田中あき子

専業主婦歴30数年。本が好き、物語が好き。新しいことに挑戦しながら、一生「夢見るユメコ…

田中あき子

専業主婦歴30数年。本が好き、物語が好き。新しいことに挑戦しながら、一生「夢見るユメコさん」でありたい!

マガジン

  • 月と陽のあいだに

    「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生きた一人の少女と、 彼女を守り支える人々との絆を描く物語です。

  • 緩やかな日々

    書き留めたことを、ほんのちょっとだけ公開中。

最近の記事

ナイル川をのんびり南下。 両岸には緑の畑とナツメヤシ。レンガ造の家。 エンジンがない船は静かに滑るように進む。 12時。岸のモスクからアザーンの声が響いてくる。 エジプトは今日も晴天だ。

    • 旅に出ます

      なかなか涼しくならない日本を離れて、旅に出ます。 今回はルーマニアとブルガリア。 今は、乗り継ぎで砂漠の国にいます。 かの国々も今年は例年になく暑いらしい。 それでも、北の方やら山の方ではセーターが欲しくなるらしい。 どんな景色に出会えるか。 どんな人々に出会えるか。 旅はやっぱり一期一会。 一つずつの出会いに心躍らせ、目を見はりながら。 見知らぬ国を歩いてみたいと思います。 しばらくは旅の記録にお付き合いください。

      • 夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

        ハクシン(7)  やがて私が十七歳になった時、アンジュが帰ってきました。二十五歳の男盛りのアンジュは、近衛連隊の小隊長になっていました。家庭では優しい夫で二人の息子の父であり、誰からも一目置かれ将来を嘱望される存在になっていたのです。大人の男性になったアンジュを前にして、私の中で忘れていた性への好奇心が再びわきあがりました。  十七歳の私は、病弱であってもそれなりに成長して、以前より柔らかい女性的な体型になり、お化粧もするようになりました。ちらりと見かけた私に夢中になる殿方

        • 夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~ 

          ハクシン(6) 成長するにしたがって、私はますます歪な娘になりました。知識を詰め込む一方で、自分には実感できない感情すら上手に演じられるようになったのです。そして十二歳になる頃、性について好奇心をかき立てらるようになりました。書物で読んだ強烈な感情を体験してみたくなったのです。  私の興味の対象になったのは、アンジュという近衛士官でした。  初めて私の護衛についた時、アンジュは二十歳になったばかり。私を年の離れた小さい妹のように思っていたのかもしれません。護衛はもちろん、図

        ナイル川をのんびり南下。 両岸には緑の畑とナツメヤシ。レンガ造の家。 エンジンがない船は静かに滑るように進む。 12時。岸のモスクからアザーンの声が響いてくる。 エジプトは今日も晴天だ。

        マガジン

        • 月と陽のあいだに
          238本
        • 緩やかな日々
          27本

        記事

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          ハクシン(5)  思い通りに歩けなくなった私は、月神殿の神官長にお願いして、特別に図書館の閲覧許可をいただきました。あの日あなたに話した通り、図書館が私の遊び場になったのです。それからは時間が許す限り、手当たり次第に本を読みました。  どんな本でもよかったの。一人ではどこへも行けない私でも、本の世界では自由でした。杖なしで誰よりも早く走り、鳥のように空を飛び、魚になって大海原を泳ぎ回ることもできました。いにしえの賢者に出会い禁断の知恵を学ぶことも、絶世の美女になって世界の覇

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          ハクシン(4)  母に懐く私を見て、乳母は私を失うと恐れたのかもしれません。外でたくさん遊べるように「体を丈夫にする薬」を私に飲ませるようになりました。  私は幼過ぎて、その薬が本当は何だったのかわかりませんでした。  初めのうちは何の影響もなく、背も伸びて普通の子どもと同じように健康でしたが、一年二年と経つうちに風邪をひきやすくなり、背も伸びなくなりました。それが薬のせいだったと知ったのは、ずっと後のことです。  その薬は、暗紫山脈に生えるシンジュソウという薬草から作ら

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          ハクシン(3)  もちろん私だって、こんないきさつを最初から知っていたわけではありません。でも幼心に「なんだか変だ」と思ったことはありました。母と私は、あまり似ていなかったのです。  母は子を産んでも少女のようなところがありました。一緒に遊ぶときは、よくお人形遊びをしたけれど、私はそれがちっとも楽しくなかったの。  私は囲碁や双六のような遊びが好きで、お人形を使った「ごっこ遊び」は嫌いでした。お人形遊びの最中に、「お人形は生きていないのに、どうしてご飯を食べさせるの?」とた

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          ハクシンの記憶(2) 父は、優しすぎる母に負い目を感じていたのでしょう。母をとても大切にしました。その証拠に、しばらくして母は懐妊しました。母は喜びましたが、父は本当の意味では母を愛してはいなかったのです。  なぜなら、父には新しい愛人がいたのだから。そして彼女は、母とほとんど同時に子を産んだのです。  父の新しい愛人は、祖母であるネレタ側妃があてがった侍女でした。ナーリハイ家の血を引く娘で、父の側仕えをするうちに寵愛を受けるようになったのです。  彼女の妊娠がわかると、父

