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三日坊主日記 vol.110 『ケールを生で食べた』

妻がケールを買ってきた。


青汁で有名なあのケールである。どうやって食べるつもりかと聞くと、生で食べるという。僕は戦慄した。あの悪名高き青汁の材料であるケールを生食するのか。まるで何かの罰ゲームではないか。


僕はあまり好き嫌いはない方だ(自己判定)。歯応えが気持ち悪いとか、変なものを連想するとかいう理由で進んで食べないものはあるが、食べられないものは少ない方だと思う。そして何を食べてもあまり不味いとは思わない(美味いものは分かる)。


子供の頃は好き嫌いがたくさんあった。野菜、魚、その他諸々。今から考えると、昭和の時代に大阪の下町の決して裕福でない家庭で育ったのだから、美味しいものにはなかなか当たらなかったんだろう。新鮮な野菜も、新鮮な魚も、そして良い肉類もなかなかなか手に入らなかったんだと思う。だから好き嫌い以前の問題なのかも知れない。


ご飯とふりかけとか、海苔の佃煮とか、何ならおにぎりがあればそれで十分だった。しかし、僕の健康を気遣う大人たちは色んなものを食べさせようとする。野菜や魚や、肉類。気持ちはありがたいがやはり美味しくないものは食べたくないのである。その上、うちの母や祖母は、子供に食べさせるために妥協というか迎合しなかった。あくまでも大人と同じものを食べさせようとするのである。かくして、僕は嫌いなモノだらけで、食に全く興味のない思春期を過ごした。


妻と出会ったのは僕が20歳の時。当時、ろくに勉強もせずアルバイトばかりしていた僕に弁当を作ってくれるようになった。自分の分を作るついでだと言って、ほぼ毎日。金欠に喘ぐ僕にはありがたかったし、弁当は美味かった。母には悪いが、彼女の弁当は美味いと思えた。こうして僕は胃袋を掴まれたのである。


その後、今の業界に入って色んな土地へ行き、ご当地の新鮮で美味しいものをご馳走になる。また、地方に行かなくても、いい店で美味しいものを食べるようになると、どんどん好き嫌いがなくなっていく。そうして、もうほとんど何でも食べられる大人になったのだ(自己判定)。


しかし、どうしても食べられないものがある(ゲテモノを除く)。パクチーとレモングラスがダメなのだ。パクチーはご存知の通りカメムシを噛んだ時の味がするし、レモングラスは昭和の時代に小便器にぶら下げてあった毒々しい色のあの丸い芳香剤の匂いがする。どちらも食べたことはないが、食べなくても分かる。人間が食べて良い種類のものではない。


話をケールに戻そう。


妻はケールを美味しいと言いながらバリバリと生で食べている。せっかく買ってきてくれたのに食べないわけにも行かないから、ドレッシングをかけて食べてみた。美味い!苦味やエグ味はほとんどなくとてもマイルドだ。さすが野菜の王様と言われるだけはある。この味でしかも栄養豊富なのにどうして皆食べないのだろうか。今まで知らずに過ごしてきて損をした。


というのは嘘で、苦いしエグいしちょっと硬い。やっぱり罰ゲームである。美味しいと言いながら食べる妻が、微かに涙目になっているのは僕の気のせいだろうか。





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