見出し画像

秋の校庭


小学校4年生の長男は、私にとって少々不思議な存在と言える。

多くを語らず、特定の仲良しというよりは男女問わずその場にいる子と過ごし、好きなことは半年前に始めた競技スクーター(キックボードの競技版)と戦車のプラモ作り、漫画や本を読むこと、あとゲームも少し。どれもこれも一人で楽しめるものである。

と言いつつ友達と遊ぶのも好きなようで、近所の友達とは日替わりで色んな子と遊ぶし、かと思うと「今日は家にいる〜」と断ったりする。なんというか自分の心に素直に生きている、それを周りもなんとなく受け入れている、そんな印象なのである。

学校や塾、スクーターなど彼の周りに関してはこちらから聞かない限りは多くどころか必要なことも話さないので、ブラックボックスが多すぎる。困るのが彼も別に隠したいわけではなく、単なる性格なんだろうというところだ。

ちなみに下の年長男子はこれでもかと喋ってくれるので、彼の生活は筒抜けもいいところである。おそらく我が家の生活もあちらに筒抜けなんだろうと思うとこっそり震える。

さて、そんな不思議が多い長男はその性格が故に、何か問題が起こったときにきちんと自分から言えるか、というのが保育園時代からの課題であった。先生!!と積極的に駆け寄っていくタイプではないので、それが親としても最大の心配事だったのである。

先日、担任の先生との個人面談があった。

予定より早く着いてしまったので恐る恐る教室を覗いたら、先生が開口一番「あっお母さん!よかった、お伝えしたいことがたくさんあるんです!」と仰るではないか。

「えっ何かやらかしましたか?!」と咄嗟に出た台詞に自分で笑った。基本的に約束は守るし、時間にもやるべきタスクにも忠実なので信頼はしているつもりだ。が、仕方ない、これもブラックボックス故なのである。

結果的に先生が伝えてくれたのは主に良いことばかりでホッとしたのだが、来月の運動会の応援団に立候補したと聞いてものすごくびっくりした。

先生から見ても意外だったらしく、けれど何でやる気になったの?と本人に聞くのも失礼だからご家庭で何か背中押されたのかなあと気になって、と興味津々といった顔の先生。背中も何も今初めてそれを聞いた私。

えー!とお互い本気で驚いたのだが、さらに応援団の立候補がなければリレー選手に内定していたことも、学校全体で取り組んでいる活動でクラスの代表を務めていることも、私はその場で初めて聞いた。

いや言ってくれよ…と呆れるしかなかったが、らしいなあとは思う。彼のなかでは学校生活の一コマだったんだろう。

コツコツ努力できてそれが確実に勉強にも繋がっているし、責任感も強くてクラスの縁の下の力持ち。読解力に優れていて特に国語は得意。友達関係も上手というかトラブルもないし、心配がないのが逆に心配で、家での様子をぜひお聞きしたい。

若く熱意がある先生の話を聞きながら、嬉しく思う反面、ところどころ自分の知らない誰かの話を聞いている気分になって違和感を覚えた。これは、初めての感覚かもしれない。

これから先、私の中の長男と外での長男が少しずつ違う印象になっていくとしたら、その入り口に立ったような面談だった。

帰り道、秋の日差しで柔らかく光る校庭を横切りながら、これはもう覚悟を決めよう、と思った。彼は彼の世界で生きていくのだ。きっと自分で道を見つけて、自分で決めてしまうだろう。そこに親の入る余地なんて、ないに等しい。

そう、忘れていたけど頑固でもあるし、彼は。
夫曰く私に似て。

家では困り事を抱えている印象はないし基本的には彼を信頼している。ただしプライドも出てきたし、距離感を探りながら日々を過ごしている感じで何が正解なのかはちっともわからない。本人の様子をよく見て、必要とあらば助けられるようにしておくことしかできていないと思う。

そうぼやいたら、先生がそのご指導が本人にとても合っていると思うんです、とえらく褒めてくれたのだが、まさか指導どころか毎晩酒を呑みながらスマホで答え合わせをして宿題を見ているとはさすがの私も言えない。

生徒が教えて育つことを何より楽しんでくれている歴代の担任の先生方と、たまたま通うことになった昔ながらの寺子屋のような塾でのびのび学ばせてもらっているから勉強も今のところ苦手意識を持たず取り組めているんだと思う。

責任感やらコツコツやらは彼自身の資質と努力によるものであって、私の指導なぞ1ミリも顔を出していない。私があやかりたいくらいだ。せめて親の矜持として彼のSOSを見落とさないように気をつけたいところである。

えてして個人面談の期間は被るもので、その翌日が保育園の面談であった。性格がまったく違う彼らは面談で言われることも常に正反対で、同じお腹から出てきて何故こうなる、と毎回首を傾げることになる。

性格が違うからこそウマが合う部分があるのか、末っ子が大きくなってきた最近は二人で同じ遊びをできるようになり、気がつくと二人でゲラゲラ笑い転げて遊んでいたりする。

幸せとしか言いようのない光景に毎回ああもう親孝行ありがとう、お腹いっぱいです、という気持ちになる。きっとこんなのはほんの一瞬で、すぐにそれぞれの道に歩いていってしまうのだろう。

背中を見失わないように、彼らが振り返ったときにそこに立っていられるように。

ささやかな、けれども何より大事な私の目標だ。きっと大丈夫。先生方をはじめとして、子どもたちを支えてくれる人たちがたくさんいる。私の大事な伴走者。

頼れる伴走者に出会えたこと。

それだけは私の人運だといってもいいんじゃないかと密かに胸を張っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?