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月と陽のあいだに 223

落葉の章

ハクシン(4)

 目を伏せたアンジュの傍で、ハクシンは青ざめた顔をしていた。
「アンジュに問う。そこまで執拗に白玲殿下のお命を狙った理由は何か?」
 長老の声が途切れると、広間には沈黙が降りた。
 直立の姿勢を崩さないまま、アンジュは顔を上げた。
「それは……白玲殿下の存在が、皇家の汚点であるからです」
 居並ぶ人々が息を飲み、皇帝の目がわずかに細められた。

「亡きアイハル殿下のお血筋とはいえ、白玲殿下の生母は陽族の農民であります。我らの祖先を貶めた卑しい陽族の血を引く「はざまの子」が、尊い皇家に迎えられるなど、あって良いことでありましょうか。
 臣下に嫁いで皇族の位を返上するならまだしも、ネイサン皇弟殿下と婚姻を結び、お子を産むなど、もっての外であります。私は臣下として、皇家の血筋を汚す存在を排除しようとしただけであります」
 白玲はアンジュの後ろ姿を見つめていた。背筋を伸ばして座っていたが、その顔は紙のように白かった。

「皇家の始祖アイハル帝は、陽族の血を引くお方であった」
 沈黙を守っていた皇帝が語りかけた。
「アイハル帝とともに暗紫山脈を越えた人々もまた、少なからず陽族の血を引いていた。山を越えた彼らは、この地に元から住っていた人々と交わり、その末が今の月族と皇家なのだ。その意味では、我らは皆「はざまの子」であり、最も新しい「はざまの子」である白玲を皇家に迎えることに、なんの問題があろうか。
 そしてネイサンと白玲の子は、皇家の正統な血筋を最もよく受け継ぐものであった。
 その子を殺したオラフの罪は重い。オラフを助けたそなたらも同罪である」
 蒼白な顔をしたアンジュは、それでもみじろぎひとつしない。

 皇帝はなおも畳み掛けた。
「だが、そのような上辺だけの理由で、白玲を狙ったのではあるまい。
 そなたは愛するハクシンの望みを叶えるために、オラフを利用したのであろう。
 ハクシンは白玲を憎んでいた。白玲さえいなければ、というハクシンの願いを、そなたが代わりに果たそうとしたのであろう」
「違います!」
 皇帝の言葉を遮るのは、誰であっても許されない。衛兵に押さえつけられたアンジュは、それでも「違う」と繰り返した。

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