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ジョニーベア【11】2300文字

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【11】凍てつく闇夜
「まだまだ冬が厳しくなる。
雪が落ち着くまで
ここでゆっくり力を養っていけばいい」
ジェロベアがやさしい提案をしてくれたので、
ジョニーベアとハックルは
ジェロベアのほら穴で
何日か過ごすことにしました。
1週間ほど一緒に過ごすと、
ジェロベアが頼りになる
お兄さんのように思えてきましたが、
ジョニーベアは自分の道を進まなくてはと思い、
晴れた日の夜に
ほら穴から出ることにしました。
「やっぱり、君は行くんだな」
ジェロベアが言いました。
「はい、ジェロさん。
色々ありがとうございました」
「礼を言うのはこちらのほうさ。
あのまま雪に埋もれていたら、
俺はあそこで終わっていたよ」
「これからもお体には気をつけて、
人間に負け続けても、生き続けてくださいね」
「おいら達が楽園森を見つけるまで、
頑張ってくれよな」
ジョニーベアに続いてハックルが言いました。
「君ら二人のコンビなら、
楽園森は見つかると信じているぞ」
ジェロベアはそう言って、
ほら穴の奥から干し鮭と樹の実を
両手にいっぱい抱えてくると、
「これは俺からの餞別だ。持っていってくれ」
と言ってジョニーベアには干し鮭を
ハックルには樹の実を渡しました。
ほら穴を出ると、
北の空には七つ星が夜空に輝いていました。
「君たちはあの七つ星のふもとを
目指していくのか」
ジェロベアが言いました。
「はい、あの七つ星の下には
楽園森があると信じています」
「長い旅になるのだろうが、
それが君の道なら、信じて頑張るんだぞ」
ジェロベアはそう言うと、
ジョニーベアと固い握手をして別れました。
 
ジョニーベアとハックルの
冬の渡り歩きが再び始まりました。
昼間は樹の実をあさり、適当な木陰で寝て、
夜になると北の夜空の七つ星を目指して
歩く旅でしたが、冬の寒さも増してくると、
樹の実も充分には見つからず、
昼間の寝る場所でさえも見つけにくくなり、
厳しさが日々増していきました。
ジェロベアからもらった干し鮭や樹の実も
底をつきましたが、それでも二匹は七つ星を
目指してひたすら歩いていました。
冬は長い眠りの時期でしたので、
幾度となく眠たくなり、
瞼が下がってきて、
足取りも重くなりましたが、
気持ちをつなげるために
二匹で楽園森の歌を歌って歩き続けました。
 
♫♫♫
歩いて、歩いて、歩いて行こう
北の夜空に輝く七つ星にむかって
夢の場所がそこにある
その森に行けば、
悲しいことも
苦しいことも
どこかに消え去り、
よろこびが溢れているよ。
そこが楽園森、七つ星の元に広がる夢の森
♫♫♫
 
二匹で声を合わせて歌っているのですが、
ジョニーベアの頭の上にいるハックルの声が
気がつくととぎれとぎれになっていました。
ジョニーベアは
「ハックル大丈夫かい」
と心配して声をかけました。
「ううう、起きてるつもりなんだけど、
まぶたが重くなってしまうんだ」
ハックルは答えました。
いくらジョニーベアの毛の中に
埋まっているとはいえ、
ハックルの小さな体では
冬の厳しい寒さをこらえるのは大変でした。
いつもの冬なら長い眠りの時期で
外には出ていかないからです。
ハックルにとってはジョニーベア以上
に冬の渡り歩きは大変でしたけれど、
「おいらがいないジョニー一匹だけの
冒険なんてありえないし」
ハックルは気持ちを強くして、
明るい声でそう言いました。
 
ジョニーベアはハックルを心配していました。
こんな寒い中で寝てしまったら、
それは死んでしまうからです。
ジョニーベアは時々ハックルに
声をかけていましたが、
ジョニーベア自身も眠さと戦いながら
歩いていました。
 
すると突然、
木の上に積もっていた雪の塊が、
ジョニーベアの上に落ちてきて
雪の中に埋もれてしまいました。
ジョニーベアは雪の中から這い出ると、
すぐに頭の上のハックルを探りましたが、
ハックルがいませんでした。
ジョニーベアはあたりを見回して、
「ハックル、ハックル、ハックル―――――」
と何度も呼びましたが、
ハックルの返事はもどってきませんでした。
ジョニーベアは落ちてきた雪の辺りを
必死に掻き分けてハックルを探しました。
しばらくすると、
尻尾を丸めて縮こまっている
ハックルが雪の中から出てきました。
「ハックル―――」
ジョニーベアはそう叫ぶと、
ハックルの体を擦りながら
何度も声をかけました。
けれどハックルが目を覚ますことは
ありませんでした。
「ハックル!だめだだめだだめだ、
目を覚ましてくれ、死んじゃだめだ」
ジョニーベアはとにかく温めなくてはと思い、
ハックルを脇にはさみました。
そこが一番温かい場所だと思ってのことでした。
そして寒さから逃れられる場所を探して歩きはじめました。
 
ジョニーベアは
自分が選んだ冒険だったにも関わらず、
ハックルを巻き込んでしまったことを
とても後悔していました。
脇の下のハックルに動く様子はなく、
夜空の輝く星の美しさとは裏腹に、
真冬の森の凍てつく寒さは、
ジョニーベアに刺さるように
襲いかかってきました。
 
空腹と寒さでジョニーベアの意識も
遠くにいってしまいそうな時でした。
どこかから美味しそうなにおいが
漂ってきました。
それは不思議な匂いでした。
樹の実でもなく、果物でもなくて、
初めての匂いなのですが、
その香りだけで空腹だったお腹が
満たされるのでした。
ジョニーベアはそのにおいにつられて
歩いていくと、ほのかに明かりがこぼれる
ほら穴を向こうの方に見つけました。
「夜だというのに明るいなんて
どうした事だろう」
ジョニーベアはほら穴の傍まで行くと、
中を覗いてからほら穴に入っていきました。
ほら穴の奥には、
こちらに背中を向けて、
毛が銀色に輝くクマが横たわっていました。
 
―――つづくーーー

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