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大きな友人は、いつもここにいる ~人喰いの大鷲トリコ~

僕は好きなものを書く時、どうしても段落に分けることができない。
とても長い文章になってしまうが、時間のある方はお付き合いいただきたい。

僕はFPSのようなスポーツ的な要素の濃いゲームではなく、ストーリーが精密に練られ、まるで映画のような世界を"体験"できる作品が好きだ。

小島秀夫監督が作るハードでソリッドな世界も大好きだが、"関係性"を描いた柔らかくて優しいゲームクリエイターで、僕が大好きな人がいる。

『ICO』、『ワンダと巨像』を世に送り出した、上田文人氏である。

2016年のE3のことは、4年経った今でも覚えている。
世界に一人飛び出した監督が、全く新しいゲームを作り出したという感動と、
もう作られてはいないだろうと思われていたゲームが、発売間近であることが伝えられた嬉しさに、
だた座ってその様子を納めた動画を眺めている僕の胸は熱くなった。

そのタイトルこそ、先日記事に書き起こした「DEATH STRANDING」と、
この記事のタイトルに挙げている『人喰いの大鷲トリコ』である。

『ICO』をプレイしたときには"手を繋いで、誰かを守る"ことに一生懸命になれたし、
『ワンダと巨像』をプレイした時には"敵を探して、体をよじ登り、剣を突き刺す"というシンプルなゲーム性にグイグイと引き込まれた。
PS2,3,4のバージョンを全てやりこんだので、どのゲームよりも長い期間心を捕まれ続けている作品だ。

『人喰いの大鷲トリコ』のティザームービーで、大鷲トリコの体をおおう羽根の細やかさと、存在していると錯覚してしまうほどの息遣いに驚き、
コントローラを握る前にもう大好きになってしまった。

発売の告知があった翌日にはすぐに予約して、
発売に合わせてPS4を買った。

半年近く待ったゲームディスクを入れる時、期待と緊張で指先が震えた。

このゲームでプレイヤーは少年となり、見知らぬ檻に共に閉じ込められていた"大鷲"と力を合わせ、広いダンジョンから脱出するといった内容になる。

最初、どうして自分がここにいるかは、プレイヤーに一切明かされない。
なぜならその少年も覚えていないからである。

どうすればいいんだろうと大きな不安に駆られた時、大きな獣の息遣いが聞こえてくる。左右のスティックを操作して、よく辺りに目を凝らす。

暗闇に紛れるように、"大鷲"トリコは"いた"。

鳥と犬と猫を足していいところだけ残したような巨大な生き物は、
薄いガラスの板に隔てられた2次元と3次元を飛び越えて、
この世界に"存在していた"。

深い響きを含んだ大きな呼吸の音、
何かに気づいてふとどこかに顔を向ける仕草は、
"巨大な動物が目の前にいる"と実感するに十分なものだった。

しばらく操作もせずに画面を見つめていると、
トリコが体をかがめ、こちらのことなど気にもかけないように眠り始めた。

そう、彼(彼女?)は寝るのである。

そして、このゲームには素晴らしい機能がある。
それこそが”撫でる”コマンドだった。

目をつむったトリコの顔に近づき、僕は恐る恐る手を伸ばした。

鳥のような羽根に両手が埋まっているのをみたときは、
インコに体ごと埋まりたいという夢がかなったような心地だった。

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古城のようなダンジョンを抜けるのに必要なギミックがこれまた巧妙にできていて、僕とトリコどちらかでは攻略できないように設計されている。

最初は僕の全身を使ったジェスチャーに興味を示さなかったトリコも、
次第にこちらの言いたいことを理解してくれるようになる。

ゲームを進めている間、何度も寄り道をして風に吹かれたり、
寝ているトリコに埋まって一緒にうたた寝をしたりした。

まるで心が繋がった親友のようだった。

そして、クライマックス。

ぜひプレイして欲しいので詳細は言わないが、
僕はそのシーンでプレイアブルになった時に咽び泣いた。

自分だけが知っている真実を伝えることができないもどかしさ、辛さ、悲しさが一緒くたになり、鼻を垂らしながらボタンを押し続けた。

物語が終わり、エンドロールが流れ出す。

クレジットと一緒に映し出されていたのは、トリコと歩んだ冒険の映像だった。

そのいくつかには、僕の背中が映っていた。
トリコの目にも僕がちゃんと映っていたのだ。

それに気づいた時、僕はクッションを抱きしめてまた咽び泣いた。
言葉が通じなくても、生き物のかたちが違っても、
確かに僕たちは友達だったのだ。

エンドロールが終わり、サントラの中で一番好きな曲とともにある映像が映し出され、画面に”おわり”の三文字が浮かぶ。

その時からもう3年経つが、今でも心の中には大きな獣の友人がいる。

これから先、歳を重ねて暮らしが変わっていったとしても、
読み聞かせに使う童話の本のように、このゲームは心に残っていくと思う。

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