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夏のおすそ分け

いま、うちの冷蔵庫の中には、見慣れないものが入っている。

「たくさんもらったんだけどね。うちでは飲み切れないかもしれないからもらってくれる?」

おむかえのお家から、おすそ分けの品をたくさんいただいた。

わが家の食生活はかなり保守的だ。だいたい同じスーパーに行って決まった食材を購入する。ときどきちがったスーパーに行っても、決まった食材ばかりを買ってしまう。季節の野菜や果物なんかは、その時々の旬に応じて購入したり、いまなら夏野菜が割高だから、傷んでしまわないように吟味する。

ただ、調味料とか加工品、乳製品については指定したものばかり。そのため冷蔵庫の中には見慣れた食材ばかりが詰められている。

だからこそ、ときおりご近所の方からいただくおすそ分けで、冷蔵庫の中が華やいでみえる。

昨年度、町内会の役員を一緒にしたことで、お向かいの方と一段階仲良くなれた。

お向かいには老夫婦がお住まいだ。十年も暮らしていたのに、旦那さんはお見掛けするものの、奥様の姿をはっきりと捉えたことがなかった。ときおり、旦那さんがどちらかへ送り迎えしている様子は見ていたのだけれど、しっかり話をしたことはなかった。

いつだったか、旦那さんがお知り合いの方と「最近、奥さまどうしてらっしゃる?」「いえいえ。まあ、おかげさまで相変わらずです」と会話しているのを小耳にはさんだ。そのため「奥様は(きっと)お身体の調子が悪くって、あまりお庭に出たりされないんだな」と勝手に思い込みつづけていた。

しかし、昨年町内会の役員のためにいろいろとお話しする機会があり、私の思い込みは、単なる思い込みで、まったくの妄想だったことが判明した。

奥さまはものすごくスポーツに打ち込んでおられ、全国大会に出場したり、合宿に参加されていた。そのため一年の半分くらいは自宅で過ごしていないと教えてくださった。昨年はその活動もできないから……と、お庭でトレーニングをする姿を何度もお見かけし、「私たちよりお元気だよね」と夫と何度もうなずきあった。

アスリートの奥様は食事管理も徹底していると、お話しされていた。

「たくさんいただいたけど、高齢者ふたりでは食べきれないからね」といいながらも有機野菜や手作りのお漬物などをわが家におすそ分けしてくださることがふえた。

今年の夏も「シソジュース、今年もたくさんいただいたからもらってちょうだい!」とおすそ分けしてくださった。いただいてばかりだからと、わが家も、ちょうど届いた大ぶりの梨をお持ちした。そうしたら「ちょっとまって!」とまたお漬物をいただいてしまう……。

おすそ分けのお礼をお届けしているのに、手ぶらで帰してもらえない。ありがたいなと思いつつ、ちょっぴり申し訳ない。

ただ、普段なら購入しない奈良漬やら、市販品を見たことがないシソジュースや地方のめずらしいおやつが、わが家にやってきて食卓に変化をもたらしてくれる。

夏のおすそ分けシーズンがいったん落ち着いたので、また秋に向けてわが家も何か美味しいものをおすそ分けできるよう。干渉したり、詮索し合うわけではない、ご近所のお付き合いがこれからも続くといいなと願う。



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