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オムニバスシリーズ3話心萊編タイトル『心萊の決意…🍃』。。🥺💘



心萊みらいは病院のベッドの上にいた。

そして、ただぼんやり何かをみるでもなく窓を見つめていた。

ほんの1週間前まではあんなに幸せだったのに…

いきなり奈落の底に落とされた想いを噛みしめ、涙だけがとめどもなく流れた。


心萊みらい、あとお産までひと月だね。気分はどう?10年長かったね!何はなくともあれ、おめでとう。』
「うん、ありがとう。何度も何度も流産して辛かったけど、、、」

心萊みらいは4度めの人口受精で着床し、大事を取って、おかしいと思ったら安静のために病院に入院したりして、やっと臨月を来月迎えるところまで漕ぎ着けた。

夫の和司は大学病院の勤務医。

今は准教授に昇進し、多忙な日々を送り研究室に泊まり込んでなにやら心萊には分からない病理の研究論文で忙しく、余り家に帰ってこない日々が続いていた。

心萊は実家が遠く、既に母は他界していたので誰にも頼れず、不安に明け暮れていたら、親友の若菜が時々様子見がてらに心萊の家に寄ってくれていた。

心萊は言葉には出さなかったが有難いと感謝していた。

若菜は医大の同期でバリバリ仕事をしていた。

今日も仕事明けに食材を色々買って持ってきてくれたのだった。

心萊と和司は大学の先輩後輩でラグビーのマネージャーだった心萊に猛アタックして心萊を射止め、ふたりは心萊の卒業を待って結婚した。

心萊は卒業後暫く数年医師として働いていたが最初の妊娠を機に和司の意向であっさり医師を辞め家庭に入ったが流産。

その後も何度か流産を繰り返し中々妊娠出産には至らなかった。

夫の知人の不妊専門医師の薦めで体外受精でやっと今回4度目の体外受精で10年ぶりに妊娠することが出来た。

長くて辛い日々だった。

元々心萊の母も病弱で寝たり起きたりの生活を余儀なくされていたので心萊もどこか病弱な体質を受け継いでいた。

心萊の実家はある地方の地元では名の知れた総合病院を経営し、父は理事長兼院長を務めていた。

最終的には一人娘である心萊にというよりは心萊の夫である和司に継いでもらいたいと父は思っていたようだ。

心萊の母は病弱だったために、父には公認の愛人がいて、なぜか同居して母の世話までしていたと言う世間では考えられない環境で心萊は育った。

母の死後、その愛人はあっさり心萊の継母になったが、特殊な環境で育った心萊はすんなり彼女を受け入れた。それは亡き母の遺言だったから。

母はなくなる前、心萊に胸の内をはじめて打ち明けた。

「私は初めどうしてもあの人(愛人)を受け入れられなかった。悔しくって辛かった。でも、
私はこんな身体でお父さんの世話もあなたの世話もできないことがとても悲しかった。なのに、あの人はお父さんの面倒もあなたの面倒も私のお世話までしてくれて、恨みはいつしか感謝の気持ちに変わったの。だから、貴女はあの人(愛人)を恨んではダメよ。わたしも最初は辛かったけど、あの人を受け入れたの。わかるわよね、心萊❗感謝しても恨んではダメよ。」

