見出し画像

まぶた閉じて浮かべているよ

今、鼻に涙の気配を感じながら、少しぼやけてしまった視界の中でこれを書いている。

フジファブリックの楽曲「若者のすべて」が、
令和4年度の音楽の教科書に収録されることになった。

この歌を世に生み出した、Vo/Gt 志村正彦さんは12年前にこの世を去っている。

リードギターだった山内総一郎さんがボーカルを引き継ぎ、ベースの加藤慎一さん、キーボードの金澤ダイスケさんの3人体制で、
バンド「フジファブリック」は生き続けてきた。

新しい音楽へのアプローチを継続しながら、志村さんが遺した曲を12年繋いできた。

そして、"世代を問わずに心に響く名曲"として評価され、近年爆発的な人気を誇った「Lemon」と、日本のポップスの原典と言って過言ではない「君は天然色」と並び、音楽の教科書に採用されたのである。

短い夏が終わりに差し掛かっているのに、未だ騒がしい街の様子。

寂しさと高揚の間で揺れて感傷的になった心に夕方5時のチャイムが響き、
自分にとって今年最後の花火があがる夜が始まる。

過ぎてしまった時を思い出しながら、何かが起こる予感に少しだけ浮き足立って、
それでもそんなことあるわけないよ、いやしかしあるかもよ、と考えを巡らせながら、思い出に映る場所へ歩き続ける。

"あの頃"に戻れない切なさと"これから"へのちょっとの期待が見え隠れする、はっきりしなくてもどかしいような気持ち。

この気持ちがわかる人はたくさんいるはずだ。

2007年に両国国技館で行われたライブで、
志村さんはこの曲について、
「立ち止まって考えるよりも、音楽とか聴きながら、歩きながら考える方がいいって最近気がついた」
という内容のことを語っている。

すりむいたまま 僕はそっと歩き出して

(若者のすべて より)

でも、痛みなんか気にしないぜ!なんて気持ちよくなることは一切言わない。

痛みにもしっかり向き合いながら、そっと 歩いていくのだ。

この人が作る曲には、独特の柔らかさがあるように感じている。

それは、歌詞のほとんどが口語で紡がれているからなのか、
ちょっとだけ背伸びきらない歌い方によるものなのか、
僕にははっきりとしたことは分析できない。

でもどの曲も、心の中をそのまま曝け出していて、
そのすべてが心に刺さってしまうのだ。

14年という年月を経て、
静かに多くの人の心を動かしてきた「若者のすべて」が、
志村さんの死後もなお「フジファブリック」によって奏でられ、
「茜色の夕日」が書かれた時期の年齢、18歳に近い年代の人が触れること。

その繋がりが奇跡のようでなんだか嬉しくなって、
今まさに鼻水をズビズビ言わせながらこれを書いているのである。

そして、すごいことにフジファブリックは止まっていない。

「あなたの知らない僕がいる」という曲は、
その素晴らしさが詰まったような響きに満ちている
と、勝手に思っている。

どんなに世界が変わってしまっても、
今までと同じように真夏のピークは去る。

来年の高校生たちは花火を観られるだろうか。
いや、観られるようにせねばなるまい。

この曲を知って最初に観る花火を、
ぜひ味わって欲しいなと切に願っている。






この記事が参加している募集

思い出の曲

ここまで読んでいただきありがとうございました. よろしければフォロー/投げ銭お願いいたします.