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          ハクシンの記憶 白玲。あなた宛ての手紙はたくさん書いてきたけれど、これが最後になるでしょう。あなたは聞き上手だったから、他の人には話さないこともずいぶん話しました。でも、あなたに見せていたのは私の姿の半分だけ。夜空に輝く月の裏側に誰にも見えない闇があるように、私の内側にも漆黒の闇がずっとありました。  そのことを今日初めて話します。読んで楽しいものではないから、嫌になったら途中でやめて、そのまま焼き捨ててください。  白玲。私はあなたが嫌いでした。あなたの姿を見る前から、あ

          夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

          月と陽のあいだに 231

          落葉の章ハクシン(12)  ハクシンの乳母の日記がもたらした動揺が一段落したあと、白玲は再び皇帝のそば近くに仕えることとなった。宮を離れた皇后に代わって、その職務をこなしながら、皇帝の御座所に控えて、日々の細かな仕事を見覚える日々だった。  本来ならこの役割は、皇太子とその一人息子であるシュバル皇子が担うべきものだった。しかし、ハクシンに独断で毒杯を与えた皇太子は、皇帝の意に従わなかった者として信頼を失い、政の中枢に関わる道を断たれた。  皇太子の唯一の皇子であるシュバル

          月と陽のあいだに 231

          月と陽のあいだに 230

          落葉の章ハクシン(11)  広間から連れ出されたハクシンとアンジュは、身分を剥奪され牢に繋がれた。  明日はハクシンが幽閉の塔へやられるという日の夜、皇太子と皇太子妃がハクシンに別れを告げにきた。  皇太子は、ハクシンが好んだ果実酒を小さな盃に満たした。塔で我が身を振り返り、皇帝の赦しを待つように言う父に、ハクシンは皮肉な笑みを返した。 「お父様は、やっぱりお父様ですね。お望み通りにいたしましょう」 「あっ」と気づいた母妃が盃を取り上げようとしたが、ハクシンは果実酒を一気に

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          月と陽のあいだに 229

          落葉の章ハクシン(10)  白玲は、力が抜けたように椅子の背にもたれて、ぼんやりと空を見つめていた。隣に座ったシノンがその手を握った。そんな二人を守るように、ナダルがじっと立っていた。  広間に満ちていた淡い光が赤みを帯びて、窓際に置かれた香炉の影が、長く尖って床に伸びた。 「私、信じたくなかったの。ハクシンが私を嫌っていること」  ようやく我に返ったように、白玲がぽつりとつぶやいた。 「私はハクシンが羨ましかったわ。美しくて賢くて、立派なご両親に愛されて、私の欲しいもの

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          落葉の章ハクシン(9) 「……直接手を下さなくても、あなたは立派な人殺し。一体、あなたのどこが優れているというの?」   白玲の言葉に、アンジュは直立したままうなだれた。皇太子は、呆けたように立ち尽くしていた。 「ハクシン、アンジュに命じて白玲を襲わせたことに相違ないか?」  皇帝が念を押した。 「アンジュに命じたわけではありません。アンジュは私が白玲を憎んでいると知って、私の心を繋ぎ止めるために、白玲を排除しようとしたのです。それは私にも都合が良かったから、お金を出して

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          落葉の章ハクシン(8)  叩きつけるような白玲の言葉に、ハクシンは初めて顔色を変えた。 「あなたに、私の何がわかるっていうの?」  余裕のある笑みが、ハクシンの顔から滑り落ちた。 「私は自分の夢を叶えるために、自分の足で歩いていくことができなかった。そのもどかしさが、あなたにわかる? 友だちもなく、空想の中でしか自由に生きられない悲しさが、わかる?  あなたを見ていると、本当にイライラする。あなたは、血筋も能力も外見も、私よりずっと劣っているくせに、私が欲しいものをみんな

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          落葉の章ハクシン(7) 「……それなのにあなたったら、ろくな防備もしないのだもの。頭が悪いだけじゃなく、詰めも甘いのよ」  蒼白になった皇太子が、ハクシンを黙らせようと手を伸ばした。  ハクシンはその手を振り払った。 「私はずっとネイサン叔父様が好きだった。それは、叔父様だけが本当の私を見つけてくださったからよ。  愚かな大人たちは、私の見かけに騙されて、なんでも言うことを聞いてくれた。でも叔父様だけは私のあざとさを見抜いて、全然言うことを聞いてくださらなかったわ。  

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          落葉の章ハクシン(6)  ハクシンを抱きしめて、一番の被害者は自分の娘だと言い募る皇太子。  それを見る皇帝の視線が、さらに冷ややかになったのは明らかだった。 「アンジュ、そなたは白玲皇女を嫌悪して排除するために、ハクシンを誘惑して金を引き出し、自分が疑われたのでハクシンに罪を着せようというであろう。守るべき主人に手を出して、己の意のままにしようなど、護衛にあるまじき行為ではないか」  皇太子の罵倒が途切れたのを見て、長老がアンジュに申し開きはあるかと問うた。 「いいえ、

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