それが母の最後の言葉、遺言になった。

その人は父に代わって全てを取り仕切り母の盛大な葬式を執り行ってくれた。

そして母の葬式の日にだれよりも涙を流し母を見送ってくれた。

母が言うように恨むより感謝の気持ちしか心萊も抱けなかった。

あれから15年。月日が経つのは早いもの。


その後、その継母は心萊に配慮してか父との間に子供を作ることなく心萊を実の娘のように愛してくれた。

普通では考えられない環境ではあったが、それはそれでその家族にとってはバランスの取れた環境なのだった。



丁度一週間前、心萊みらいは夫が携帯を忘れていったので研究室に届けるために雨の中大学まで出掛けた。

丁度お昼を少し過ぎた頃に研究室の前に着くと、中からなにやら言い争う男女の声が聞こえた。

ドアを少し開け、中をそっと覗くとそこには和司と親友の若菜がいた。



『私はあなたがなんと言おうとこの子だけは産みます。もう二度も下ろして、もうこれ以上下ろしたら私はもう二度と産めないと言われたの!貴方には迷惑はかけないわ!』

「君も初めから承知していたじゃないか‼️
子供は作らないって。今のままでいいと…。お互い分かっての付き合いだっただろ!」

『わたしももう36。これが最後のチャンスなの。貴方には迷惑はかけないわ。心萊にも会わないわ、もう…。この病院もやめるわ❗』

え、どういうこと。二人は…

えぇ、なにがなんだか分からない。二人は出来ていたの⁉️

まさか、そんなことって。

嘘でしょ‼️

心萊は混乱し、一瞬にして身体中の血の気が一気に引いて言葉どころか全身が震えて言葉を失い悪寒が走った。


心萊は夫の携帯をその場に落とした。


誰だ⁉️そこにいるのは、、、

と、和司がドアを開けると心萊が重いお腹を抱えながら、走り去る姿が見え、後を追った。

「心萊~、待ってくれ❗」

雨で濡れていた廊下で心萊は滑って転び、ひと月早い陣痛が起こった。


その後緊急手術となり、お腹のこに首にへその緒が巻き付いていて、酸欠で生まれたがなんとか命は繋いで保育器にいれられていた。

元々病弱だった心萊はショックも重なってか中々回復せず、異常な血圧低下で二日間生死をさ迷った。

やっと目を覚ました心萊の傍らに和司がいた。

『目が覚めて良かった。すまない。男の子だよ。』
心萊は声を出したくても声が出ず言葉すら出なかった。

あの時見たのはひょっとして夢。私は悪い夢でもみていたの。。

『もう大丈夫だよ。赤ちゃんはひと月早かったけど2200gあったからちゃんと育ってるよ。僕は嬉しいよ。』

なぜにそんなにもなにもなかったように平静に私に言えるの。

貴方と若菜はどうなったの?
その説明はしないの。

心萊はなぜか冷静でいる自分が信じられなかった。
でも、その事には一言も触れず目を閉じた。

それから暫くして心萊と赤ん坊は退院した。

それまで帰りの遅かった和司は定刻に帰宅し、心萊と赤ん坊の世話を手伝った。

和司はあの出来事がなかったかのように振る舞っていたある日心萊から切り出した。

『あなた、若菜は今何ヵ月なの?』
「…」
『あのこは不安なはずよ。だからあのこのところに行ってあげて…』
「なにを言うんだ。」
『いつからなの?二人の関係は?』
「もう別れたよ。」
『お腹のこ、あなたのこなのでしょう?…いつからなの、貴方たちの関係。。』

余りの唐突な心萊の質問に和司は答えられず、ただただすまないの一点張り。

最も信頼していた二人に裏切られたのに心萊はなぜか冷静だった。

母が死ぬ時に言った言葉を思い出していた。

悔しくて怨めしくて、でもどうすることもできない。自分に代わって夫の世話や一人娘の世話をしてくれた愛人を恨みたいのに、恨むどころか感謝する母の寛容な心を…

『若菜をどうするつもりなの?』
「もう、分かれたよ。」
『お腹のこは?貴方が父親なんでしょ。』
「それは…」
『この10年間私は自分のことしか考えられず、貴方に配慮なんて一度もしてこなかったわ!』
「…」
『私は貴方と若菜の関係を知ってショックだった。でもなぜか腹が立つよりショックがおおきかったけど、若菜にはそれ以上にとても助けてもらったわ。考えてみたら、若菜の方が先に貴方と付き合っていたのを私が横取りしたのよね。元は私が悪いのよね、でしょ?』

『違うよ、心萊。僕が君に夢中になったんだよ。』
「あなた、もういいの。ごめんなさい。わたし、もうこれ以上あなたとは暮らせないわ。許すとか許せないとかの問題じゃなく。いえ、許せないからかもしれない。これ以上一緒にいたら、苦しくって暮らせない。だから、わたし、あなたとは別れます。この子は私が育てます。あなたが若菜と一緒になろうがなるまいが私にはどうでもいい。もう無理。」
『心萊、待ってくれ。僕は君と分かれるつもりはないし、誰よりも君をまだ愛しているんだ。』
「じゃー、若菜とはなんだったの⁉️」
『それは…』

和司と若菜は確かに心萊と知り合う前から二人は交際していた。しかし、心萊が大病院の娘と知るや否や和司は乗り換えたのであった。

准教授になれたのも教授会や医師会に心萊の父が多額のお金を使い、働きかけて勝ち取った地位だった。

心萊はそれからひと月して赤ん坊を連れて家を出た。
東京駅から東北新幹線に乗り、ふるさとの仙台に到着し、タクシーに乗り自宅前に着いた。

心萊は実家のチャイムを鳴らすと、どなた様という声が聞こえた。

「わたし。わたしよ…」と。
『心萊ちゃんなの?』
「そう…」 
『お帰りなさい。お父様がお待ちよ。』と継母の声だった。
門の扉が開き、心萊と赤ん坊はなんのためらいもなく中に入っていった。

これから心萊にはどんな生活がまっているのだろう。寄りを戻すのだろうか⁉️それとも完全に別れてしまうのだろうか⁉️

その答えは誰もがわからない。

分かっているのは心萊の決心は固く、新しく生まれた子供のために新たな人生を踏み出したことだけは確かなようだった。。。🥺💘




あとがき。
世の中にはごまんとこんな話が転がっています。でも事実は小説より奇なりで信じられないことがこの世界ではよく起こります。

なにも身を引かなくても思うかもしれませんが最も信頼している人に裏切られたら人はどう反応するのでしょう⁉️

どう結末を迎えるか悩みましたが、心萊は医師の資格もあり、跡継ぎも出来た。どこか覚めた考えがあって、毎日苦しい想いで夫と顔を合わすより新しい次の自分の生き甲斐を見つけて再出発をした方が心の平安を保てるのではないでしょうか⁉️

若菜は当然子供を生むでしょう。。
夫が心萊と別れて若菜と一緒になるとは思えません。

結局二人は分かれるでしょう。最終的に夫は心萊のところにもどってくるのではないでしょうか⁉️

果たして心萊が受け付けるかどうかは分からないけど結局心萊は家を取った。それは跡取り娘として幼い頃からそのように育てられていたから…🍃

私は小説家でもなんでもないので深い心の機微まで描ききれていませんがあとはみなさんの想像にお任せします。最後まで読んで下さりありがとうございますm(_ _)m💕







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