歩いていたママベアが歌うのを止めてしまい、
急に体を震わせてその場に座りこんでしまいました。
ジョニーベアは不思議に思って
「ママ、どうしたの?」
と聞きました。
ママベアはその場でガタガタ震えるばかりで動きませんでしたが、
「今日は本当に楽しい一日だったわね。
今日の最後にもう一度ママの話を聞いてくれる」
と言ったママベアの顔は楽しそうな顔をしていませんでした。

-つづく-