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|BROMPTONと私

一ヶ月くらい前のこと。
母から手渡されたスイカを持って、父が自転車でやってきた。
父の配達。実家が近いからよくあること。
ただこの日違ったのは、父の横にはいつものギラギラした"イカツイ"ロードバイクではなく、小ぶりで品のいい自転車。

「これね、かなりいいよ〜」
そう言って、父は玄関先で、その新しい相棒を大事そうに撫でながら話し出す。
夫は隣で楽しそうに相槌を打っている。

またか…
父はマイブームをすぐ人に勧めて引き込む。

ダウンヒル、ヒルクライム、ポタリング、
山手線一周ウォーキング…
ここ10年くらいは、ツアーの企画やサイクリングイベントの開催も恒例行事となっている。

当の本人はいつだったか
「(魅力的な)俺(様)に周りがついてくるだけだ」
と言ったか言わないか…いや、確かに言った。

「へぇ〜いいね〜」
父の話を、私は右から左に受け流す。

家族の中で唯一、妙に父に反発心を持つという謎の"大人反抗期"は続いていて、気付けばこの日もその低いテンションになっていた。

イギリスの折りたたみ自転車
"BROMPTON"

これが出会いだった。

名前も聞いたことがなかった。
車輪が小さくて乗りやすそう。かなりコンパクトに折り畳める。ちょっとした外出にも手軽に使えそう。さりげなく入っているロゴが結構かわいい。

…いやいや。
だって私、ロードバイク持ってるし。

そう。
言いづらいが、私は反発し続けているはずの父の趣味に割と乗っかってきてしまっている過去があるのだ。

「欲しくなっちゃったんじゃないの〜?」
父が帰った後、玄関先で夫が含みを持った笑みで私を試す。

…は?まさか。

リビングに戻る途中、ふと視線を感じた…
何ヶ月も眠っているロードバイクが薄暗い部屋の奥から私を見ていた。

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